まさに時代劇に出てくるような形の看板を、世田谷ボロ市通り商店街で見つけました。写真の通り無言でしたが、冬が近づくとやはりボロ市関連のお知らせが掲示されるのでしょうか。
骨董や蚤の市の好きな人にはおなじみの世田谷のボロ市ですが、その前身は江戸時代の市町(いちまち)や安土桃山時代の六斎市(ろくさいいち)にまで遡るといわれています。
小さな屋根が付けられた一本足の高札型の掲示板はレプリカとはいえ、いまも江戸時代の代官屋敷が保存されているこの町内の風情を静かに演出しています。
小さな公園の植え込みに文字の消えた立て札がありました。手製の造作から見て公園管理課が立てたオフィシャルなものではなく、地区町会か近所の誰かが植栽エリアへの立ち入りか何かを見るに見かねて立てたインディーズ看板なのかもしれません。
静かに一本足でたたずむ姿は鶴かフラミンゴのようです。
こちらは黒の〈高札型〉無言板ですが、近寄ってみるとなかなかの傑作じゃないですか。張り紙が剥がれた板にぐるぐると螺旋形にチューブを回しながら一筆書きで接着剤を塗った手つきが書や絵画の筆跡のように生々しく残されているんです。
渦巻模様に棒が付いた姿はポップキャンディーみたいで可愛らしくもあります。
住宅地の公園にやってきました。車の進入防止のスチール製のガードのユニークな形に目をひかれますが、そこに〈プラカード型〉の無言板がくくりつけられています。
斜めに傾いた板を前にこちらも首を傾げて考えますが、何が書いてあったのかはさっぱりわかりません。
無を要求するプラカードは存在としてコンセプチュアル・アートのようです。
これは〈プラカード型〉の短い足を継ぎ足して背を高くした改造〈高札型〉です。元は低い位置に差してあった「花壇立入禁止」的な看板を流用して、遠目に読ませる「公園内禁煙」のような看板に作り替えたのでしょう。小さな子が背伸びして実力以上に頑張っているようで可愛いらしくも見えます。
道路に置かれたシチュエーションから察するに「駐車禁止」だったのでしょうか。ここに置いておくだけでじゅうぶん機能を果たしているので文字が消えても首が傾いてもそのままなのでしょう。
整体師がやるように首をエイッと持ち上げてまっすぐに直してあげたい気持ちに駆られますが、ボキッと折れたら大変なことになるので、今度通りかかったときに治っていることを祈りつつ今日のところは黙って通り過ぎます。
文・写真=楠見清