町田 忍
1950年東京生まれ。和光大学卒業後警察官を経て、庶民文化研究所設立。忘れられがちな庶民文化を多方面に研究し発表。特に銭湯に関しては第一人者。テレビドラマや映画の時代考証も手がける。著書『納豆大全』(小学館)ほか多数。

銭湯は日本の伝統文化を楽しむ場

銭湯が今静かなブームだという。それはコマーシャルなどに登場しているのをよく見かけることからもわかる。

ところで銭湯の歴史であるが、料金を徴収して商売として登場したのは約800年前からといわれている。現在、都内では約530軒の銭湯が営業しているが、昭和43年(1968)の最盛期には2600軒ほどがあった。

数は減ったものの魅力的な銭湯はまだいっぱいあり、銭湯の楽しみ方も色々ある。500軒以上ある銭湯は同じものは一つとしてないのは当然のことで、どれもが個性的である。特に人気がある「電気風呂」「泡風呂」「薬湯」「打たせ湯」「サウナ」「露天風呂」など、家庭の風呂にはない設備を体験できるのも銭湯の特徴となっている。最近新しくリニューアルした銭湯の中にはデザイナーズ銭湯と呼ばれるモダンで近代的な設備などを施したものも多く登場して話題となっている。

西蒲田の『はすぬま温泉』。漆喰や木など、天然素材を使用した脱衣室。女性脱衣室にはメイク落としも用意されている。

また、日本の伝統文化の施設としての見方もできる。和風宮造りという神社仏閣のような様式の銭湯もまだ多くの営業している。特徴は高い天井の脱衣室、浴室正面の巨大な富士山のペンキ絵や庭といった風情ある空間が残っている。これらは東京型銭湯の特徴となっている豪華な造りである。これらの銭湯でどれが自分の好みにあっているかを考えてみるのも楽しいことだろう。

神楽坂の『熱海湯』の富士山のペンキ絵

日本の入浴文化の特徴は欧米の体の汚れを落とすという機能のみと異なり、「浮世の垢」も落とすことも重要な役割となっていることである。現在は東京都浴場組合のホームページで都内全銭湯の情報が検索できるので利用してほしい。

個性も色々なおすすめ3銭湯

「銭湯めぐりスタンプラリー」の対象になっている銭湯の中から、個性の異なるおすすめの3軒を紹介しよう。

まずは西蒲田の「はすぬま温泉」。2017年12月16日にリニューアルした銭湯で、特徴は大正ロマンを彷彿とさせるレトロな雰囲気。お湯はナトリウム‐塩化物・炭酸水素塩泉の天然温泉で、サウナ用の水風呂も温泉という贅沢な湯船。都内では珍しい浴室中心に湯船がある形式となっている。ロビーの一角には丸山清人絵師の富士山の絵があり、隅に私が描いた東京都浴場組合のキャラクターのゆっポくんがいる。

漆喰壁やステンドグラスなどを説明する町田氏
女将の近藤美枝さんと談笑する町田氏

日暮里の「斉藤湯」は2015年にリニューアル。以前は、銭湯では最後の「三助」さんと呼ばれる男女のお客の背中を流し、マサージをしてくれる番頭さんがいた。ビルの銭湯では珍しく浴室の天井が高いのはご主人の伝統的な銭湯の雰囲気を残したい、という心意気から。ロビーではビアマイスターに入れてもらうビールが飲める。

「リニューアルにあたっては、銭湯の原点でもあるお湯にこだわりました」と話す店主の齋藤さん。

神楽坂の「熱海湯」は、昭和29年(1954)築の伝統的宮造り銭湯。今も残る花街の見番近くの坂の下に佇む姿は風情がある。男湯には中島盛夫絵師による富士山のペンキ絵が描かれ、ペンキ絵の下には今となっては大変貴重な九谷焼きの鯉のタイル絵がある。高温風呂もあり、江戸時代のあつ湯の伝統を引き継いでいる。

神楽坂の裏通りに立つ昔ながらの宮造りの建物。

文=町田 忍

おすすめ3軒の詳細情報

はすぬま温泉

大正ロマン風の意匠を施した温泉銭湯

外観は漆喰壁に木の柱が格子状となったモダン和風が特徴。これをみただけでこの銭湯が只者ではないことが理解できる。ロビーで目につくのは床にある直径40センチほどの丸いガラス窓。その下で鯉が泳いでいる。実はこれデジタル映像。女将さんによると、お客さんから「餌はどうするの?」と聞かれたそうである。脱衣場の白壁は全面貴重な漆喰仕上げ。浴室の男女境には四季の日本画、正面には岐阜県多治見に特注した日光竜頭の滝のタイル絵、窓は全てステンドグラスといったように徹底的に本物にこだわった癒しの空間となっている。

格子模様を施した漆喰壁の外観が印象的なはすぬま温泉。シャッターには富士山が描かれる。
タイル絵と花鳥風月を描いた丸形の日本画が独特の雰囲気をつくる。
四季によって映像が変わり、10分ごとにレアキャラも登場する。
蛇口の横には、立ち上がる際につかまれる棒を設置するなど、心配りがうれしい。
住所:東京都大田区西蒲田6-16-11/営業時間:15:00~翌1:00/定休日:火/アクセス:JR京浜東北線蒲田駅から徒歩10分

熱海湯

富士山のペンキ絵がある宮造り銭湯

「熱海湯」という屋号は、当時、庶民の憧れであった熱海や別府、草津などの温泉地にあやかったもの。神楽坂は、昭和30~40年代に花街としてにぎわったが、その頃は1日200人を超す芸者さんの利用があったという。千鳥破風の玄関、格天井のある脱衣所、富士山を描いたペンキ絵などがレトロ感を漂わせる。湯船は42~43度のあつ湯と1~2度低いぬる湯の2つで、あつ湯には備長炭を入れ、湯ざわりを柔らかくしている。「昔ながらの小さな銭湯ですが、いい湯だったよといわれることが一番うれしい」と、店主の吉田浩さんは話す。

総ヒノキ造りの脱衣室。今では数少なくなった番台スタイルの銭湯だ。
浴室を飾るペンキ絵は、中島盛夫絵師が2019年8月に描いたもの。浴室は中央部を低くすることで、広々とした印象を与えている。
いつも番台に座る女将さん。お客様との世間話が楽しみだという。
男湯には金魚や亀が遊ぶ小さな池がある。
住所:東京都新宿区神楽坂3-6/営業時間:14:45~翌1:00/定休日:土/アクセス:JR中央・総武線飯田橋駅から徒歩6分

日暮里 斉藤湯

バリエーション豊富な風呂が自慢

創業85年を超す老舗。白とベージュを基調とした浴室は天井が高く、ビル内とは思えないほど開放感がある。ジャズのBGMが流れる浴室には、高濃度人工炭酸泉をはじめ、ジェット・寝湯・電気風呂を備えた大浴槽、あつ湯、水風呂があり、露天エリアにはミクロの泡と超音波でマッサージ効果が期待できるシルキー風呂も備える。湯船やカランの湯は、すべて肌にやさしい軟水を使用。「銭湯は幅広い年齢層のお客様が利用されるから、家族みんなで楽しめるよう、風呂のバリエーションも増やしました」と店主の齋藤勝輝さんは話す。

和の趣を感じる露天風呂。天井部や竹垣の間から入る風が心地よい。
さまざまな機能浴ができる内湯。ビル内にあるが天井が高いのでゆったりできる。
浴槽と洗い場は仕切られているので使い勝手がよい。
浴槽と洗い場の仕切りには富士山のタイル絵があり、こんなところにも銭湯の文化を守る心意気が見てとれる。
女湯にはポーラのシャンプー、コンディショナー、ボディシャンプーが備えられる。
植え込みや瓦をのせた三角屋根が、昔ながらの銭湯の風情を漂わせる。
住所:東京都荒川区東日暮里6-59-2/営業時間:14:00~23:30/定休日:金/アクセス:JR山手線・京浜東北線・常磐線日暮里駅から徒歩3分

「銭湯めぐりスタンプラリー」開催中

紹介した3軒もラリーポイントになっているスタンプラリーが開催中。専用スタンプ帳に、対象21銭湯のうち5銭湯のスタンプを集めて、マーチエキュート神田万世橋の対象店舗で買い物をすると、先着5,000名様にオリジナルてぬぐいをプレゼント。この機会に、秋の東京を歩いていろんな個性ある銭湯を楽しんでみては?

*現在、スタンプラリーは終了しています。

 

取材・文・撮影=塙 広明(アド・グリーン)