『まち歩きが楽しくなる 水路上観察入門』
街の片隅にある人と水の営み
「かつての水面が地面になったもの、それが“水路上”である。」本書は、街なかにあったり、蓋をされて地下に埋められた川や水路の上を「路上」ならぬ「水路上」と捉え、路上観察のヒントを紹介する一冊だ。著者は本誌でもおなじみ・暗渠マニアックスの吉村生(なま)氏と高山英男氏。2部構成となっており、吉村氏が第1部、高山氏が第2部を手掛ける。実はそれぞれで"水路上"に対するアプローチが異なっており、両者の視点の違いにもぜひ注目してみてほしい。
ここに登場するのは住宅地の細い路地や民家の前に設けられた小さな段差、駐輪場、細長い公園、道路の亀裂、ガードレールになった橋の欄干など、いわゆる生活圏の「何の変哲もない場所」ばかり。しかしそれらの成り立ちや現在に至るまでの経緯を紐解(ひもと)けば、都市の小さな歴史を手に取ることができる。大層な観光地ではなく、何の変哲もないと思い込んでいた場所にも積み重なってきた時間や人の営みがあることを気付かせてくれるのだ。
なお本書には、過去の水路が駐輪場や公園に姿を変えたこと=「水路ンダリング」、水路上との隙間を埋めるために周辺住民が設置したミニ階段=「自前階段」など、思わず近所で探してみたくなる楽しい造語が盛りだくさん。一冊読み切るころには、“水路上”を発見するためのアンテナが自然と身についているはず! 何気なく歩いていた道も、「ここはもしかして“水路上”だったのでは?」なんて想像することで、なんともいとおしい風景に大変身する。(吉岡)
『「㐂寿司(きずし)」のすべて。』
人形町の名店『㐂寿司』の1年を追ったルポ。仕入れに始まり、〆る・煮る・漬けるといった、海の幸に合わせた江戸前鮨伝統の妙技を、ありありと堪能できる。そこにあるのは四季を重んじる心であり、なによりお客さんに好きなものを食べてもらいたいという職人の心意気なのだ。日本に生まれてよかったと思える一冊。(高橋)
『花街の引力 東京の三業地、赤線跡を歩く』
花街、三業地、赤線跡など、東京のかつての夜の歓楽街を歩き、昭和時代の地図や写真とともに街の歴史を紐解く。三業地、二業地は東京区部だけで最盛期は46カ所あったというが、本書では二子玉川や平井など、中でもあまり知られていない場所を紹介。特に各街の昔の地図や写真が貴重で、つい読み込んでしまった。(土屋)
『広重の浮世絵と地形で読み解く 江戸の秘密』
歌川広重が残した江戸の描写と土木・河川に精通した作者の知識が、時を超えてここに集結。地形や歴史背景を踏まえ、浮世絵から当時の日本人のアイデンティティーやネットワーク、エネルギー事情までを分析する様はまさに謎解きで、観る・考える面白さが詰まっている。装丁も美しく、散歩の参考書的に保存したい一冊だ。(町田)
『散歩の達人』2021年6月号より