市区町村のシンボルが花や木とされた目的とは

そもそも都道府県からして、それぞれの花・木・鳥(県魚や県獣がある県もある)を制定している。都道府県の場合、まず1953年にNHK・全日本観光連盟・日本交通公社・植物友の会が共催して「郷土の花」選定運動が行われた。その後、1963年には鳥獣保護連盟・日本野鳥の会などの呼びかけで「県鳥」制定が、1965年には毎日新聞社の呼びかけで「緑のニッポン全国運動」という「県木」制定運動が行われたことによりシンボルが決定したという(参考:平凡社『改訂新版 世界大百科事典』「県花県木」の項)。

市区町村の花・木・鳥制定はだいたい昭和40~50年代が多い印象で、都道府県の花・木・鳥選定に追随する形で決められたのではないだろうか。多くは住民の投票により決定し、その地域を象徴するような花や木が定められているようである。地元の自然に親しみを持ってもらおうという目的なのだろう。

街中に施されたシンボルを意識させる仕掛け

ただ、一体どれほどの人が、自分の住む市区町村の花・木・鳥を知っているだろうか。市区町村側もその懸念があるとみえて、実は街の中には、シンボル花・木・鳥を意識させるようなさまざまな仕掛けが施されているのである。

まず下を向いてみると、マンホールや、

小平市のマンホール。市の花であるツツジがあしらわれる。
小平市のマンホール。市の花であるツツジがあしらわれる。
旧保谷市のマンホール。市の花・サザンカと市の鳥・シジュウカラの組み合わせ。
旧保谷市のマンホール。市の花・サザンカと市の鳥・シジュウカラの組み合わせ。
新発田市(新潟県)のマンホールは市の木と市の花の組み合わせ。
新発田市(新潟県)のマンホールは市の木と市の花の組み合わせ。
旧田無市のマンホール。市の花も市の木も多すぎやしないか。
旧田無市のマンホール。市の花も市の木も多すぎやしないか。

雨水桝(ます)蓋にシンボル花・木・鳥があしらわれていることがとても多い。

文京区の雨水桝蓋。区の花・ツツジと区の木・イチョウの組み合わせ。
文京区の雨水桝蓋。区の花・ツツジと区の木・イチョウの組み合わせ。
垂井町(岐阜県)の排水溝蓋。民芸品のような味わいがある。
垂井町(岐阜県)の排水溝蓋。民芸品のような味わいがある。
港区の雨水桝蓋。植物のデザインより「区の木ハナミズキ」の主張が強い。
港区の雨水桝蓋。植物のデザインより「区の木ハナミズキ」の主張が強い。

何かデザインを、と考えた時に、その市区町村のシンボルを用いるというのはわかりやすい。

同じく足元に設置されていながら、マンホールや雨水枡蓋に比べ「このためにわざわざ作りました」感が強いのが、道路に埋め込まれたプレートだ。

渋谷区の散策路に設置されたプレート。緑の時と紅葉時の両方が並置されるのは珍しい。
渋谷区の散策路に設置されたプレート。緑の時と紅葉時の両方が並置されるのは珍しい。
説明はされていないが、渋谷区の花・ハナショウブをあしらった方位プレート。なかなかに凝っている。
説明はされていないが、渋谷区の花・ハナショウブをあしらった方位プレート。なかなかに凝っている。
静岡市のプレート。シンボルの花としては、タチアオイは珍しい気がする。
静岡市のプレート。シンボルの花としては、タチアオイは珍しい気がする。
同じく静岡市の鳥・ヒメアマツバメのプレート。花や木に比べ、鳥のプレートは少ない。
同じく静岡市の鳥・ヒメアマツバメのプレート。花や木に比べ、鳥のプレートは少ない。

たいていはきれいなカラーで作成されており、「市区町村の花や木、鳥を知ってもらおう」という熱意が感じられる。しかし足元にあるがゆえに、認知度は低いように思う。多くの人が行き交う、渋谷駅のハチ公前広場にも渋谷区の花・ハナショウブのプレートが設置されているが、そのことに気付いている人は果たしてどれくらいいるのだろうか。

毎日多くの人が行きかうハチ公前広場なので、すっかり薄くなってしまっているハナショウブ。ぜひ見つけてみてほしい。
毎日多くの人が行きかうハチ公前広場なので、すっかり薄くなってしまっているハナショウブ。ぜひ見つけてみてほしい。

「花・木・鳥を知ってもらおう」という熱が強まると、ガードレールや、

垂井町(岐阜県)のガード。シンプルなデザイン。
垂井町(岐阜県)のガード。シンプルなデザイン。
調布市の花・さるすべりのガードレール。
調布市の花・さるすべりのガードレール。

看板などの縦方向のアイテムとなるようだ。

名古屋市中区の花・パンジーの看板だが、もしかすると上に何か別の掲示をするために作られた看板なのかもしれない。
名古屋市中区の花・パンジーの看板だが、もしかすると上に何か別の掲示をするために作られた看板なのかもしれない。
大塚駅近くに、特に脈絡なく設置されている豊島区の花・ツツジの看板。
大塚駅近くに、特に脈絡なく設置されている豊島区の花・ツツジの看板。

石柱にテッポウユリが彫られた名古屋市、植物の解説プレートが付けられた港区などは、その熱意がとても伝わってくる。

名古屋市の花はユリなのだが、こちらには「てっぽうゆり」と記されている。
名古屋市の花はユリなのだが、こちらには「てっぽうゆり」と記されている。
浜松町駅近くに設置された港区の花・アジサイの石柱。ごみ集積所の役割も果たしており、情報量が多い。
浜松町駅近くに設置された港区の花・アジサイの石柱。ごみ集積所の役割も果たしており、情報量が多い。

不思議なものに出くわすこともある

ところで、こうした花・木・鳥をあしらったアイテムを見ていると、不思議なものに出くわすことがある。たとえば府中市のプレート。市の花・木・鳥であるウメ、ケヤキ、ひばりのプレートももちろんあるのだが、多摩川競艇場前の道路に設置された「市民愛の木 さるすべり」とは何だろう。

私が発見したのはさるすべりのみだったが、他にも「市民愛の木」プレートはあるようだ。
私が発見したのはさるすべりのみだったが、他にも「市民愛の木」プレートはあるようだ。

白糸台にある「府中市の木、市の花、市民愛の木サンプル園」の説明看板によれば、府中市自然環境市民会議が「もくせい、かいどう、さるすべり、つつじ、あじさい」を「市民愛の木」として定めたということである。また、調布市のガードレールには、市の木(くすのき)とは別に、「はなみずき」の模様がある。一体はなみずきは調布の何なのだろう。気になって仕方がない。

調布市と「はなみずき」との関係について、今後も調査したい。
調布市と「はなみずき」との関係について、今後も調査したい。

あなたは、自分の住む市区町村のシンボル花・木・鳥をご存じだろうか。実物の花や木に触れるのももちろん良いが、街にひそむシンボルアイテムを探してみませんか。

イラスト・文・写真=オギリマサホ

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