店内はまるでメキシコ。中目黒で食べるカリフォルニアメキシカン
店の前を通ると、ペンキが剥がれた部分や看板のサビ、植物が自由に葉や枝を伸ばしている様子など、気になる要素ばかり。異彩を放つ外観は求心力が強い。10年ほど前からマネージャーを務めている高橋信友(たかはしのぶとも)さんも、外観が気になって店の中をのぞきこんだところ、オーナーと目が合ったことがきっかけで、店で働くことになったという。
インテリアでイメージしているのはメキシコのレストラン。椅子やテーブルはどれも使い込まれているし、テーブルクロスや天井に吊り下げられた三角ガーランドなどはカラフル。メキシコの店によく置かれているマリア像や十字架も装飾に取り入れている。
オーナーはサーフィンや釣りが趣味の海を愛する人物。2005年にオープンした時から、カリフォルニアの海辺で食べられるテクスメクスをイメージした料理を提供し、それをカリフォルニアメキシカンと呼んでいる。「ガーリックシュリンプや、セビーチェ(南米風魚介のマリネ)など、海の幸を使ったメニューもいろいろあります」と高橋さん。
タコス以外のテクスメクスを味わってほしい
そもそもテクスメクスとは、かつてメキシコの一部だったアメリカ南部のテキサス州で発展したもの。ソースやチーズをたっぷり使うなど、ダイナミックにアメリカナイズされている。
テクスメクスの代表的な料理といえば、コーン粉や小麦粉で作ったハードシェルのトルティーヤで具材を挟むタコスや、ラップサンドのようなブリトー。
しかし高橋さんは「うちの店に来たなら、チミチャンガスやケサディーヤをぜひ食べてほしいです」と勧めてくれた。チミチャンガスはトルティーヤに具材を包んで油で揚げたもの。ケサディーヤは、トルティーヤにチーズと具材を挟んで鉄板で焼いたものだ。
ここ数年、東京都内にはメキシコ料理やタコス、テクスメクスを提供する店が増えているが、タコス以外の料理はまだあまり知られていない。多様な食の店が集まる中目黒でも、オープンして間もなかった20年ほど前は今以上になじみがなかった。
高橋さんが店で働き始めた約10年前も、店にやってくるのは外国人が圧倒的に多かった。「日本の方にも楽しんでもらいたくて、メニューを詳しく説明するようにしました。今では日本の方も増えて、幅広い年齢の方が来てくださいます」と高橋さん。
一皿にテクスメクスの魅力たっぷり! チミチャンガスのプレートでガツンと胃を満たして
今回は、平日のランチにも提供されているチミチャンガスをオーダー。チミチャンガスのメイン具材は、野菜、チキン、ビーフ、ポークの4種類から選べる。今回はビーフをチョイスした。
『JUNKADELIC』のチミチャンガスは、トルティーヤにメイン具材(今回は煮込んだビーフ)とメキシカンライスを包んで油で揚げる。お皿にも付け合わせとしてメキシカンライス、豆を煮たフリホーレスを盛り付ける。そこに揚がったチミチャンガスをのせ、チーズをたっぷりかけてお皿のままグリルで焼き付ける。
チーズが十分にとろけたら、テクスメクスには欠かせないアボカドのソース・ワカモーレやサワークリーム、サルサソースをトッピング。そのたっぷり盛り付けられたお皿が、熱々の状態でテーブルに運ばれてくる。
チミチャンガスはしっかり厚みがあるし、他の料理も付け合わせという言葉のイメージとは程遠いほどボリュームたっぷり。どれも一つひとつは素朴で、時間をかけて丁寧に作られている。
トルティーヤ内部のビーフは玉ねぎと一緒に煮込まれてトロトロ。メキシカンライスは炒めてからトマトとブイヨンで炊き込んでいる。メキシコの家庭でもよく食べる豆の煮込み・フリホーレスは『JUNKADELIC』ではうずら豆を使っていて、ほっこりとやさしい味わいだ。
トマトの酸味がフレッシュなサルサソースが全体を引き締めてくれ、辛いものが好きならハバネロソースか、店に伝わる自家製のハラペーニョソースをひと振りすると異国感がグッとレベルアップされる。
「たっぷり盛り付けて提供しているので、ぜひおなかをすかせてきてほしいですね。チミチャンガスを1人で食べたらおなかいっぱいになりますから」と高橋さん。
入れ替わりの激しい中目黒で、長年愛され続けている『JUNKADELIC』。本格的なテクスメクスは未体験という人こそ、ぜひ味わってもらいたい。店内に入るとカリフォルニアとメキシコに共通するにぎやかで開放的な雰囲気が、まだ知らない味への期待感も盛り上げてくれるはずだ。
取材・文・撮影=野崎さおり