『隈研吾建築図鑑』

隈建築の変遷をイラストでたどる

宮沢 洋 画・文/ 日経BP/ 2640円+税

今や知らぬ人はいないであろう建築家・隈研吾。これは、長年建築専門誌に携わってきた著者が、約60点の隈の建築をイラストで詳細に図解し、隈建築の変遷をたどると共に、「鑑賞の目」を与えてくれる一冊だ。
著者のユニークな点は、隈の建築群を「びっくり系」「しっとり系」「ふんわり系」「ひっそり系」の4つに分類しているところ。特に「ふんわり系」は、「日常をより楽しくするもの」とし、あまり有名建築家が手掛けてきた領域ではないが、近年の隈の活躍が光るという。
最近私が訪れた中では、「京王線高尾山口駅」がこれに分類されていた。利用客のほぼ全員が登山客という単純明快な地に建築の力で付け加えたのは、「登りたくなる」高揚感だ。「結界」をイメージしたというひだ状の木の意匠には、たしかに人々を異界へと誘うような生気があった。本件はリノベーションであり、駅としての機能が大きく変化したわけではないが、建築にはじわじわと利用者の心に作用する力があるのだと、改めて認識させられた。
ところで、名のある建築家と聞くと、建築物を通してどう自己表現するかに重きを置いているようなイメージを持つ方も多いのではないだろうか。しかし、隈はインタビューの中で「人に喜んでもらうことが絶対条件」ときっぱり語る。そして、建築が作品志向に陥ることに警鐘を鳴らしている。その言葉から、なぜ彼がこれほどまでに世間から受け入れられる存在となったのかを、うかがい知れる。(高橋)

『暮らしと祈りの手仕事 世界の美しい民藝』

巧藝舎 著/ グラフィック社/ 2200円+税

横浜で長年、世界の民藝品を扱ってきた『巧藝舎』のコレクション320点が大集合。中南米、アフリカ、アジアの陶器や布、彫刻……。各地の生活に根差した品々は作り手や街の息吹を伝えるがごとく力強く、美しく、その物語も相まって引きつけられる。1980年代のスナップ写真も味わい深く、とにかく旅行欲がそそられる。(町田)

『子どもと楽しむ 草花のひみつ』

稲垣栄洋 著 ヒダカナオト イラスト/ エクスナレッジ/ 1540円+税

踏まれることで育つ四つ葉のクローバー、他の植物と違う伸び方で成功を収めたコニシキソウ、など、草花30種の「子育て」にまつわるエピソードを、ほがらかなイラストとともに紹介。登場するのはどれも散歩の途中で見つけられそうな身近な植物ばかり。植物の生き方を知ることで、家族へのまなざしがより深まるかも。(吉岡)

『兵六 ――風を感じるこだわりの居酒屋』

柴山雅都 著/ 新評論/ 2200円+税

神保町で70年以上続く名酒場『兵六』の歴史・秘話・魅力を初代亭主の甥であり、3代目亭主の著者が紐解く。厳格だった初代の人物像から「兵六憲法」、そして自らが亭主となってからの日々が、気取りない文章でつづられている。初代を知らない世代も、なぜこの店がこんなに凛としつつも居心地がいいのかがわかるはずだ。(土屋)

『散歩の達人』2021年7月号より

『散歩の達人』本誌では毎月、「今月のサンポマスター本」と称して編集部おすすめの本を紹介している。2020年も年の瀬にさしかかり、いよいよそれを一斉公開する時が来たと言えよう。ひと月1冊、選りすぐりの12冊を年末年始のお供に加えていただければ幸いである。