ビル・エヴァンスとフィリー・ジョー・ジョンズにはじまり、マックス・ローチ、アーチー・シェップ、チコ・フリーマン、ズート・シムズ、アル・コーン、ミシェル・ポルタル、ヨアヒム・キューン、チック・コリアと、きら星のごとき名が、木訥とした語り口から飛び出てくる。
列島のほぼ真ん中に位置する、名峰に抱かれた城下町の人々が浴していた贅沢な音楽環境に、思わず嫉妬せずにはいられない。
中学3年でエリック・ドルフィーに目覚めたという小林さんのジャズ愛の熱量は、かくして近隣に住む人々に還元された。公演後ミュージシャンたちが店に寄り、階段入り口の壁に記した夥おびただしいサインも、その熱量に応答しているかのようだ。
スピーカー前のコーナーはおしゃべり禁止。大音量でも聴き疲れしない高音質なオーディオで、洗練の音のシャワーに、何時間でも浴したい。
【店主が選ぶ一枚】Frederik Kronkvist “Ignition”
北欧や東欧の活きのいいグルーヴを
「最近多いのは北欧のもの。新しい“傾向”を常に探しています」と、オススメの一枚は、スウェーデンの若きアルト奏者、フレデリック・クロンクヴィストの『Ignition』(2007)。バップ隆盛の時代から遥か隔たった現代に、水を得た魚の活きのよさで真性ストレート・アヘッドなサウンドを聴かせてくれる。E.S.T.、ECM、ACTレーベルや、マスター曰く「最近元気がいい東欧のジャズ」もよくかかる。最先端の音や、心地いい高速グルーブを堪能したい。
取材・文=常田カオル 撮影=谷川真紀子
散歩の達人POCKET『日本ジャズ地図』より