ライトアップのタワーをこっそり眺めるたのしみ

私はとにかく暗いところ、闇が深いところが大好きで、長年、東京圏を中心に各地の闇を貪欲に歩き続けている。夜の闇はもちろん、洞窟、トンネルなどの昼の闇歩きも大好きだ。最も好きなのは、なるべくライトに頼らずに深夜の山を歩くミッドナイトハイク。その最上級は、深夜の山の洞窟巡りだ。これはもう、とことん暗い。

だが、あんまり暗くない都会の夜散歩も、闇に向かう気持ちをもって歩けば、それはそれでいろいろと楽しく、闇歩きの一種に含めている。たとえば、おタワーさまをちゃんと見ない系夜散歩だ。夜、せっかくライトアップしているタワーを、ちゃんと見ないで、こっそり眺めて愛でるのだ。「なんじゃそりゃ」と思うかもしれないが、やってみるとそうとう楽しめる。

ライトアップされた東京タワーを港区あたりで見ると、いつも高いところからこちらを見ているようなその存在感はなかなかに神さま的で、「おタワーさま」と呼びたくなる。

だが、神さまをガン見するのは失礼だ。お姿を丸ごとまともに見るのではなく、昔、高貴なおかたを御簾越しに拝んだように、おタワーさまの一部をチラ見したり、気配だけを感じたりしながら愛でよう。

 

お気に入り№1は「東京ガゼボタワー」!

というわけで、ビルとビルのギチギチの狭間から見る「隙間タワー」、ビルのガラスに映ったお姿を見る「鏡タワー」、木の葉の間に見る「木漏れタワー」、雨のあと、芝公園23号地の広場にできた水たまりに見る「逆さタワー」、旧台徳院霊廟惣門と合体して見える「秀忠タワー」や、ビルなどに隠れたおタワーさまのオーラ(雲に反射した光)だけを眺めたりとか、あの手この手でちゃんと見なかった成果を『散歩の達人』2016年8月号で紹介した。

一番のお気に入りは「東京ガゼボタワー」だ。六本木ヒルズのローズガーデンにあるガゼボと東京タワーが、完璧に合体して見える。

 

東京ガゼボタワー。六本木ヒルズのガゼボと東京タワーの遠距離合体。
東京ガゼボタワー。六本木ヒルズのガゼボと東京タワーの遠距離合体。

よく見ないためにメッチャ近づく

ほかにも、まだまだいろんな「東京タワーをちゃんと見ない系スポット」がある。

もみじ谷の水面にひっそりと映るおタワーさまの先っぽもいい。

大正2年竣工の綱町三井倶楽部の、わなわなした窓ガラスと外壁のタイルに反射するおタワーさまの光もいい。

ちゃんと見ないためには、メッチャ近づいて見るのも正解だ。

東京タワーの脚の下に行ってライトアップされたお姿を見上げると、脚が邪魔しておタワーさまがよく見えない。東京タワーが東京タワーを邪魔しているのだ。ものっすごく邪魔する位置から見ると、その邪魔な斜線たちが実にカッコいい。斜線の向こうから、青い目のおタワーさまに見下ろされている感じもいい。

もみじ谷の逆さタワー。水面に映る東京タワーの先っちょ。
もみじ谷の逆さタワー。水面に映る東京タワーの先っちょ。
綱町三井倶楽部の窓ガラスに映る東京タワー。外壁のタイルにも反射している。
綱町三井倶楽部の窓ガラスに映る東京タワー。外壁のタイルにも反射している。
東京タワーの脚の下から、東京タワーに邪魔されながら東京タワーを見る。
東京タワーの脚の下から、東京タワーに邪魔されながら東京タワーを見る。

他のタワーでもちゃんと見ない系を

東京タワーで味を占めて以来、ほかのタワーでもちょいちょい、ちゃんと見ない系夜散歩を楽しんでいる。

たとえば、名古屋テレビ塔を北側の黄葉したケヤキ越しに見る「木漏れタワー」がよかった(ただし現在、久屋大通公園は再整備中)。墨堤の桜が満開のとき、桜越しに垣間見えた東京スカイツリーは、草葉の陰から梶井基次郎が「桜の樹の奥にはスカイツリーが埋まっている!」と叫びそうな光景だった。白っぽい光のスカイツリーには、白い桜の花がよく似合う。

こんな感じで、ライトアップするタワーのある地域なら、日本中、世界中、どこでもそれぞれの地域で、おタワーさまをちゃんと見ない系夜散歩を楽しめる。

とはいえ、ほかのタワーでやってみると、ますます、東京タワーの素晴らしさを思い知らされる。東京タワーは周りの地形が変化に富んでいるうえ、周りに高い建築が多く、実に多彩なパターンでおタワーさまが見え隠れするからだ。

高さでスカイツリーにボロ負けしても、東京タワーはやっぱり日本一のおタワーさまだと思う。

ではまた。闇の中で逢いましょう。

写真・文=中野 純

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第二夜今夜のテーマはオーム。もちろん宗教じゃありません。歌舞伎版も話題の「風の谷のナウシカ」に出てくるあの王蟲を、闇の中で探します。