根津神社の門前町は魅惑の商店街&住宅地
まずは、300年余にわたり街を見守ってきた根津神社にごあいさつしよう。千駄木よりの根津エリア北から、南の不忍池方面へ下る計画だ。
不忍通りから根津神社入り口の交差点を左に入り、石畳の小道を表参道口へ進む。今は静かな参道だが、傍らに「根津遊郭の跡地」の碑文をみつけると、かつての賑わいが忍ばれる。なんでも、「根津」が「不寝」と書かれるほどの遊郭が広がっていたそう。
広々とした境内には、子供たちが遊ぶ声、散歩に来た犬の鳴き声が響きわたる。ご近所らしきシニアと並び、石のベンチでひなたぼっこをすれば、ポカポカと身も心も温まってくる。
どこにでもある神社のようだが、豪華なつくりの楼門、透塀にかこまれた本殿など、根津神社の社殿群は国の重要文化財。5代将軍綱吉公の時代の建築が現存し、さかのぼれば1900年前に日本武尊(ヤマトタケル)が創祀したという由緒を持つ。
都内屈指の文化スポットを日常使いできるなんて、根津の暮らしはなかなか贅沢……そんな思いで見上げれば、78戸・14階建ての「プラウド文京千駄木」がそびえ立つ。
「各フロア6戸で全体の約66%が角部屋。南東向きの住戸は上層階であれば視界が抜け根津神社の豊かな緑なども望める眺望です」と石川さん。「上層へ白色系の石を積み上げて垂直性を強調し、一面に張り巡られたガラスウォールとその中に金属を配したスタイリッシュなデザインですね」。根津駅、千駄木駅ともに徒歩5分ほど、まさに「谷根千」の中心だ。
不忍通り沿いの魅力的な商店街は、毎日の生活を豊かにしてくれるだろう。例えば、上品な店構えがひときわ目を引く『根津松本』。魚のプロがいう「一の線」、市場で扱われるなかでも極上品だけを扱うオンリーワンの鮮魚店だ。
甘いお香が漂う店内には、イカの一夜干し1620円、紅鮭の切り身2160円といった商品が並ぶ。一瞬腰は引けるが、通常は高級飲食店でしか食べられない魚ばかりだから、むしろリーズナブルに「一の線」を味わうチャンス。しかも、仕入れた魚をそのまま売るのではなく、丁寧にウロコや小骨を取り除き、塩を振ったり干物にしたりするなど、一番美味しく食べられるようお膳立てしてくれる。
「自分が売りたいと思う魚を集めたらこうなった」と店主の松本秀樹さんは微笑む。飾らず、はつらつとした接客も店の魅力。特別な魚が手の届くところにある根津の暮らしは、やはり贅沢だ。
『Bar長谷川』は通りから20mほど奥まった住宅地で営業する、まさに“根津の隠れ家”。銀座『ロックフィッシュ』など名店で経験を積んだ長谷川森人さんは、「落ち着いた環境で店を開きたい」と2016年にここで独立した。付かず離れず、話しかければ気さくな接客に、慣れない客でも心地よい時間を過ごせる。
「近所に住んで毎日でも飲みたくなる一杯」をリクエストすると、氷のないハイボールをつくってくれた。冷凍庫でキンキンに冷やしたグラスに、サントリーウイスキー角瓶と炭酸水を注ぎ、レモンピールで香りを付けたシンプルなもの。時間が経っても氷が溶けて味が薄まることがなく、じっくりと味わいながら一杯を飲み干せる。
住宅地の奥へ坂を上ると、その先には東京大学のキャンパスが広がる。伝統ある校舎を見上げる「アカデミックでノスタルジック(石川さん)」なエリアに立つヴィンテージマンションは「秀和弥生町レジデンス」。
「東大赤門を意識してか、赤レンガの門がチャームポイントのエントランスから階段を上がると、アイアンの扉や照明、床のモザイクタイルがあしなわれ、洋館のような佇まいのアプローチが広がります。また、この辺りは裏路地的な雰囲気が残っており、都会の喧騒から離れた落ち着いた環境です(石川さん)」。
2軒先には、挿絵画家・高畠華宵らの作品を収蔵する『弥生美術館』と、創設者・鹿野琢見の夢二コレクションを展示する『竹久夢二美術館』。
根津には古くから文人や芸術家が住みつき、思いがけず住宅地でギャラリーに出合えるような、アートの街でもあるのだ。
タワーマンションが不忍池を引き立てる都市の景観
街の南側、不忍池を囲むように広がる池之端エリアには、敷地の広い大型住宅が点在する。いわば根津マンションめぐりのハイライトをお送りしよう。
「D’グランセ池之端三段坂」は、その名の通り踊り場で段状になった「三段坂」の下に立つ。「木の暖かみを感じさせ、伝統美の中に現代的な見立てを施したエントランスアプローチ、吹き抜けのある中庭や内露地、など、こだわりの造形を施しています」と石川さん。7階建てのどっしりとした構え、ブラウンタイルにコンクリート打ち放しも織り交ぜた外観は、人通りもまばらな住宅地の落ち着いた雰囲気によくなじむ。
さらに南へ進むと「ザ・ライオンズ上野の森 セントラルタワー、ウエスト・サウスレジデンス」。石川さんによれば、「ライオンズ」ブランドの6000棟記念プロジェクトで、フラッグシップに位置づけられたというハイグレードなマンションだ。全212戸のビッグコミュニティで、19階建てのセントラルタワーと低層のウェストレジデンス、中層のサウスレジデンスの3棟構成となっている。「メインエントランス前の敷地内には、2つの異なる表情を持つ庭園空間を設けられています。和洋・新旧が調和する上野の土地柄が体現されていますね」。
ここまで来れば、不忍池はすぐそこ。視界の下に広がる水面、緑豊かな上野恩賜公園、およそ3km先の東京スカイツリーと、上階からの眺めはさぞや素晴らしいに違いない。
不忍通りを挟んだ池畔には、地上36階建てのタワーレジデンス「Brillia Tower池之端」が直立する。石川さんが「池の反射と呼応するかのよう」「日本的美意識になじむ格子調」と表現するガラス張りの外観が特徴。「上野恩賜公園からマンションを眺めるのが“映える”ベストポジションですね。春には満開の桜、秋には紅葉といった四季折々の自然に彩られます。また、夜にはマンションからの照明が不忍池に反射して、水面にキラキラと輝き、ラグジュアリーな雰囲気を醸し出してくれます」というように、都市の景観をつくる一部として成立している。
そんな池之端ライフの憩いの時間には、三段坂の住宅地にある『古月 池之端 本店』を提案したい。コンセプトは本格中国料理と食養生料理。本場中国の「栄養薬膳大師」の資格を持つ山中一男料理長が、多彩な食材を用いて腕を振るう。
コースはランチで4300円~だが、前菜とデザートにメインの炒飯または麺類がついたランチセット1980円もおすすめ。いずれも、食養生の考え方を取り入れた料理長オリジナルだ。
また、月2回、副料理長の加藤久典さんがスーパーで買える食材を使った料理教室を開催している。「季節の食材が持つ効能を組み合わせて体によいものをつくる(加藤さん)」という食養生の基本を学んではいかがだろうか?
古き良き風情と新しい波を感じながら
歩き終えると、「店を開いた6年前は、駅前にも24時間営業のコンビニがなかった」という長谷川さん(『Bar長谷川』)の一言が思い起こされる。
空襲を逃れた根津は街が古く、住人もそれを大切にしているのだろう。特に文京区側は、あちこちにコンビニやチェーンの飲食店が開いているわけではなく、だからこそ他所にはない魅力がある。
もちろん、外国人観光客の増加などをうけ、駅徒歩0分のセブンイレブンやタピオカの専門店など、新しいスポットもできている。古き良き風情を味わいつつ、ゆっくりとした変化を間近で体感するのも、根津に住む面白さではないだろうか。