こんこんと湧き出る水が心を洗ってくれる
東久留米の総鎮守、南沢氷川神社へお参りを済まし鳥居を出ると、目の前を小さな川が流れている。南沢緑地保全地域には湧水地が4カ所あり、1日約1万tもの水が湧くらしい。それを集めて流れを作った小川は神社の少し先で、落合川に合流する。落合川は水深が浅く流れがゆるやかなので、界隈の子供たちにとっては格好の遊び場なのだとか。
『EAST END WHITE ~coffee~』の志藤さんは東久留米出身。やはり、子供時代には川遊びをしていたそうだ。山にまつわる蔵書が多いのは、そうやって地元の川や森に親しんで育ったおかげだろうか。
「東久留米は武蔵野台地の上にあって、黒目川と落合川に挟まれた窪地の街なんです」
興味深い話題を振られ、前のめりで聞いていたら、いつのまにか手に持ったコーヒーカップがカラになっている。
絵本作家・デザイナーのすぎはらさんは、ロンドンで作風を模索したのち東久留米へ。現在はアトリエ『紙と糸』で制作に励むかたわら、子供たちを対象にした図工教室も開く。ダンボールなど身近なものを材料にして、指導方針は「楽しいのが一番!」。時にはアトリエの外に出て、地域のイベントでワークショップを行うこともあるとか。
土地に根差した文化が花開く
東久留米アートプロジェクトを立ち上げたのは『プチ・フール』の宮沢さん。現代アート作家の大小島真木さんともそこで出会った。
「子供の頃、おばあちゃんと落合川の湧水でコーヒーを淹れて飲んだと言っていました」
なんて裏話も楽しい。店内の壁画には、彼女の地元・東久留米への思いがあふれている。
さて、おみやげは『和三盆工芸菓子 象東(ぞうとう)』で。菓子木型が約200種類あり、モチーフは
「人々の祈りや願いを形にしたものなんです」
と店主の三浦和子さん。後日、御陽菓詞(おひがし)を口に入れると、街の景色がよみがえってきた。
春になったら、私も川で遊びたい。
【湧き出る水とアートのおすすめスポット】
和三盆工芸菓子 象東
見てハッとし、食べてうっとり
菓子木型で和三盆糖を固めた御陽菓詞(おひがし)は、まさに食べる工芸品。ふわっとした口溶けが心を晴れやかにする。湧水、竹林公園、富士山など東久留米ゆかりの意匠を集めたセット「干菓子くるめ」は10個入り1350円。
●10:00~18:00(土は12:00~)、日・祝休(不定休あり)。
☎︎042-420-7104
EAST END WHITE 〜coffee〜
自家焙煎の深めの味が、じんわり心をほぐす
店内は年季が入って見えるが、床も壁も店主・志藤雄一さんが仲間に手伝ってもらいDIY。「2階は天井を下げてわざと狭くした」そうで、秘密基地のような雰囲気だ。
●12:00~19:00(金・土は22:30LO)、月休(隔週で火休)。
Instagram:@east_end_white
紙と糸
絵本も手がけるアートの制作現場
迎えてくれたのは、絵本作家・デザイナーのすぎはらけいたろうさん。このアトリエでは、紙をコラージュして作った絵本『たべるのだあれ?』など、これまでの作品を手に取ることができる。
●Instagram:@kami.ito
nu bagel
パリッ、ムギュッ!小麦の香りがふわり
民家の前に看板を見つけ、中をのぞくと「こんにちは!」と佐藤夫妻。ベーグルはむぎゅっと硬め。かつ、エスニックえびアボカド580円などのサンド類は、具材とのバランスも考え歯切れよく仕上げてある。
●11:00~16:00(売り切れ次第終了)、金・土のみ営業。
Instagram:@nu_bagel_
南沢氷川神社
土地を潤す湧水の守護神として創建
落合川上流の湧水地にあり、「水が人々の暮らしを支えてきました」と宮司の栗原健人さん。境内は木立に囲まれ、街なかより空気が柔らかい。4年に1度、10月の南沢獅子舞は江戸時代から続く芸能で市の無形民族文化財に指定されている。
●参拝自由。
☎042-471-1542
プチ・フール
食べる人を思って丁寧に手作り
小麦粉は国産や東久留米産にこだわり、酵母も主にリンゴを使うなどして自家製。バゲット300円のようなハード系を食べると素材の旨味を実感できる。メロンパン130円をはじめ、菓子パンは子供に大人気。
●10:00~17:00、金・土・日のみ営業。
☎042-474-0139
弁天フィッシングセンター
釣り竿に伝わる強いアタリに興奮
湧水を引き込んだ池で、敷地にまつられた弁才天が釣り人をそっと見守る。玄人が好むのはヘラブナだが、初心者には食い付きがいい鯉がおすすめだ。道具一式をレンタルでき、手ぶらでOK。鯉、金魚はいずれも1時間700円、ヘラブナ1日2600円。
●7:00~16:30、水・第3木休。
☎042-476-1500
中谷製菓
かりんとうには「穴ぼこ」が大事
かりんとうをかじると勢いよく広がる黒糖の甘みと小麦の香り。しかし歯触りは意外なほど軽く、「うちのは穴ぼこが多いでしょ。だから軽いの。これはちゃんと発酵させた証し」と3代目の中谷光基さん。直売所(9:00~17:00、土・日休)でも購入可。
☎042-471-5321
取材・文=信藤舞子 撮影=オカダタカオ
『散歩の達人』2023年3月号