詩歌専門書店の店長から営業代行へ
門田さんは1967年1月生まれの56歳。大学のマスコミニケーション学科で学んだ後、某ソフトハウスにてプログラマーとして3年勤務。会社にも慣れたところで別の仕事もしてみたいと、池袋リブロ内の詩歌専門店「ぽえむぱろうる」で雇われ店長になる。
3年半ほど経った時、馴染みの出版社に誘われ、営業代行へと鞍替え。営業代行とはその名の通り、出版社の営業を代わりに行うこと。声をかけてくれた出版社を含め、6社の営業からスタートした。
運命のスナック居抜き物件
営業代行が軌道にのってきたところで、夜の時間が空いているのと、他にも何かやりたいと飲食店を開くことに。先に店名を考え、練馬や下北沢、西荻窪のアンティークショップで木目調の家具をごっそり購入。揃ったところで、出版業界の知り合いが多い中央線で物件を探す。
1、2ヶ月ほどしてたまたま見つかったのが現店舗。42年続いた銀座出身のママさんがやっていたスナックの居抜き物件。朝に不動産を覗いた時にはまだ情報は掲載されておらず、午後もう一度見に行くと、ちょうど張り出されたところで、立地の抜群さに即座に申し込む。
実は当初狙っていたのは高円寺。けれど阿佐ヶ谷も演劇や映画、そしてガロ系の漫画家さんにもわりと縁があるところ。映画『美代子阿佐ヶ谷気分』で、漫画家・安部愼一と恋人の美代子が同棲生活をしていたのも、ここ阿佐ヶ谷である。
ブックカフェの先駆け
半年の準備期間を経て2002年8月1日に、お酒も飲める夜の喫茶店として『よるのひるね』オープン。当初は営業代行の仕事もガンガンやっていたので20時からだったが、試行錯誤を繰り返し、現在は18時から深夜1時まで。深夜までやっているので中央線付近に住んでいる人に重宝されている。
古本屋で仕入れた本を置き、閲覧できるようにしたのも目玉のひとつ。今でこそブックカフェは多いものの、当時としてはかなり先駆け。開店から2年ほどはお客さんが少なく苦しかったが、00年代に到来したブックカフェブームにより、雑誌などの取材が殺到し、お客さんも一気に増え軌道にのる。
半年間の休業とクラウドファンディング
閑古鳥だったオープン当初は、知人の漫画家さんに1日店長ならぬ1日客として、ただお店にいてもらうことで宣伝。そのうちトークやライブ、昆虫食を食べるイベントや漆教室など、多いときで1ヶ月に17タイトルほどのイベントを開催するようになった。その反面、カフェ客が減るというジレンマもあったという。
2019年に消費税が10%に増税した時は、買い控えによりお客さんが減り、更に追い討ちをかけるようにコロナ禍に突入。もうさすがに無理と閉店を決意し、大家さんと相談した結果、半年間休んで様子を見てから決めることになった。
2020年5〜10月休業。その後、クラウドファンディングで資金を集め、2020年11月に再開。クラファンでは常連客をはじめ、いつか行ってみたいという新たなお客さんにもご支援をいただいた。
出版部「よるひるプロ」も運営
現在イベントは基本的に土・日・祝の、日中・夕刻のみ。夕方には終了して18時から通常営業することで、カフェやバー目的のお客さんも安定してきている。客層は学生から60代までと幅広く、喫煙できるのも魅力のひとつ。
またカフェやバー、イベントだけでなく、絶版になっている名本を復刊、出版する「よるひるプロ」も運営。2021年12月には、新刊として杉作J太郎さんの『杉作J太郎詩集』が出版された。
2年ほど昼間に場所貸ししていたバインミー屋『スキマほーる』さんが、この春めでたく独立。なんと場所は『よるのひるね』の斜め前!こちらの店主は元・漆教室のお客さんというからご縁を感じる。是非ともはしごで訪れたい。
今後のことを聞くと、「よっぽどひどいことがなければ続けられる気はするけど、老後どうしたいかによる」と語る門田さん。愛すべきお店がどんどんなくなっている昨今、これからも阿佐ヶ谷にて、できうるかぎり変わらずサブカルの聖地を続けて欲しい。
取材・文・撮影=千絵ノムラ