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元々、美容が大好きで、20代の頃はバカ高いデパートコスメを買い漁っていた。朝晩、入念に肌の手入れをし、日焼け止めは365日欠かさず塗っていた。しかし30代になるとなんとなく興味が薄れたというか、面倒くさくなったというか、「べつにわたしが綺麗(きれい)になろうが醜かろうが、世界は回る」という心境になり、とことん手を抜くようになった。

体型に関しても、昔は「50kg超えたら人に会わない」というルールを自分に課し、100gでもオーバーしたときは人との約束をキャンセルしていた。しかし50kgなんていまは幻。ぶくぶく太って、昔の面影はどこにもない。

一昨年(2022年)、本を出版した際、テレビ出演のオファーがあり、「自分史上最高の自分になろう」と決めた。“女磨き”という言葉はどうしても好きになれないが、徹底的に女磨きをした。収録まで2カ月あったため、ダイエット(5kg減った)、エステ、歯のホワイトニング、美容院、まつ毛エクステ、ネイル……やれることはすべてやった。当日はプロのメイクさんにばっちりヘアメイクしてもらい、番組を観た友人知人からは「別人!」「やればできるじゃん!」と絶賛された。いまでもYouTubeに映像が残っているため、ときどき見返しては悦に入っている。

あのときの経験から、「本気を出せばそこそこ綺麗になれる」という自信はある。『クロワッサン』の対談まで2週間。今回も本気を出して女磨きをしようと決めた。

しかし猛ダイエットしたものの、減ったのはわずか300g。エステに行ったら肌に合わず、顔が真っ赤に腫れ上がった。せめて髪だけでもと気合を入れて美容院に行ったのだが、Netflixのドラマ『極悪女王』にハマっていたため、80年代レトロへの憧れを抑えられず、ついくるくるパーマにしてしまった。せめて、せめて、服だけはいいものを着ようとジャケットを新調したら、直前に「プロレスTシャツを着てきてください」という連絡があり、泣く泣くジャケットはクローゼットに仕舞(しま)った。

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対談の相手は、美容ライターの長田杏奈さん。初めてお会いしたが、華奢で美しい方だった。化粧っ気はあまりなく、あくまで自然体。天真爛漫で人当たりもよく、内面から滲(にじ)み出る美しさがあった。こういう人が本当に美しいのであって、「対談のために2週間だけ死ぬ気で頑張ろう!」と躍起になったところで、そんなはりぼての美しさでは太刀打ちできないと我に返った。

わたしは元々、虚弱体質だし、気にしいでネガティブ。以前はそんな自分の弱さを持て余していたけれど、プロレスに出会ってから、弱いことはべつに悪いことじゃないんだと思えるようになった。そんな話をした。

ライターとしては、どちらかと言うと昔から自分のことを赤裸々に書くタイプではあった。しかしどうにも中途半端で、詰めが甘かった。書くなら徹底的にさらけ出したほうが潔い。そう思うようになったのは、プロレスラーがこれでもかと自分の感情を露にして闘う姿に美しさを感じたからだ。

プロレスは敗者に光が当たるスポーツである。負けっぱなしの人生を送っている自分にも、光が当たるような気がした。いまの「ライター尾崎ムギ子」があるのは、すべてプロレスのお陰である。

長田さんとプロレスの魅力を語り合っている間、自分を着飾ることなく、ゲラゲラ笑い、ただただ楽しい時間を過ごした。

後日、編集部から送られてきた写真を見て、驚いた。写っているのはいつも通りの小太りのわたしだが、大好きな中野たむ選手のTシャツを着て、とても楽しそうに笑っている。美醜で言ったら決して美しいとは言えないかもしれないが、まあ、こういうのもいいんじゃないかと思えた。40kg台を必死にキープしていた頃の自分はもうどこにもいないけれど、日々、楽しく食べて飲んで、笑っているいまのわたしはこうして存在している。そういう自分をそろそろ受け入れてあげてもいいんじゃないかと思えた。

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人は確実に年を取る。顔には皺ができるし、ダイエットをしても痩せにくくなる。若々しくあろう、美しくあろうと努力するのは素晴らしいことだが、あまりにも美に執着するとギスギスした顔になり、本末転倒になりがちだ。この年になると、内面は如実に顔に出る。

たまには人に写真を撮ってもらうといいかもしれない。そこに写る自分が楽しそうに笑えていれば、とりあえずはよしとしようじゃないか。

文・イラスト=尾崎ムギ子

早めの5月病だろうか。4月半ばから一切のやる気がなくなった。とくに仕事に情熱が持てない。情熱だけで記事を書いているわたしは、困り果ててしまった。
しばらく趣味のプロレス観戦を控えていた。雑念恐怖症の症状がひどくなってきたためである。雑念恐怖症とは強迫性障害の一種で、文字通り雑念にとらわれる症状のこと。雑念にとらわれるがあまり、物事をうまく進めることができないのだ。
2023年11月末、プロレスリング我闘雲舞が運営するプロレス教室「誰でも女子プロレス」(通称「ダレジョ」)に参加してきた。純粋にプロレスを体験したかったというのもあるが、お目当てはコーチの駿河メイ選手。9月に鈴木みのる選手とのシングルマッチを観て以来、わたしはメイ選手にぞっこんなのだ。148cmという小柄な体で、リング内外を縦横無尽に飛び回る。アクロバティックでハイスピード。なによりだれと闘っても“駿河メイの試合”にしてしまうのが本当にすごい。メイ選手の試合を初めて間近で観たとき、びっくりして泣いてしまった。人は天才を目の前にすると泣いてしまう。そんな感じだった。メイ選手直々にプロレスを教えてもらえるとあっては、行かないわけにはいかない。始まるまで怖くてたまらなかったが、どうにか逃げ出さずに会場へ向かった。