『たのしい路上園芸観察』(グラフィック社/1500円+税)
2020年10月に初の著書『たのしい路上園芸観察』(グラフィック社)を発表した路上園芸学会の村田あやこさん。住宅や店舗の前などで営まれる園芸や、路上空間で育まれる緑を「路上園芸」と名付け、その撮影・記録を行う“路上園芸鑑賞家”だ。

雑草も「路上が育む園芸」として観察

10年ほど路上の園芸の観察を続け、200以上の街を歩いてきた村田さん。その成果をまとめた本が『たのしい路上園芸観察』だ。同書は大きく分けて下記の2種類の園芸を紹介している。

・路上で営む園芸(住民によって営まれる園芸)
・路上が育む園芸(人の都合に関係なく路上で自生したり、路上にはみ出して大きくなったりした植物)

上のツイートからも分かるように、村田さんはカラの鉢に勝手に生えてきた植物も「路上園芸」と捉えて観察しているのだ。

「もともと私は人が設置した園芸に興味があったんですが、途中からは『植木鉢からもはみだしてしまう植物の生命力も面白いぞ!』という感覚が出てきました。そうした写真も多く撮ってきたので、書籍の『たのしい路上園芸観察』では、前半で住民が営む路上の園芸を紹介しつつ、後半部分では街の環境に適応して生きる植物も『路上が育む園芸』として紹介しています。園芸というものを勝手に拡大解釈しちゃってるんですけど(笑)」

つまり村田さんが観察対象とする路上園芸には、道端に生える雑草も含まれるというわけだ。

放置され気味の路上園芸は野生のように増殖。外に飛び出したり、周囲の雑草と一体となって広がったりする。こうした光景を見るのも路上園芸観察の楽しみだ。村田さんの取材時に押上にて撮影。

「私は路上園芸のなかでも、鉢からはみ出て物凄い形になったサボテンやアロエが好きなんですが、本の中身がそればかりだと見栄えがどうなのかな……とも思って(笑)。植物に包まれた家とか、植物がたくさん並んだお店とか、見ているだけで『きれいだな』『気持ちいいな』と思える園芸もあったほうがいいなと考えて、そうした路上園芸も書籍製作にあたって追加で取材をしました」

屋根の上にも軒下にも鉢植えがぎっしり並ぶ、台湾の家。写真提供=村田さん。
色とりどりの鉢植えが並び「開かずの扉」になった家。写真提供=村田さん。

路上園芸の魅力は「はみだし」にある

『たのしい路上園芸観察』の中で、村田さんが路上園芸を愛でるキーワードとして多用しているのが「はみだし」だ。

「『物理的に敷地からはみだしている』『植物の生命力がはみだしている』『育てる人の感情や生活が植物にはみだしている』といった特徴が、私が路上園芸に惹かれるいちばんの理由です。特に、園芸を育てている方の小さな工夫とか、ささやかな生活の楽しみがはみだしている園芸はすごく良いなと感じます」

路上園芸の横でよく見る猫よけのペットボトル。ミツカンのお酢のボトルが混じっているあたりに生活感がはみだしている。押上にて観察。
こちらも押上で見た園芸。小さなトラの置物がそっと添えられているあたりに、住民の方の遊び心がはみだしている。
こちらはタワシやスポンジが引っ掛けられたピラカンサの植木鉢。「生活感があっていいですね……」と村田さん。

再開発で街の区画がバキバキに整理され、景観維持の観点から洗濯物の外干しまで禁止するようなマンションも増えている今、路上園芸の「敷地外へのはみだし」や「生活感の路上へのはみだし」が許容されている状況は、その街のおおらかさの象徴ともいえるものだ。

「上京前は『東京の街はすべてが計画されていて、遊びの部分はないのかな』と思ってたんですが、実際に歩くとそうじゃなくて。特に生活感が感じられる街だと、それぞれの家の方が、自宅前や路地の周囲に親しみを持っていることが園芸から感じられるんですよね。中にはグレーなはみ出し方もありますが(笑)、そういう遊びの部分というか、白黒つかぬ曖昧な部分が街に残されているのを見てると、不思議と心が落ち着きます」

家の敷地をはみ出て、公道スレスレにまで迫る押上の路上園芸。カッチリと区画整理がされた街では見られない光景だ。

植え込みが個人の庭化する「どさ草」現象

なお村田さんは、植え込みや歩道などが、ひっそり誰かの「庭」化している現象を「どさ草」と命名。取材時に村田さんと歩いた押上でも、その「どさ草」は多く発見できた。

あまりに多彩な植物が並ぶ公道脇の植栽。誰か個人が持ち込んだ植物が紛れ込んでいそう!
こちらではトロ箱に入れられたアロエが植栽脇でジャングル化していた。
中にはぶどう棚まで作られ、菜園に近い状態になっていた場所もあった。

「街路樹を管理する仕事の経験のある知人に話を伺ったら、街路樹を勝手に切ったりするのはやはりマズいし、管理上不都合のある場合は撤去されるケースもあるそうです。一方で、もともとある街路樹も大事にしいて、そこに影響を及ぼさない範囲で植物を植えている場合は、それが黙認されているケースもあるとのことでした。個人宅の鉢植えが巨大化して、後に保護樹木になったケースもありますし、東京の緑はそうした個人の植物と公共の植物がパッチワーク状態になっているのも面白さだと思います」

そうした「どさ草」を含めて、さまざまな「はみだし」がユルく許容されているのは、やはり古くからの住宅が並ぶ下町エリアだ。

「大きなマンションが建てられたり、大規模な再開発が行われたりすると、そうした空間が消えてしまうんですよね。街の空間に“遊び”がなくなっちゃうというか。なので、そうした場所を見つけたときは『今あるうちに撮っておこう』と感じます」

豆腐パックを使った押上の路上園芸。「これはイネ科の植物ですかね。かわいい~!」と村田さんも発見して大喜び。

その意味で、路上園芸の観察は「都市のスキマ探し」と言える楽しさがある遊びなのだ。

「路上園芸の観察は自然が豊かなエリアでもできますが、都市の街なかのほうが面白いものが目に入りやすいかもしれませんね。ほんのわずかな路肩とか、家の前の小さなスペースの駆使の仕方は都市部のほうが面白いんです。特に東京の下町といわれるエリアは『こんな場所に置くのか!』と驚く例も多いですし、植物の配置の技なども楽しく見られます」

こちらも押上で見かけた台車に乗った路上園芸。「これはモバイル型ですね!」と村田さん。

なお『たのしい路上園芸観察』には何百枚もの路上園芸の写真が掲載されているが、それぞれの写真の横に撮影年月が入っているのも特徴だ。

「植物には『年月を経て育っていく様子を観察する』という楽しさもありますよね。私も定点観測しているポイントはいろいろな街にあって、近くを通りかかったときにはそこに立ち寄ったりします」

踊ってるみたいなサボテン。上記の書籍掲載の写真は2017年5月のものだったが……。(写真提供=村田さん)
2020年10月の取材時には見た時はこんな形に。「あ、大きくなっている!本に載せたときよりも手が増えてますね」と村田さんも再会を喜んでいた。
前後のカゴに植物が置かれ、全体が緑に包まれつつある自転車。こちらも『たのしい路上園芸観察』に登場した場所だったが、取材時も健在だった。

時には住民に話を聞くことも

『たのしい路上園芸観察』には、「住民の方によると」と、路上園芸を育てている方から聞いたエピソードが載っているケースも複数ある。村田さんは路上園芸の観察中、住民の方に話を聞いてみることもあるのだそう。

なお住民の方に話を聞くのは、「基本的には観察中に近くにいらっしゃった時だけ」とのこと。ただ、「落ちもん写真収集家」の藤田泰実さんとのユニット・SABOTENSでは、街なかの巨大なサボテンを巡る『サボテンお遍路』を行っており、そのお遍路中は積極的に話を聞いているという。

グッズ制作、イベント出店や展示等の活動を行うSABOTENS。右が村田さん、左が藤田さん。写真提供=村田さん

サボテンお遍路中に撮影した画像は、下記のように村田さんのTwitterにも投稿されている。「#サボテンお遍路八十八ヶ所」のハッシュタグで検索すると、ほかにも沢山すごいサボテンが出てくる。

「サボテンお遍路中は、巨大なサボテンを見つけたら家のチャイムを押して、『いつ頃から育ててるんですか?』みたいに話を伺うこともあります。女2人だと怪しい勧誘とかに間違われそうだから『ハツラツとした雰囲気でいこう!』と話し合って飛び込んでます」

ハツラツとした雰囲気だとそれはそれで怪しそうだが、中には住民の方と思わぬ交流がはじまることもあるそうだ。

「都内の町工場で見たこのサボテンは、お伺いしたお話が面白かったですね。このサボテンはもともと3階に届くほどの大きさだったそうですが、東日本大震災で地下の水道管が壊れて、その影響で枯れてしまったと。でも大きかった時代に、通りすがりの方や全国各地のご友人にまで株分けをしていて、『同級生の家に里子に出したのが大きくなったから、その子株をまた戻してもらったんだよ』と仰ってました」

上がかつては3m以上あったという町工場のサボテン。この写真のものは、友人に譲った子株のそのまた子株だ。この話だけでも面白いのだが、さらに村田さんは話を聞いた住民の方から「その家のサボテンは面白いから見に行ってみなよ」とも言われたそうだ。

「それで同級生の方をご紹介してくださって、『同窓会の出欠のはがきの返事を返してなかったから、ついでに届けてよ』とハガキも託されました(笑)。『サボテンを見て訪ねてきた怪しい女性2人組にそんなものを託して良いのか……』と思ったんですが、お預かりしたハガキを持って伺ったら、そちらの家のご夫婦も本当にいい方で。サボテンも驚くほど巨大でしたが、物干し竿で作った支柱でなんとか支えられていました」

その同窓会のハガキを届けたお宅のサボテンは下記のツイートのようなもの。公道にはみ出さないように物干し竿を組んで作った支柱で支えられていた。

おかしいサイズにまで成長した異次元プランツ

上記のサボテンのように、ときには制御が難しいほど大きくなってしまうものがあるのも、路上の植物の特徴だ。

「サボテンも小さなものだと癒やしを与えるカワイイ存在ですけど、ここまで大きくなると、ちょっとした猛獣ですよね。そうした植物をどう手懐けているのかを見るのも、路上園芸を見る面白さのひとつです」

押上の取材時に見たシェフレラ。巨大化しすぎて鉢が割れたようで、緑のマットで巻かれていた。
「本のどこかに出したやつかもしれないです」と調べる村田さん。シェフレラはお気に入りの樹木の一つだそう。

このように「なんだかおかしい」サイズにまで成長してしまった路上の植物を、村田さんは「異次元プランツ」と命名。書籍の中でもさまざまなものを紹介している。

「たとえばこの桑の木は、樹木医の方に話を伺ったら『おそらく鳥の糞として落ちた種が、雨が降ったときに道路脇の低い場所に流れて、たまたまそこで根を張って成長したものではないか』とのことでした。今や街路樹と同じような大きさですけど、そういうものを鳥や風が運んでいるというのが面白いし、植物を通じて都市のスキマが可視化されているのが凄く面白いと思いますね」

舗装と塀のスキマから成長した桑の木。これが鳥が運んできたものだとしたら驚きだ。写真提供=村田さん。

そして勝手に生えてきた植物のなかには、周辺の障害物を飲み込むほどに成長してしまう例もある。

「これは横浜の桜並木に混じっていたクスノキとエノキですが、周囲のソメイヨシノ以上に巨大化していて、金属の柵も飲み込んでいます。これも樹木医の方にお話を伺ったら、『この周囲には電柱などもあるし、ここまで大きくなる木は植えられることはないはず。おそらく鳥が運んだものが大きくなり、光を求めて柵の向こうの川に向かって伸び、次第に柵を飲み込んで成長したのでは』とのことでした。自治体に問い合わせても、『樹木の管理台帳には載ってないから、勝手に生えてきたもの』との回答でしたね。路上の植物が人の計画通りには育たないことが分かる例ですし、街の中でバグが生じているような景観が面白いなと感じます」

金属の柵を飲み込んで成長したクスノキとエノキ。このように木が障害物を飲み込んだ状態を村田さんは「すり抜け」と呼んでおり、類似の事例を本の中でも多く紹介している。写真提供=村田さん。

上記の「すり抜け」の例のほか、書籍の中では「植物のふりした妖怪」「はみだせ!緑」など村田さん独自のネーミングで、様々な面白い状態の路上園芸が紹介されている。特に、道や塀などのちょっとしたスキマから芽吹いた植物を指す「#はみだせ緑」は、Twitterのハッシュタグとして村田さん以外にも多くの人が投稿する人気のタグとなった。

「『#はみだせ緑』は、2019年に神保町大学で街歩きや路上園芸に興味がある方向けのイベントをしたとき、写真の投稿を集めるために作ったハッシュタグなんです。それがイベントの終了後もこのタグで投稿してくださる方が継続していて、今ではこのタグを検索していろんな方の投稿を見るのが毎日の楽しみになっています」

なお筆者も村田さんが作ったハッシュタグだとは知らず、以前に上記のように「#はみだせ緑」のタグを付けて投稿をしていたのだった。おそらく散歩好きでSNSを使っている人の中には、村田さんの名前や路上園芸学会のことは知らなくても、同じような写真を撮ったことがある人も、同じようなハッシュタグを使って投稿したことがある人もいるだろう。

「先日インスタグラムで『路上園芸』というハッシュタグで検索してみたら、投稿が5000件以上あり、私の活動とは何の関係もなく撮っている人も多いと感じました。私のことをまったく知らずに、路上園芸を好きになっている人がいたら、それは凄く嬉しいことですし、そもそも私が撮っている光景はどんな街でも見ることができるもの。『路上園芸』や『はみだせ緑』というハッシュタグがそれを可視化しているとしたら、とても面白いことだと思います」

取材・文・撮影=古澤誠一郎

2020年10月に初の著書『たのしい路上園芸観察』(グラフィック社)を発表した路上園芸学会の村田あやこさん。住宅や店舗の前などで営まれる園芸や、路上空間で育まれる緑を「路上園芸」と名付け、その撮影・記録を行う“路上園芸鑑賞家”だ。