両国モダニズムから目が離せない
昼までに目指すべくは、仲良し3人組が開いた『こひる庵』だ。重奏的な氷スイーツを求める遠方客も多く、午後早めに受け付け終了することも。行列を避けた記名順の案内システムなので、遅い時間に来店したければ、台帳の後ろに記すといい。
この店のみならず、両国では今、ニューウェーブの風を感じる。その最たるものはコーヒー文化だ。蔵前、清澄白河から、遅まきながら流入開始。『CHILL OUT COFFEE&…RECORDS』の村田俊介さんは「古くから文化があるからか、カルチャー好きが街に集まります」と、国内外のレコード好きをも店に誘い込み、「いつかフェスもやりたい」と、目を輝かす。
「コーヒー文化は街の切り込み隊長で、カフェが増えると僕らのような花屋や他の業種が増えて、ゆるやかに街が変わっていく気がします」と話すのは、『華業 樹』の守岡さんだ。街の各所に出没するこの店から潮流を察知したのか、袋物博物館を併設する老舗の『東屋』では、2024年2月17日開店の川辺カフェで地元ロースターのコーヒー、『樹』の観葉植物も販売する予定だという。6代目の木戸麻貴さんは、「ずっと変わらず、取り残された感のある両国ですが、静かで地元愛が強い。駅から離れたこの場所で、良さを紹介していきたいです」と、静かな口調に熱意を込める。
旧来の文化もまた新たな挑戦を始めている
老舗の変化も目覚ましい。明治以降、界隈の下級武士が刀を編み棒に変えて形成したメリヤスの街では近年、メーカーが独自ブランドを立ち上げ、直営店を出している。その一つが『merippa house』だ。母体の『中橋莫メリヤス大小』4代目の中橋智範さんによると、両国はパリコレをはじめ、世界が認める品質を誇る街。しかし時代の変遷に伴い、工場街から暮らしの街へ変化したという。両国に根付いた職人の気風が、街全体の気質となったのだろうか。『魚祐』の細井さんが言ってたっけ。「この街の人は、値段で買うっていうより、質が良くて珍しいものに目がないね」と。
締めにバー『Offin’』で、カクテルをなめつつ「『CHILL OUT』で揃えた」というレコードを楽しんでいると、外国人や30代の地元常連が集まりだした。ハウスパーティーのようにくつろぎつつ、多様な感性が共鳴し合う時間の楽しいこと。モダン&ユニークなスポットは、まだまだ増えていくに違いない。
珍しき花々が咲き乱れる『華業 樹 Florist Tatsuki』
元倉庫をセルフリノベしたアトリエがおとぎの森のよう。店主の守岡樹生(たつき)さんは「今しかない面白い花を」と、南半球産も仕入れ、個性的で珍しい生花・観葉植物が勢揃い。近隣のオフィスや店舗に飾る花も担当する。
・11:00〜19:00(日・祝は〜18:00)、不定休
・☎03-6338-4381
『こひる庵』 かき氷というより氷スイーツ
看板は鯛のモナカが鎮座する横綱みるく(小700円~)。期間限定のむらさきの芋小1450円~など、シロップに加え、氷の中にクリーム類を忍ばせ、甘じょっぱいループにハマる。
・11:00~19:00(記名順に案内。数に達し次第受け付け終了。短期営業日あり)、火・不定休
・☎なし
・Instagram:kohiruan
『袋物博物館AZUMAYA』 両国カルチャーの今昔を眺める
江戸期以降の小物が120点。明治38年(1905)創業の革小物専門店に併設した川べりの小さな博物館だ。「海外ブランドがマネたと噂の文函(ふばこ)もあります」と、木戸さん母娘。ポップなグッズ販売もあり。
・13:00~16:00、土・日・祝休
・☎03-3631-6353
『魚祐』 質の高さ、魚種の豊富さに狂喜乱舞
「マグロはセリで落としてます」と、毎日豊洲市場に出向く2代目店主の細井秀明さん。干物でも脂のノリが格別だ。天然魚が主で、質を保つため切り身や刺し身は注文ごとにさばく。常連の信頼は厚い。
・10:00~13:00・15:00すぎ~18:30、日・祝休
・☎03-3631-2715
まるで小さなデパート『&Ryogoku』
香味はじける手作りジェラートシングル400円~と、『樹』の花束1200円、そして日替わり店主のコーヒー(ラテ600円)。3業種が約10坪の狭小空間に集う。「父娘で訪れる方も多いですよ」と、地元っ子のオーナー・チャコさん。
・10:00~20:00、無休
・☎03-4361-8729
『CHILL OUT COFFEE & ...RECORDS』 コーヒー片手にレコード漁り
中~深煎りのハンドドリップコーヒー480円、スコーン380円などの焼き菓子が人気のスタンドは、いつでも1960~70年代のソウルがゴキゲンに流れる。中古レコード屋でもあり、オリジナルカセットも販売。
・10:00~18:00、月休
・☎なし
・Instagram:chill_out_coffeeandrecords
『両国麦酒研究所』 ビール伝道店が醸す欧州スタイル
『麦酒倶楽部ポパイ』直営の醸造所が2020年、新潟から両国に移転。純水と自家培養酵母で、飲み飽きない味を目指し、年間約20種醸す。タンク×力士デザインの缶の購入、ドラフトを飲むのは店で。直販は2024年2月に開始。
・『ポパイ』は15:00~23:30(土・祝は14:00)~、日休
・☎03-3633-2120
『merippa house』 メリヤスの新スタイルが世界を席巻
有名ブランドのカットソーなどを手がけるメリヤスメーカーが考案したのは、ルームシューズのメリッパ5500円。リバーシブルで肌触り格別、服用の生地を用いたキュートさで色柄も豊富だ。パリやロンドンなどでも人気上昇中。男性用XLサイズもあり。
・11:00~18:00、土・日・祝休
・☎03-6456-1752
カフェに見えても昔ながらの二刀流『中華洋食食堂あゆた』
鳥と豚、野菜が満載のスープがやさしいうまみ。2014年、カフェ風に変身し「女性や家族連れが増えました」と2代目。ふわとろデミオムライス1000円、麻婆麺850円など、先代仕込みの味は不変だ。
『メルヘンアートストア』 結びにこだわる男性ファンも増加中
交差して結ぶマクラメを1978年より日本で普及。蓄光タイプなどのひも類、プランターホルダーなどのパーツ類も種類満載だ。首輪やリード、アウトドアギアに仕立てる男性客も増えている。ワークショップも随時開催。
・10:00~18:00(土は~16:00)、日・祝休
・☎03-3621-4401
『chack』 服を物色、果実酢で一服
幅広いテイストの婦人服・雑貨を販売する傍ら、店主のチャックさんは、自家発酵の果実&スパイス入り酢ドリンク500円~も提供。豆乳割りがまろやか。「ビール割りもイケます」。
・11:30~13:30・15:30~18:00(土は12:00~17:00)、日・祝休
・☎03-6885-7919
『Offin’』 甘く心溶かすバータイム
レコードが心地良く響くカジュアルなバー。店主のヤスさんは「手をかけたくなる」と、生チョコ600円、ジャムなども手作り。フルーツカクテル1000円はスイーツのごとし。静岡おでんもあり。チャージなし。
・19:00~翌1:00、日休
・☎なし
・Instagram:offin_intheoffing
取材・文=林さゆり 撮影=逢坂 聡
『散歩の達人』2024年2月号より