新たなシーンを覗かせる、高円寺の“昼の顔”
まずは、昼間の街を歩いてみる。
「高円寺はベビーカーで入れないカフェが多い」
と嘆くのは『TAW.』の共同オーナー・三宅春菜さん。自身もママということもあり、店を出すにあたっては間口を広く取り、段差もなくした。店に集う最近のママ友たちは、11月に控えた保育園の申し込みに関する情報交換に余念がない。高円寺に新たなママ友シーンが出現していた。
いかにもなアジア系飲食店は昔から多いが、『バインミーバイミー』は爽やか系。店主の藤田英士さんは
「ここは、何でも受け入れてくれる街。最近は若い人たちがさらに増えた気がします。高円寺芸人が飲食店を紹介してくれるのもうれしい」。
そうか、高円寺芸人のメディア露出も新しい潮流なのだ。
高円寺の新しい風景は、子供たちが集う駄菓子屋
驚いたのは、あづま通りの先、早稲田通り沿いの『駄菓子乃瀧ちゃん』のにぎわい。近くにいくつかある小学校から子供たちが集まってくる。店長の野田若菜さんにとって高円寺は古着に目覚めた青春の街。毎日のように店に通う子供たちも、やがてそう振り返ることになるはずだ。
すぐそばの『酒処 マキノウチ』の女将・杉原真希子さんいわく、
「若いママさんが入って来たから話を聞いたら、瀧ちゃんにいる子供を迎えに行ったんだけど、なかなか帰りたがらないから飲みながら待とうかなって」。
子供は、お母さんがいないことに気づいたとき、まさか近所で飲んでいるとは思わないだろう。
赤いネオン管が夜の中通りの風景を変えた
日も暮れてきた。夜の高円寺は、酔っ払いや路上ミュージシャンたちが主役になる。
麺シーンで注目を集めているのは、『ラーメン健太』の店を借りて19時以降に営業を開始する『つーとん寺田屋』。看板メニューは大阪名物のかすうどんだ。
「東京は基本的に好かんけど、高円寺は大阪に似てるからね。商店街が多いし居心地がいい街」
と、店主の寺田功さん。
2020年の12月末、中通りで数店舗が全焼する火事が起きた。そのうちの1店舗が『アフターアワーズ2005』。復活を求める有志による署名は1000筆を超え、このたび同じ場所で営業再開を果たした。以前はなかった赤いネオン管は、夜の中通りの新しい風景だ。
ラストは芸人・有田久徳さんが最近開いたばかりの『小粋』。
「高円寺の思い出? 7年前に閉店しましたが、早朝にオープンする『やよひ』という居酒屋は強烈でしたね。コップなみなみのテキーラが500円という」
しかし、これこそが高円寺。そんな事言いながら、『小粋』の焼酎割りだってなかなか脳天に来るじゃないか。
結論から言うと、「高円寺らしさ」は健在だった。カオスとはさまざまな要素が入り乱れる状態。どの店にも性別、年代、嗜好(しこう)、国籍が異なる人間同士が交差するシーンがあり、とにかく皆さん楽しそうなのだ。街の風景が変わっても、「高円寺らしさ」が変わることはない。そう思わせてくれた1日だった。
【昼の憩いの場と、子供たちのユートピア】
『TAW.』
オータニサーン!を超える三刀流営業
2022年2月にオープンし、明るい店内ではカフェ、ネイル、海外子供服販売の三刀流営業。周辺に暮らす子連れのママや、犬の散歩帰りに立ち寄る常連さんが多い。ドリンクの一番人気は金木犀ラテ560円で、手作りのケーキやスコーンによく合う。高円寺の新たな憩いの場だ。
●9:30~17:30(土・日・祝は18:00まで)、不定休。☎03-5913-9456
『ベーカリー兎座LEPUS』
うーん、どこから食べるかが問題だ……
ウサギとアニメを愛してやまない若きオーナーシェフ・東山伊織さんが2017年に出店。イベント時にはアニメ作品をモチーフにしたパンも並び、ウサギ好きに加えアニメファンが集う。
●10:00~18:00、月・火休。☎非掲載。問い合わせはメール([email protected])まで。
『Gallery Café 3』
常連だったカフェを引き継いで営業開始
南口の路地にあり、展示は1週間ごとに入れ替わる。この日は展示中の鋳金作家の石川将士さんが在廊。店主の東村記人さんとアート談義に花を咲かせていた。イチ推しはオリジナルブレンドのコーヒー500円と、展示のコンセプトに合わせて店主の奥さんが作る焼き菓子。
●15:00~20:00、月休(不定休あり)。☎03-3318-3688
『バインミーバイミー』
迫力のボリュームながら味に抜かりなし
2019年にベトナムで食べたバインミーの味が忘れられなかった店主の藤田さんが2021年12月に専門店をオープンし、究極のバインミーをストイックに追求する。散歩のお供にぴったり。店内飲食も可。
●11:00~15:00・17:30~21:00、月・火休。☎03-6686-7724
『むし社』
カブトムシ、クワガタが100種類以上
1971年に創業した昆虫雑誌の出版社で、3年前に中野から移転。カブトムシとクワガタを中心とした昆虫ショップも経営し、関連書籍も販売する。社長の飯島和彦さんが持っているのは世界最大のカブトムシ・ヘラクレスオオカブト。値段は4万1800円で店では一番高い。同社が発行する『月刊むし』は通巻621号(2022年10月現在)。
●11:00~19:00、無休。☎03-5356-6416
『駄菓子乃瀧ちゃん 早稲田通り店』
子供たちのハートをがっちりキャッチ
2020年にオープンするやいなや、さっそく近隣の子供たちの溜まり場に。店長の野田さんは、80円のブタメンに10円のうまい棒納豆味を入れると驚くほどおいしいことを発見。子供たちに勧めたところ、それまで残していたブタメンのスープも全部飲むようになったという。90円のごちそうだ。
●14:00~22:00、無休。☎03-6383-0997
【夜の高円寺は酔っ払い天国、客同士の会話も大いに弾む】
『つーとん寺田屋』
お酒が進みまくる絶品かすうどん
本場、博多仕込みの豚骨ラーメンでブレイク中の『ラーメン健太』。この場所で2022年7月から間借り営業を始めたのは、元格闘家の寺田さんだ。カウンターの奥で飲んでいるのがオーナーの健太さん。
●19:00~翌2:00(串焼きは~24:00)、不定休。☎090-9881-0755
『酒処 マキノウチ』
酒好きの女将が始めた、キンミヤ推しの酒場
あづま通りの突き当たりに名店アリ。そんな風情の酒処は2020年にオープン。浴衣で客を出迎える女将はキンミヤ焼酎の蔵元、宮㟢本店推し。宮の雪純米600円。レモンドレッシングが隠し味のポテトサラダ380円、女将が新潟で採ってきたフキ入りのふきみそとクリームチーズ350円はどれも酒に合う。
●16:00~23:00(土・日・祝は14:00~21:00)、火・水休。☎なし
『UPTOWN RECORDS』
上海発、伝説の店が高円寺に電撃移転
2019年に上海から高円寺に移転。アメリカ人のSaccoさんと中国人のSophiaさんが共同で営む、高円寺にありそうでなかったインターナショナルな店。品揃えは、日本、中国、アメリカなどで仕入れたロック、ポストパンク、エクスペリメントが中心。ハワイのクラフトビール、BIG WAVE 700円なども店内で飲める。
●15:00~24:00、月・土休。☎080-6375-7135
『アフターアワーズ2005』
スタンディングで電気ブランと燻製
火事で休業していたが、2022年7月に営業再開。冷え冷えの電気ブランはショットで400円。オーナーの台(うてな)夕起子さんが作る燻製が大人気で、さばのくんせいポテトサラダ、ししゃものくんせい(フードはすべて300円)はお酒が進む逸品。中通りの喧騒を眺めながら過ごす時間が最高だ。
●15:00~翌2:00、無休。☎03-3330-1556
『小粋』
店主が一発ギャグも披露してくれる
持ちネタを披露して失笑を買っているのは芸人で店主の有田さん。『タモリ倶楽部』内「空耳アワー」では尻男優としても有名。南口で『BJ Bar』という駄菓子バーを経営しているが、2022年8月にこの2号店をオープン。焼酎が濃い梅割り500円は1人3杯まで。煮込み串3本450円、タン刺し300円。
●15:00~23:00、火休。☎080-4207-2777
『散歩の達人』2022年11月号より