ラーメン好き2人が意気投合! 食べ歩きと独学で目指したラーメン作り
店を営むのは、イタリアン出身のオーナーと、元寿司職人の店長。2人とも若い頃に飲食店を経験し、その後、建設業に就いていた時に出会った。「2007年に、彼と出会って、ラーメンの話で意気投合したんです」とオーナー。すぐにお店を出そうという話になり、その3年後にはこの店を準備していたとか。鶏スープのラーメンを出そうと、関西などの地域で呼ばれるところの鶏=かしわから、店名も決めていた。
「『永福町大勝軒』が大好きで、自分たちの店のラーメンに活かせないかと思ったんです。店長と一緒に何度も食べに行って、“何年経ってもまた食べに行きたい”と思うえるこの味を覚えてもらいました」というオーナー。オーナーと店長の好みを合わせて試行錯誤しながら12年。実は2人とも、ラーメンを作るのは初めて。「オープン前からときどき、知人を呼んでラーメンを作ってきました」と、本業の傍らラーメンのスキルを磨いてきた。
12年かけて創り上げた地鶏と水のスープが旨い!
そうして辿り着いたのは、地鶏と水だけでとったスープ。奥久慈シャモのガラと東京シャモの丸鶏で炊いたベースのスープに、地鶏からとった鶏油、6種類の醤油を合わせたタレで仕上げたのが「かしわや蕎麦」。「鶏はいろいろ試しましたけど、自分たちが一番おいしいと思ったのが、この組み合わせでした」と、店長の山崎さん。さらに、同じスープに和の香味油を加えた「かし和や蕎麦」と、2つの味のラーメンが完成した。
基本のスープは1つ。仕込みなどの都合でスープを2つ作ることができなかったため、香味油で味を変えることにした。「鶏油に鯵節や本鰹など5種類の煮干しや節を加えて、2時間ほど低温で抽出して香味油を作ります」。山崎店長が見せてくれた香味油に期待が高まる。早速、店名を冠した「かし和や蕎麦」を、具がたっぷりのった特製でいただくことに。
レンゲにすくってひと口。オーナーの好きな『永福町大勝軒』の煮干しが効いた感じではなく、ほかのどの店とも違う、バランスのよいスープだ。
「僕らが作りたいラーメンを語り合ったとき、もうひとつイメージしたのが子供の頃から食べなれた昔ながらの中華そばです」というオーナーに、「店名に和が入っているから和を加えてみようと、いろいろ試してできあがった感じです」と山崎店長が続ける。息の合った2人の絶妙なハーモニーが、スープの味からも伝わってくる。
自家製麺のラーメン店に特注麺を依頼。チャーシューや卵、具材にもこだわる
麺は、懇意にしている自家製麺のラーメン店に依頼している。「このスープに合う、『かし和や』オリジナルの麺を打ってもらってます。製麺する際、麺の生地を折りたたみながら伸ばすんですけど、この硬さにするために通常の5倍くらい折り込んでもらってるんです。そうしないと麺がダレてスープに麺の味がかなり移ってしまうんですね」と、山崎店長。スープも麺も最後までおいしく味わってもらうため、考えられたこだわりだ。
豚と鶏のチャーシュー、雲吞と食べ進めるうちに、どの具材も一片の手抜きがないことがよく分かる。
「豚と鶏はそれぞれ信頼する精肉屋さんから仕入れてます。豚はSPFポークをメインに、ほかにもいい銘柄豚が入ることもあります。今日は群馬のあわ雪ポークですね」とオーナー。しっとりやわらかな肉に、思わず「おいしい」と声に出てしまった。
「自分たちが食べてもおいしいです(笑)。鶏は山梨から朝引きの鶏肉が届くので、朝から僕が調理します。どちらもチャーシューに使うにはもったいないくらい、いい肉なんですよ」と、山崎店長。
一期一会の銘柄豚と、まだみずみずしい鶏肉から作るチャーシュー。伝統製法の本みりんと、銘酒八海山で味付けする煮玉子など、とにかくどれも上質でおいしい。
おもしろいのがミネラルウォーターのサービス。お冷の代わりに冷蔵ケースから1本取り出してご自由に飲んでくださいとのこと。「コストはかかるけど衛生的だし、コップを洗う手間が省けて効率的かと思って。お客様もほぼ飲み切らずに持って帰っていただいてますね」とオーナー。
90代のお客様もいると聞いて年齢層が高く感じたが、意外と若い人も多く住む町だ。家族で来て、そのあと友だちを誘って再訪する高校生や、在宅勤務の方が週5日の営業のところ週4で来てくれたり、幅広い年齢層のお客様が通ってくれるという。
「オープンしたことを喜んでくださる近所の方が多くてびっくりしました」と、山崎店長。近所の方々が差し入れを持ってきてくれたり、居酒屋や銭湯、コーヒー店、ベーカリーの方が食べにきてくれたり、下町っぽいご近所づきあいがあるという。
「『ありがとう』『おいしかった』と言ってくださると、こちらこそありがとうございます! って心の底から思います。それに応えられるよう、おいしいラーメン作っていきます」と山崎店長。すでに新店とは思えない味だが、まだまだ完成ではないというオーナー。「もっと極めて、鶏水だったら『かし和や』さんと言われるようなラーメンを作っていきたいです」と続けた。
開業して間もない店ながら、毎日のように通う常連がいるのも頷ける。ラーメンはもちろん、ラーメン好きオーナーと店長が作る店の雰囲気も心地よい。
構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=大熊美智代