街で友人にばったり遭遇したときのような高揚感
電力量計などを収納するために屋外に設置された「引込計器盤キャビネット」。言われてみれば、一度は見たことがある、という人が多いのではないだろうか。
「お友達コレクション」ことchachakiさんは、その中でも検診窓が2つあり、顔のように見えるものを「お友達」と呼んで鑑賞している。
「最初に気になったのは2014年頃です。当時、社会人として駆け出しで、地元から出て一人暮らしを始めた頃でした。毎日夜遅くまで仕事をした帰り道、当時住んでいた家の近くで必ず出迎えてくれる“子”がいたんです」
「仕事で失敗して落ち込んでも、人間関係で悩んでも、決して裏切らず無表情・無干渉でいつも同じ場所にいる存在に、次第に愛着が湧いて心癒やされるようになりました。
それ以来、街中で引込計器盤キャビネットを見ると、友人にばったり遭遇したときのような高揚感を覚えるように。人間じゃない友人として、親しみを込めて『お友達』と呼ぶようになりました。
今思い返すと小さい頃から、押しボタン式信号機や新幹線のテーブルの留め具が顔に見えてかわいいなと思っていました。引込計器盤キャビネットに『お友達』のような親しみを感じるのは、その延長線上かもしれません」
chachakiさんには、独自の「お友達」の定義がある。
「目のような検診窓が2つついていて、かつ電力計や分電盤を収納できる箱型をしたものを『お友達』と呼んでいます。自分なりのルールやフォーマットを決めたほうが、その中のバリエーションを比較しやすく、探しがいがありそうと思っています。中に入っているものも、電気関連の機器にあえて限定して収集しています」
多種多様な生態をタイプ別に分類
「お友達」の生息域は、建物や道沿い、商店街など幅広い。自分の住まいや職場の近くなど、身近な場所で気軽に出会えるのが嬉しい。
「道路に面した場所で自立したり、建物の裏側や側面で室外機やガスメーターなどと一緒にいたりします。他にも駅構内やテナント内、商店街、工事現場など、意外といろんな場所に生息しています。建物に付随する脇役たちですが、私にとっては“主役”ですね」
目が2つあり、箱型をしているという、一見似たような姿形をしていても、ちょっとしたサビ具合や落書き具合、設置場所や周囲に置かれたものとの関係などで、表情が変化するのが魅力の一つというchachakiさん。
その悲喜こもごもな佇まいをタイプ別に分類している。
「東京のような都会で見つけやすいものは、箱がキャンパスになった『らくがき帳タイプ』です。人の手が入ることで、個性が出やすいタイプですね。
写真は札幌で見つけた子です。控えめなグラフィティに、札幌の整然とした街並みが現れているようでした。新宿や渋谷のような都心に行くと、ゴテゴテしたカオスな落書きも。
定点観測したりGoogleストリートビューなどで遡ったりすると、消す人と書く人との攻防戦が垣間見えることがあって、何気なく道に佇むものの状態が日によって更新されていく様子が面白いです」
「レア度が高いのは『お忍びタイプ』です。色やディテールが壁面と同化しているタイプで、建物を作った方のこだわりを感じます。探すのがなかなか難しい分、見つかると嬉しいですね」
「検診窓のひび割れを養生テープなどで補修している『負傷タイプ』も、なかなか見ないレアなタイプです。補修の仕方に、所有者の方の個性が感じられます。
引込計器盤キャビネットは、屋外に置かれることが多いので、落書きだけでなく、雨や嵐などの天候の影響も受けます。厳しい環境下で、健気に佇んでいる哀愁も含めて、愛らしいですね」
現在20ものタイプがあるという「お友達」。chachakiさんのホームページでは、その一部がユニークな解説とともに紹介されている。
「観察した数が増えていくうちに段々と法則が見えるようになってきて、分類が徐々に増えていきました。個体そのものも魅力的なのですが、周りの環境とセットで見えてくるストーリーを勝手に考察して、『この子はこういうことを考えている』『こういう状況なのかな』と、大喜利的に妄想するのが楽しいですね」
偶然の出会いを楽しむ
散歩をライフワークにしているchachakiさん。「お友達」とは、生活圏や日々の移動範囲内での自然な出会いを楽しんでいる。
「見つけることが目的になってしまうと、見つからなかったときに残念な気持ちになってしまうかもしれません。基本的にはお散歩を楽しみながら、『見つかったらラッキー』くらいの気持ちで探しています。自分の生活圏内で、いつもと違う路地を歩くだけで全然違う世界が広がっていますし、たとえば出張や旅行に行った際に街歩きの時間を確保したりと、無理ない範囲で探しています」
「また、周りの環境を含めて見ることも大切にしています。例えば、手形や足跡がついていたら、勝手に探偵化してそれがなぜ起きたのか推理したりと、状況を観察して考察することも楽しむポイントの一つです。
時々、センサーが働きすぎて、『お友達』じゃないものが『お友達』に見えてしまうことも。それを『お友達おばけ』と読んでいます(笑)」
「『お友達』がいそう」とセンサーが働く場所はあるのだろうか。
「商店街がある地域はおすすめです。ある程度栄えていて、整備されすぎておらず、古い街並みが残った雑多な繁華街では、素敵な『お友達』と出会える確率が高いです」
「撮影は、基本的にiPhoneを使っています。後から見たときに考察を広げられるよう、正面と左右両方からのカットはできる限り押さえています。
鑑賞したものの魅力を最大限に伝えるには、写真だけでなく言葉も重要だと考えています。そのためSNSに投稿する際には、写真に一言添えたり、『◯◯お友達』という定型文を必ずつけるようにしています。答えは一つではなく、人によって解釈が変わるのも醍醐味ですね」
「推し」に会えるうちに会いに行く
これまで少なくとも2000体以上の「お友達」を撮影したchachakiさん。
中でもお気に入りは、三重県で見かけた「お友達」だ。
「地元の三重県にいる子で、帰省するたびに会いに行っています。今年の年始に帰省した際も、新年の挨拶をしに行きました。
白くて丸っこい形で、包容力のあるサイズ感が魅力です。手前の花壇にはいつも花が植えられていて、のんびり花を見て生涯過ごしているような雰囲気に、見るたびに心が洗われています。
三重県出身なので、『三重県』と書かれているのにも愛着が湧いてしまいますね」
これから「お友達鑑賞」を楽しんでみたいという方に向けて、鑑賞のポイントを伺ってみた。
「なるべく狭い路地に入ってみてください。大通りにももちろんいますが、レア度が高いものは路地裏に生息しています。
また、来た道以外の道で引き返す人が多いかも知れませんが、来た道を引き返してみると、意外なことに逆方向からは見えなかった『お友達』に気づくことがあります。行き過ぎると『いるかも』という気配を感じて振り返ると、ヤツがいることも。前や横だけでなく、後ろにも注意を払ってみるのがおすすめです」
普段の生活圏の中で、お気に入りの「お友達」が見つかったら、それだけでいつもの街が違って見えてきそうだ。
「向こうはどう思っているかわかりませんが、いつもそこにいてくれる、心のお友達です。街は流動的で、生き物のようにどんどん変化していきます。建物が急に解体されて、『お友達』との急な別れが訪れることも。『お友達』は永遠じゃないんです。
推しに会えるうちに会いに行く感覚で、『お友達』との一期一会を大切にしています」
取材・構成=村田あやこ
※記事内の写真はすべてお友達コレクションさん提供