徳永ゆうき
1995年2月20日、大阪生まれ。2012年「NHKのど自慢チャンピオン大会2012」で優勝。BEGIN比嘉栄昇氏による「さよならは涙に」でデビュー。「タモリ倶楽部」(電車クラブ)で、鉄道大好き演歌歌手として全国区に。NHKラジオ第一「鉄旅・音旅 出発進行!」などに出演中。
「鉄道の前で歌ってみたい。夢が叶った、世田谷線」
―― 鉄道大好き演歌歌手、徳ちゃんのデビューのきっかけは、高校時代だとか?
徳永 そうです。子供の頃から車掌さんになりたくて、鉄道会社に就職しようと、工業高校の機械科に通ってたんです。そんなある日、友達から誘われたのど自慢に出たら、大阪でチャンピオンに選ばれて、全国大会出たら全国チャンピオンにも選ばれて、演歌界に入ると、カピパラに似てるねと言われ、「カピやん」というイメージキャラまで作っていただき、今にいたります(笑)。
―― カピやんも大人気ですが、もともとは車掌さんを目指していたんですね?
徳永 そうです。鉄道好きになったんは、地元の阪神電車がきっかけです。子供の頃、淀川の河川敷から、川を渡ってくる電車に手を振ったんですよ。そしたら車掌さんが、僕に気づいて、手を振り返してくれたんです。めっちゃ感動して、大きくなったら車掌さんになろう! と思いました。
―― 一方で演歌も得意だった。
徳永 両親と祖父の影響で演歌歌謡曲を聴いて育ったんです。小4の時に、三波春夫さんが歌う姿を映像で見て、こんなにニコニコしてはるのに、歌うとキリっとしててかっこいい! って衝撃を受けて。両親が奄美出身なんで、奄美の県人会やカラオケ喫茶で歌うようになって、その頃からこぶしが回ってました。演歌と相撲が好きやったんで、同級生によく「おっさんかい!」と言われてました。
東京で初めて住んだのは、世田谷線沿いでした
―― 2015年は、世田谷線で新曲を歌うというビッグイベントがありました。
徳永 あれはほんま嬉(うれ)しかったア〜。中川家の礼二さんも来てくださって、世田谷線を貸し切ったんです。後ろにはセタ線、足元には線路、目の前には礼二さん! もう、歌どころじゃなかったです。
――“セタ線”の好きなところは?
徳永 大阪から上京した時、初めて住んだのが梅ヶ丘やったんで、休みの日はカメラ持って自転車に乗って、豪徳寺あたりのセタ線沿いをよく走ってたんです。三茶の駅の外国っぽい丸屋根もいいし、車体のカラーバリエーションがすごく多いし、つり革が招き猫やったりして、撮っても乗っても飽きません。電車の音も、タタン・タタン・タタンって優しいし。
―― お気に入りのスポットは?
徳永 一番好きなんは若林踏切かな。踏切ないのに、道路の交差点の信号名が「若林踏切」なんですよ。道路優先やから、環七の信号が変わるまで、電車は行き交うクルマをじーっと待つんです。その姿が、もう愛おしいです。
―― 音鉄でもありますよね?
徳永 鉄道の音って、無限にあるんですよ。僕は特にジョイント音が好き。鉄橋を渡る音とか、一定のリズム刻んで、ががん、ががんががんががん、ががんって。あと塗油機の上を通過する音。
―― とゆき……?
徳永 電車ってカーブする時、レールと車輪の摩擦で熱持つんで、油で摩擦を減らしてるんです。ガタンガタンていうのは、線路のつなぎ目を通る音。塗油機の上を電車が通ると油が出て、その時に、チチッチチッっていう音がするんです。
初めて聞いた時は、この金属っぽい音は、何やろうって思って調べたんです。そしたらちっちゃい塗油機が、カーブの摩擦熱を抑えてるんだ、金槌(かなづち)を叩いたような音を響かせながら頑張ってるんやってわかって感動しました。あのチチッチチッって音だけで僕、ぐっすり眠れます。
―― 今年(2021年)は、ツイッターの車掌アナウンスと、駅メロピアノが大変な話題に。
徳永 じつは僕、ピアノ弾けないんです。だから駅メロを何回も聞いて、鍵盤を人差し指で押さえて「ここか? ちゃうな。こっちか? ここや! このファのシャープや」って、遊んでたんですけど。大阪環状線をやった時とか、「故郷に帰った気持ちになりました」って声をいただいて、嬉しかったです。バズり過ぎて、早くもややネタ切れな感じですけど(笑)。
―― 車掌アナウンスは、いつから?
徳永 最初に車掌さんのマネ始めたんも、阪神電車です。ちっちゃい頃から停車駅を覚えて、「のだ、あまがさきぃ、むこがわ、こうしえん……」って心の中で、車掌さんとハモってました。
人前でやり始めたんは、デビューしたばかりの時です。月1回、東京タワーで歌わせていただいてたんですけど、MCで何話したらいいかわからなくて、自己紹介の後、車掌さんのモノマネをやったら、すごい盛り上がって。そのうち、「この線やってみて」「この線できる?」っていうリクエストにお答えするうちにレパートリーが増えていきました。
―― 全国津々浦々の車掌モノマネを?
徳永 コンサートや営業で地方行く時も、なるべく鉄道で移動するんです。ほんで現地の電車の音や車掌さんのモノマネを練習してMCでやるのが恒例に。一番重要な新曲紹介の時に、残り時間あと5分やん! みたいことによくなってます。
―― 車掌アナウンスを盛り込んだ『渋谷節だよ青春は!』も名曲です。
徳永 つんく♂さんに、NHKの「シブ5時」のテーマソングの歌手に選んでいただいて。オーディションの時に、「大阪の車掌アナウンスもできる?」って聞かれたんで、つんく♂さんにゆかりのある、近鉄をやったら、めっちゃウケてくれて、無事に合格しました(笑)。
「車掌さんのモノマネに続き、注目しているのは駅員さん!」
―― NHKの朝の連ドラ「エール」では、特技の高速指パッチンをしながら「鉄道唱歌」を歌うシーンも印象的でした。
徳永 あの時もオーディションがあったんですけど、指パッチンが良かったみたいで。ピアノ伴奏してくれてる人も鉄道がお好きで、すごい楽しい撮影でした。
―― 最近、鉄道関係で気になることは?
徳永 車掌アナウンスも自動案内が増えたんで、今ひそかに目をつけているのはホームの駅員さんです。
「駆け込み乗車、おやめください? 次の電車合わせてご利用ください! このあたりで、ドアを閉めまあすーっ!」って本気で怒ってはる。ホームでは、やっぱり駅員さんの生の声じゃないとあかんと思います。危ないですからね。
あと気になるのは、マイクの調子悪い駅員さん。「次にこのホームに参ります……は……の……行きです」。一番大事なとこが聞こえへん……!
―― わはは〜。ありますあります。
徳永 休みの日も入場券だけ買って駅のホームで駅員さんの声聴いたり、駅メロ聴いたり、待合室でぼうっとしたりしたり、もうそれだけで楽しい。
公式マークがついちゃった! 鉄道写真だけのアカウント
―― 電車旅もします?
徳永 JRは大回りができるから、120円で今日はどこ行こかな〜って何も決めんと電車乗ったりします。できれば一番後ろの車両に乗りたい。先頭もいいんですけど、トンネル通る時は運転手さんにカーテン閉められちゃうんで。最後尾で車掌さんのことを、「見てませんよ」というポーズをとりながら、めっちゃ見てます。やっぱり僕、車掌さんが好きなんで(笑)。
―― 最後に、インスタの鉄道写真専用アカウントも、プロ並みの腕前と評判ですが、うまく撮るコツってなんでしょう?
徳永 う〜ん、コツかわかんないですけど、僕、カーブが好きなんで、顔の正面と車体がくねってる姿を撮りたい。あとわざとブレた感じの「流し撮り」とか。
というか! あの鉄道写真のアカウントに僕は一回も出てないんです。趣味であげてただけなんで。ところがいつの間にか「徳永ゆうき」公式マークがついてもうて、あああ! って慌てて本業の歌手のアカウントも作りました。でもフォロワー数、まだ全然負けてます……。こちらもよろしくお願いします!
【鉄道 × 歌】 聴いておきたい3タイトルはコレ!
『夢さがしに行こう』 …2015年
作詞:いではく 作曲:ミヤギマモル。
列車の旅で人情に触れるメロディアスな楽曲。中川家の礼二さんをゲストに、世田谷線を貸し切りお披露目された3枚目のシングル。
『渋谷節だよ青春は!』 …2019年
作詞作曲:つんく♂
NHK総合「ニュースシブ5時」テーマソング。シンセ調な音楽と、ポップな踊りで、いまだかつてない斬新な演歌スタイルを確立。車掌アナウンスもあり〼。
『車輪の夢』 …2020年
作詞作曲:youth case
地方から上京してきた全ての人の心に沁みわたる名曲。PVは、すれ違う若い恋人たちの切ないドラマの中で、徳ちゃんも彼女の「上司」役として登場。
取材・文=さくらいよしえ 撮影=加藤昌人
『散歩の達人』2021年9月号より