兄弟で力を合わせて開業、細部にこだわる空間作り
京王線府中駅から徒歩7分、JR武蔵野線府中本町駅から徒歩5分。煌々と灯りがともる2階建ての一軒家が『こぐま屋珈琲店』だ。神社の裏手ということもあり、まるで隠れ家のよう。
兄と弟との2人兄弟で店を始めたのは2012年のこと。コーヒーに携わる仕事をしていた弟の高橋健二さんが、「店を始めたい」と一念発起し、それを支える形で兄の大介さんも仕事を辞めて、店作りを手伝うことになった。
「当初は自宅も兼ねてここに店を建てたんです。喧騒感がなく、落ち着いた場所でここは神社も近いので景色も良い。お客様にとって居心地の良く過ごせる場所にしたかったんです」
1階のフロアは大人数の席を中心に、朗らかに談笑できる空間。ランチの時間やお茶どきの時間は、友人や仲間など複数連れの客で賑わう。
2階に広がるのは窓からの景色と光がここちよいカウンター席とテーブル席。小上がりになっている席はくつろげると、訪れる客から好評。兄・大介さんの心遣いから生まれたスタイルだ。
心地よい空間作りは立地や内装だけではない。一つひとつの食器やカトラリーにもこだわる。
「触れるものや盛り付けられている器も重要。それも含めて空間作りだと思うんです。例えばこのベルです。無骨なのか、温かみがあるかどうかでも感じ取れる心地よさは変わると思うのです。こういう細部も気持ちを巡らせています」
丁寧なネルドリップに、味にも見た目にも心を配るランチメニュー
コーヒーが得意な店だが、ランチも見逃すことはできない。
メニューは日替わりとリゾットメニューが揃う。日替わりメニューは週の初めにインスタグラムで公開。日替わりで主に提供するのはワンプレートのライスメニューや、煮込み料理やスープのついた定食がメインだ。季節を意識した料理のラインナップだけではなく、異国のテイストを織り込み、オーソドックスに少しの変化を加えるのが特徴だ。明るく鮮やかな色味を意識した盛り付けは、まさにインスタ映え。訪れる女性客の心をくすぐる。
店のキッチンを担うスタッフたちは、飲食店の独立開業を志す精鋭のメンバーが揃う。
「私たちはコーヒーに注力していますが、コーヒーだけが美味しいのじゃつまらない。ランチも納得できる美味しさと美しさ、ひねりが欲しいじゃないですか。スタッフには自分の店を持っているつもりで腕を試してもらっています」
もちろん食後にはコーヒーとデザートをぜひ。
コーヒーは弟の健二さんが仕入れ、選定、焙煎まで全てを担う。豆販売の店舗も近々開業予定だ。
2種類用意されたブレンドコーヒーは、ネルドリップで時間をかけて抽出する。
口当たりよく、ほんのりと豆の油分も感じるコクのある味わいは、ネルドリップならでは。食後の1杯としてじっくり楽しみたい。
スイーツメニューは毎日店内で焼き上げるマフィンやシフォンなどの焼菓子と、甘味も揃う。ここにもこぐま屋らしさをチラリと忍ばせており、細部までこだわる高橋さんの想いを感じる。
この店が開かれた場所であって欲しい
大介さんは店を作るときに「開かれた場所であってほしいな」と願っていたそう。この店が居心地よく細部にこだわりを追求したのはこうした想いからなのだ。
日々訪れる客は、ファミリーやお年寄り、若い人や一人客と年齢も性別も立場も様々。ついついゆっくりと長居したくなるのは、ウエルカムな空気が漂うからなのだろう。 日常のふとした瞬間に立ち止まりたくなったら、まるで実家に帰ってきたかのようにほっとする時間を、丁寧に作るメニューとともにじっくり味わいたい店だ。
取材・文・撮影=永見薫 写真提供=こぐま屋珈琲店