建物の全面が植物に包まれた「植物ハウス」など、村田さんが撮影する路上園芸の写真には「こういうの、そういえば街で見たことある!」と感じるものも多い。一方で「#はみだせ緑」「#植物のふりした妖怪」といったハッシュタグで投稿される写真には「何だこれ!」と驚くものも満載だ。

建物全体がツタで覆われた「植物ハウス」。植物の生命力がビルばかりの街に異世界を生み出す。写真提供:村田さん

その村田さんは、「路上園芸学会」のアカウント名でTwitterやInstagramに路上園芸の画像を投稿している。たとえば下記のような画像だ。

「さんたつ」では、そんな村田さんの活動や著書の内容を伝えるインタビューを全3回で掲載。第一回では、村田さんが路上の園芸を観察対象とするようになった背景や、「路上園芸学会」での活動について伺った。

村田さん初の著書『たのしい路上園芸観察』(グラフィック社/1500円+税)

上京して驚いた「東京の路上の緑の多さ」

現在はフリーランスのライターなどとして活動し、路上園芸観察に関する文章を数多く執筆している村田さん。小さな頃から植物を身近に感じる環境で育ってきたそうだ。

「生まれ育った福岡の実家は、家のすぐ裏が山で。小さな頃は自然の中で毎日遊んでいるような子供でした。高校卒業後に進学した北海道大学も、キャンパスは緑にあふれていたので、植物や自然はかなり身近に感じて育ってきたと思います」

なお大学で専攻していたのは地理学。そのときに叩き込まれたフィールドワークの手法は、現在の路上園芸の観察にも生きているそうだ。そして大学卒業後は、都内の大学院の修士課程へ。そこで見た東京の景色には驚きがあったという。

「上京前は『東京には自然なんてないんだろうな』と思っていましたが、実際に出てきてみると、路上には園芸などの緑があふれていることにビックリしました」

日本を代表する都市の東京。ビルばかりのエリアもあるが、よくよく見れば街なかには緑があふれかえっていたりする。

ただ、学生時代は「植物を仕事にしよう」とは思っていなかったという。

「修士課程の卒業後は、化学品のメーカーに就職しましたが、2年ほどで退職をしました。その後、“20代の自分探し”で仕事についてあれこれ悩んでいた時期に、『そのままでも美しい自然のもの』『仕事としてもライフワークとしても一生をかけて追求したいもの』として、植物を仕事にしたいと思ったんです。今思うと、自然への揺り戻しもあったのかもしれません」

現在は路上園芸観察をライフワークとする村田さん。上記の写真は台湾で撮影したもの。

当初は植物を使った空間装飾に興味があったこともあり、グリーンコーディネーターの専門学校へも通学。園芸装飾技能士の資格を取得するなどして、植物の知識や技能を高めていった。デパートの屋内の植栽を手入れするアルバイトも経験したそうだが、そうした仕事には小さな違和感も覚えるようになっていった。

「空間装飾で使われる植物は設置時点では生き生きとしていても、屋内の光も風通しも良くない環境に置かれると、徐々に弱っていくこともあります。その姿を見ていて『うーん……』という気持ちがありました」

また空間装飾は多くの場合“デザインありき”で、作家名や作品名が付くものも多い。その点も、「より飾られてない、そのままで美しいもの」を求めていた当時の村田さんの気持ちには合わなかったという。

プロの “デザイン”と無縁の路上園芸の心地よさ

そんな時期に、ふと気になって撮りはじめたのが、路上で見かける園芸だった。

「最初に興味を持ったのは、よく通りかかる近所の道に放置されていたプランターでした。そのプランターは割れかけてるし、死んだ目つきの狸の置物も乗ってるし、植物も植えたものなのか、勝手に生えたものなのか分からない状態でした。でもその存在が、あるときから急に気になりはじめたんです」

最初に村田さんが気になったプランター。たしかに狸の目が死んでいる。写真提供:村田さん

そのプランターをきっかけに、「そういえば、いろんな場所にこういう感じの植物が置かれているな」と気づき、家の軒先やお店の前にある鉢植えを観察するようになったという。

「そうした場所の植物は、いわゆる“デザイン”とは無縁のものですが、『自分の生活を楽しくするため』『周囲を歩く人の目を楽しませるため』に置かれたものですよね。その肩の力が抜けた感じが、すごくいいなと思ったんです。あと、植木鉢の半分が雑草だったり、鉢から逃げ出した植物が地上から生えてたりするのは、一般的には“きれい”な状態ではないかもしれませんが、私は『自然でいいな』と感じるようになりました」

「自分の生活を楽しくするため」「周囲を歩く人の目を楽しませるため」に置かれた路上の園芸。こちらは村田さんの取材時に押上で見かけた光景だ。
こちらも押上で見かけた路上園芸。「上の鉢の植物が路上に逃げ出したのか、路上の植物が上の鉢に『おじゃまします』と入ったのか……」と村田さんは興味深げに観察していた。

路上の園芸を手掛けるのは、植物や空間装飾のプロフェッショナルではない。しかしそこには、植物を配置し・育てている人の思いや工夫が詰まっている。そのように暮らしとともに自然と紡がれた光景に、村田さんは心惹かれ、写真の撮影をするようになったわけだ。

「最初は撮影した写真を夫や身近な友人に見せたり、友達向けのUstreamで『こういう面白いものを見つけました!』と発表したりしていたんですが、反応は『へー、そうなんだ』『言われてみればあるよね、そういうの』みたいな感じで、あまり響いてませんでした(笑)」

SNSでの活動を始め、先達の存在を知る

村田さんが本格的に路上園芸の情報発信をはじめたのは2014年ごろ。同年と翌年には路上園芸をテーマにしたイベントを開催し、2015年にはInstagramとTwitterに「路上園芸学会」のアカウントを開設。撮影した写真にコメントを付けて発表したところ、徐々に反応が増えていったそうだ。

「SNSで活動をはじめて驚いたのは、同じような趣味を持っている人が想像以上に多かったことでした。『路地裏園芸』『路上植物園』『軒先園芸』などなど、人によって言葉は違いましたが、そうしたハッシュタグで私と同じような写真をアップしている人が何人もいたんです。また『プランツ・ウォーク』という名前で、街なかの植物を愛でながら歩くプロジェクトもすでにあり、『プランツ・ウォーク 東京道草ガイド』(柳生真吾、いとうせいこう著/講談社)という本が出ていたことも知りました」

2011年発売の『プランツ・ウォーク 東京道草ガイド』(柳生真吾、いとうせいこう著/講談社)。なおプランツ・ウォークのイベントには村田さんも参加したことがあるそうだ。

そうした先達の活動にも触れながら、村田さんは活動を本格化。似たような活動をしている人や、近い分野で路上観察にまつわる活動をしている人と知り合う機会も多くなった。

「2016年に出版された三土たつおさんの『街角図鑑』(実業之日本社)にお声がけをいただいて、その本に寄稿をできたことは、とても大きかったと思います。そこで、街の違うものを観察する方たちとも知り合うことができました」

パイロン、マンホール、送水口、段差スロープなど、街角にあるのに普段はあまり視界に入らないものに着目した『街角図鑑』(三土たつお編著/実業之日本社)。2020年には続編も発売になった。

なお筆者が村田さんの活動を知ったのも、筆者がツイッターでフォローしていたマンホール好きの人達が、「路上園芸学会」のツイートをリツイートしていたためだった。村田さんの『たのしい路上園芸観察』には、隙間に緑の生えたマンホールを「蓋庭」と呼んで紹介している写真があったが、そうした写真はマンホール好きの人達もよくアップしているものだ。

「私も『蓋庭』という言葉は、マンホール好きの方の投稿を通して知りました。草の生えたマンホール蓋は『すきまネイチャー』という呼び名で写真をアップしている方もいますし、私よりも前に、同じような観点で面白がっている方はいたのかなと思います」

こちらがマンホールの「蓋庭」。パンダのような表情がかわいい。写真提供:村田さん

なお『街角図鑑』に取り上げられるような、路上の「通常は景観とは見做(みな)されないもの」を観察する活動は、赤瀬川原平の「路上観察学会」の活動を想起させるもの。村田さんが主宰する「路上園芸学会」という学会名も、それを意識したものなのだろうか。

「その点は『紛らわしい名前を付けてしまって申し訳ないです……!』と思っています。もちろん赤瀬川原平さんの名前は存じ上げていて、本も読んでいたのですが、そこまで強く意識して付けた名前ではありませんでした。『路上園芸学会』という名前は、私が勉強してきた地理学がフィールドワークをベースに分析・考察する学問だったので、『路上の園芸も自分なりに目で見て分析をできたら』という意味と、『時にツッコみながら楽しく観察をしたい』という意味を込めて、あえて仰々しい名前を……と考えて付けたものでした」

しかも学会といいつつ会員は村田さん1人だったりする。

「最初は夫が副会長として入会していましたが、夫は路上園芸よりも、同じような場所に置かれている狸の置物が好きで。それを『街角狸』と呼んで撮影する活動もしているので、そちらに専念するために途中で脱退しました」

村田さんのご主人は「むらたぬき」さんという名前で、SNSで街角狸の画像を投稿中だ。

園芸空間のパーツをハンコとしてグッズ化

村田さんは路上園芸観察の活動と並行して、2017年にはSABOTENSというユニットでも活動を開始。一緒に活動をしているのは、「落ちもん写真収集家」の藤田泰実さんだ。

グッズ制作、イベント出店や展示等の活動を行うSABOTENS。右が村田さん、左が藤田さん。写真提供=村田さん

「藤田さんとは共通の友人を介して知り合ったのですが、彼女も『路上に落ちているものの写真を撮りためる』という、私と同じような活動をしていました。偶然にも私と同い年だったこともあり、『2人で何かやろう!』という話になり、SABOTENSの活動をはじめました」

SABOTENSが世に送り出した作品の一つが「家ンゲイはんこ」。下町の園芸空間を彩る「あるある」パーツをはんこ化し、自由に組み合わせることで、紙の上で路上園芸を疑似体験できるキットだ。

SABOTENSの「家ンゲイはんこ」。ハンコは現在50種類ほどある。
このようにスタンプを押すことで自分なりの路上の空間を作ることができる。

「『植物とか園芸により気軽に親しんでもらえるものがあったらいいね』と話し合って、このはんこを作りました。街の園芸を眺めていると、園芸と一緒にペットボトルがズラリと並んでたりとか、室外機の上に植木鉢が置かれがちだったりとか、『あるあるアイテム』の存在が見えてくるんですよね。そうしたアイテムをハンコにすれば、植物を育てるのが苦手な人でも紙の上で路上の園芸を楽しめるかな……と思ったんです。実際に私も植物を育てるのが苦手なので(笑)」

この「家ンゲイはんこ」をきっかけに、路上園芸の観察に興味を持ってくれた人もいるそうだ。

「ハンコという文具になったことで、文具関連のイベントからもお声がけをいただくようになりました。イベントで初めて見られた方は、最初は『え、このハンコ何ですか?』みたいに驚くんですが、『街の風景によくあるアイテムをハンコにしたんです』と説明すると「あ~言われてみたら、こういう風景ありますね!」と面白がってくれる方も多くいます」

こんな形で絵を書き足して楽しむことも可能。なお一番人気は猫のはんこだそう。

『散歩の達人』2020年6月号に掲載した路上観察をテーマにした記事でも、片手袋研究家の石井公二さんが「『こんな路上観察のアウトプットの仕方もあるんだ!』と驚きました」と「家ンゲイはんこ」を絶賛していたが、グッズとしての路上園芸のプレゼンは、新たな層に路上園芸のおもしろさを伝えることに成功したわけだ。

「仰々しくも『学会』を名乗ったこともあって、私は路上園芸の活動をするときも、『文献を読んで知識をつけなきゃ!』と肩に力が入りがちでしたが、藤田さんは本業がデザイナーなので、文章以外の形での面白さの伝え方や、アウトプットの仕方をいろいろと知っています。この『家ンゲイはんこ』はSABOTENSのユニットがなければ作れませんでしたし、彼女の発想からは日々刺激をもらっています」

取材・文・撮影=古澤誠一郎

最近は路上園芸、パイロン、室外機などなどジャンルの多様化が進んでいる路上観察。今回は路上観察界で活躍する2人の対談で、現在のシーンを概観。「路上観察」「超芸術トマソン」の生みの親の赤瀬川原平と、現在の路上観察の関係も紐解く。