一緒に歩くのは……石川 勝さん
不動産専門家集団の「東京カンテイ」でマンションの評価・調査を担当する、不動産鑑定士。中古マンションに特化した評価方法で複数の特許を取得! 街歩きとともにおすすめマンションを巡る企画を行う、マンションさんぽの達人でもある。「東京カンテイマンションライブラリ」内ではブログ「今週のチラ見物件」を連載、駅で待ち合わせて周辺環境を紹介しながらマンションまで案内するというバーチャルな体験をWEB上で展開している。「選ぶまえに知っておきたいマンションの常識 基礎編」「選ぶまえに知っておきたいマンションの常識 実践編」を監修・執筆。

巨大公園を我が家の庭に!

京急大森海岸駅は品川区、JR大森駅は大田区に位置する。大森の街は2つの区にまたがっているのだが、どちらに住んでも、しながわ区民公園は絶好の憩いの場となるだろう。

大森海岸駅から徒歩7分。東京ドーム2.7個分の広大な敷地に、噴水の人工池、プールや釣り堀、豊富な遊具のある公園やキャンプ場など、実に盛りだくさんの施設がそろう。

海水を引き込んだ人工池にはボラやハゼが見られる。周囲は緑が豊かで、絶好の散策スポットだ。

なかでも目玉は『しながわ水族館』。イルカやアザラシのショー、間近で見ることのできるペンギンランド、地元の品川の海を再現したジオラマ水槽などでたっぷり楽しめる。

品川区在住・在勤・在学なら大人800円で入館可(各自要証明。HPにて確認を)。さんぽ感覚で、海の生き物に会いに行ける。

水族館の花形イルカショー。通常は1日3〜4回開催される。

近隣には、公園を見下ろすように高層マンションがずらり。23階建ての「シティタワー品川パークフロント」が、ひときわ高くそびえる。

「2棟が直角に配置されており、公園を望む東向きと採光に恵まれる南向き住戸で構成されています。コンシェルジュサービスやキッズルーム、屋上のスカイデッキなど、サービス・施設も充実しています」と石川さん。

ここに住めば、区民公園を我が家の庭のように使えるはずだ。アスレチックで子どもと遊んだり、ジョギングやサイクリングで爽やかな朝を過ごしたり、はたまたマンション屋上から東京湾の夜景に見とれたり—— 充実のシーサイドライフを妄想すると、街歩きのテンションも上がる。

埋立地や工場跡が開発された大森海岸周辺は、大区画の商業施設やマンションが多い。駅前には総合スーパーに飲食店&専門店街を併設したイトーヨーカドー大森店。裏手には石川さんイチオシ、全565戸の「大森プロストシティレジデンス」がそびえる。

アサヒビール工場の跡地に作られたイトーヨーカドー大森店。大森に住めば重要な生活の核になることは間違いない。
「『大森プロストシティレジデンス』は、スケールメリットを生かした快適性と利便性が特徴です。スカイラウンジ、パーティルーム、シアタールーム、保育施設など共用施設が大変充実しています」と石川さん。

懐かしき大衆カルチャーにどっぷりつかる

大森海岸駅から直線距離で600mほどの大森駅周辺は、東西でまったく様相が変わる。ざっくり言えば、東の海岸側は大衆の繁華街、西の丘陵側は閑静な住宅街だ。

「以前は男性のお客様が多かったですね」と、東口徒歩3分『珈琲亭ルアン』の店主・宮沢孝昌さん。

繁華街の一角に、ノスタルジックなたたずまいで存在感を放つ。1971年創業のコーヒー専門店だ。

海岸側は京浜工業地帯の一角として、企業の大規模な工場が今より多かった。大井競馬場や平和島競艇の客が往来するなど、長らく大人の男性の街だったのだ(東京有数と言われる花街もあった)。

今でも古くからの大衆酒場など、往時を感じさせるスポットが点在し、『ルアン』もそのひとつだ。アンティーク調の調度類が「これでもか」と並べられた店内でくつろげば、どこか異世界の館に迷い込んだかのよう。

本格的なコーヒーと、趣深い空間が多くのファンに愛される。ドラマのロケに利用されることも多い。

同時に、ファミリー向けのマンションや商業施設が多くなり、街は着実に変化している。同店も特に2018年に全面禁煙にしてからは、女性客が増えたという。

かつて大衆でにぎわった街はその面影を残しながら、より幅広い人に門戸を開いている。

また、東口駅前広場にほど近い『キネカ大森』も、懐かしい大衆カルチャーを味わえるスポットのひとつ。1983年にオープンした日本初のシネコンだ。

3館のうち2館は通常のロードショウを上映するが、1館は「名画座2本立て」を上映。過去の名画2作品を、週替りのテーマに沿って上映する。(写真提供=キネカ大森)

文士の気分で住宅街をそぞろ歩く

JR大森駅の西、丘陵側の山王エリアには、明治から多くの文人や芸術家が住み着いた。特に、関東大震災で都心が壊滅的な被害を受けると、その動きに拍車がかかった。

JR大森駅西口の駅前。駅前広場の前に大きな駅ビルがそびえる東口とは、がらりと印象が変わる。

彼らは活発に交流し、いつしか一帯は「馬込文士村」と呼ばれるように。住人には、川端康成、谷崎潤一郎、北原白秋、室生犀星、萩原朔太郎など、そうそうたるメンバーが名を連ねる。

JR大森駅西口目の前の神明山天祖神社の下には、文士たちのレリーフが刻まれる。坂を登れば、かつての馬込文士村へ。

今では、同じ大田区の田園調布と並ぶ、都内屈指の高級住宅街が広がる。地形に沿ってつくられたであろう、急な坂道や入り組んだ小道を歩いていると、タイムスリップしたような感覚にとらわれる。

木々と石垣の間を抜ける、その名も「闇坂(くらやみざか)」。昭和の文士たちも往来していたに違いない。

近代的なマンションも文士村の趣を壊さない。文士になったつもりで“住んでいる気分で歩く”醍醐味を味わおう。

「『プラウド山王』は、由緒ある屋敷跡地に、その趣を継承しつつ、今の時代にふさわしい邸宅を目指して建てられました」と石川さん。

「瓦屋根は鎧タイルに、木製格子は石のルーバーにするなど、昔ながらのマテリアルを現代風にアレンジしています」と石川さん。

大森山王館八景園」は、坂の上にかつてあった「八景園」という遊園地・料亭からその名称をとった。今はビルに遮られてしまっているが、かつての山王は、海岸から遠く房総まで見渡せる景勝地だった。

「まさに迎賓の雰囲気を漂わせるヴィンテージマンション」と石川さん。

高台の山王エリアを望むように建つ「パークタワー山王」なら、かつての山王と同じく、いやそれ以上の眺めを楽しめるだろう。

地上24階・全187邸の“タワーレジデンス”。屋上テラスも備えている。

現実にはなかなか手は出せないが、妄想の中だけでもタワーマンションの住人になってみる。だんだんと東京湾の絶景が、眼下に広がってくるような……。

ちなみに、大森といえば貝塚が有名。大森駅西側のビルの谷間に石碑が立つ。大森住人になるなら、考古学ロマンを体感しておくのも悪くない。

読んでから飲むか、飲んでから読むか

丘陵側には海岸側のような繁華街はない。小さな専門店が並ぶ昔ながらの商店街が、高級住宅街の暮らしを支えてくれる。

「人の顔が見える商店街です」とは、大森山王ブルワリーの町田佳路さん。直営の『Hi-Time』にて瓶販売やドラフトビールの量り売りを行っている。

商店街の一角にWeb制作会社を立ち上げ、2021年でおよそ10年。「地元にかかわるビジネスがしたかった」と、大森発のクラフトビールづくりをはじめた。

『BAR Tenderly』や『吟吟』など、近隣の人気飲食店でも大森山王ビールが飲める。

オリジナルビール第1弾の「GEORGE(ジョージ)」「NAOMI(ナオミ)」は、大森が舞台となった谷崎潤一郎の「痴人の愛」の世界観を表現している。どちらも、小説の登場人物の名前だ。「GEORGE」は愛媛の伊予柑を使用し、甘酸っぱい恋心を表現したという。ビールと小説を合わせて味わえば、まさにこの大森で、自由奔放なナオミに翻弄されるジョージの姿が、より鮮明にイメージできるかもしれない。

看板メニューは、国産小麦と白神山地酵母をつかった食パンの「松明」。通常より一晩長く熟成させる「湯種製法」により、もっちりとした食感に仕上がる。

トーチ ドット ベーカリー』も、商店街で“顔が見える”名店のひとつだ。オーナーシェフの松本喜樹さんが生み出す多彩なパンを目当てに、取材中もご近所様らしき常連やファミリー客が絶えなかった。

中には1万円分近くを“爆買い”するマダムも。昭和の文士たちが生きていたら、小説やエッセーにたびたび登場する名物グルメとなったに違いない。

楽しみを発掘できる街

「この街に住んだらどんな暮らしが待っているだろう?」

考えながら歩くと、毎日触れて楽しいモノや体験を発見できる。

例えば、『トーチ ドッド ベーカリー』のパンは、食事やおやつだけでなく、“つまみ”としての魅力を開拓したい。松本さんが個人的にすすめてくれた「茎わかめとわさびマヨネーズのパン」など、ビールやワインに合いそうな総菜パンが実に多彩だ。

茎わかめの食感と香りが楽しい斬新な『トーチ ドッド ベーカリー』のパンと、ほのかな甘味の大森山王ブルワリー「NAOMI」は相性抜群。

また、しながわ区民公園の見晴台は、お気に入りのテレワークスポットにしたい。実際に本稿を執筆してみたが、ローチェアに深く腰を下ろし、噴水を眺めながらの作業は実に気持ちがいい。

行き詰まったとき、2〜3時間でも環境を変えれば、良いアイデアがうまれてきそう。

山あり、海あり、そして文化の香り豊かな大森エリア。多彩な街の表情を楽しみながら、旅するような暮らしが待っている。

マンションライブラリ
【大森~大森海岸編】アカデミックとエンターテイメントの2つの顔を持つ街!西には文豪たちにも愛された丘陵地「山王」で気品あふれるマンション、 東はリバーサイド「大森海岸」で水族館や水景が臨めるマンション。あなたは、どちらがお好み?

紹介したスポットの詳細

住所:東京都品川区勝島3-2-2/アクセス:京急大森海岸駅から徒歩7分
住所:東京都品川区勝島3-2-1(しながわ区民公園内)/営業時間:10:00〜17:00/定休日:火(祝日や夏休みなどは開館)/アクセス:京急大森海岸駅より徒歩8分、JR大井町駅より無料送迎バスで15分
住所:東京都品川区南大井 6-27-25 西友大森店 5F/営業時間:開演15分前に開館(詳しくはHPを確認)/定休日:不定/アクセス:JR京浜東北線大森駅より徒歩3分
住所:東京都大田区大森北1-36-2/営業時間:7:00~19:00(日・祝は7:30~18:00)/定休日:木/アクセス:JR京浜東北線大森駅より徒歩3分
住所:東京都大田区山王3-1-2/営業時間:15:00〜20:00(土・日・祝は12:00〜19:00)/定休日:火/アクセス:JR京浜東北線大森駅より徒歩6分
住所:東京都大田区山王3-28-3/営業時間:10:00〜19:00(土・日・祝は~18:00)/定休日:月(祝の場合は翌日)/アクセス:JR京浜東北線大森駅より徒歩6分

紹介したマンションの詳細

シティタワー品川パークフロント
東京都品川区南大井2-10-6
大森プロストシティ レジデンス
東京都大田区大森北2-13-31
プラウド山王
東京都大田区山王3-33-16
大森山王館八景園
東京都大田区山王2-12-9
パークタワー山王
東京都大田区山王3-5-2

*イラストマップにある残りの5軒については、マンションライブラリをご覧ください。

 

取材・文・撮影=小越健典 イラスト=さとうみゆき