穏やかな空気の中、旧中山道歩きスタート
中山道を清水町から旧中山道に入ると、マンションや新しい店が増えても、旧街道独特の穏やかな空気が流れている。
『御菓子司 喜屋(きや)』に並ぶ季節の和菓子や羊羹の変わらぬ味。法事や茶席、町会の寄り合いや祭礼など、夫婦二人三脚で作る和菓子への注文は、多くの顧客からの信頼をつないでいる。
環七に分断されても、歩行者専用道路の細い糸が陸橋の真下に続く。
坂の途中に突如現れる縁切榎と小さな社。江戸の昔から男女の悪縁を断つパワースポットなのに、いつしかそこに良縁を結ぶ力が加わったとか。そのアバウトさがまたほほえましい。
地名の由来にもなった板橋を渡り、石神井川沿いを少し遡(さかのぼ)って中山道を越えた新板橋のたもと、『氷川つり堀公園』ののどかさに、さらに頬が緩む。
宿場町の歴史と現代の暮らしをつなぐ道
旧街道に戻れば、ひょいと本陣跡の碑、小さなお寺の馬頭観音、江戸の面影が顔を出す。中山道の宿場町が書かれた板橋三丁目縁宿広場や、斜め前の立派な庚申堂を見ると、脳細胞は完全に江戸時代とリンク。
そんな時は『パンを楽しむ店 ぱーね』でパンと生ビール。うん、現代だっておいしいぞ。
繋がりは海外までも。縦横無尽のリンク網
もう一度中山道を渡って、JR板橋駅に続く商店街へと入る。右に逸れると、板橋区とカナダ・バーリントン市の姉妹都市提携を記念して贈られた赤石などを設置した板橋駅前公園。旧街道のリンク先は海外へも広がっている。
そしてJR板橋駅前にそびえるケヤキの巨木は、むすびのけやきとか。縁切榎の負をここで帳消しにする魂胆にクスクス……。
埼京線の踏切を渡ると『松月』の「大衆割烹とイタリアン」という看板が気になるけど、近藤勇の墓所で新選組との濃厚なつながりを確認し、狐塚商店街から住宅地の路地に突入。
真っ平らに開ける画期的なノートで、文具ファンやメーカー、はては海外までつなぐ『中村印刷所』。中村社長のポジティブパワーをしっかり受け止めた。
さぁ、ここまできたら当然『稲荷湯』の磨き上げた美しいお風呂に一番乗りしたい。お隣の長屋は週末のお楽しみ。なにしろ『松月』と赤い糸で結ばれてるからね。
縦横無尽に張ったリンク網に絡まれて、旧中山道歩きもお開き間近。
いや、これからが本番かな?
【旧中山道でつながる“良縁”店舗紹介】
御菓子司 喜屋
「味に邪魔なものは全部取って、丁寧に作っているからね」と、ご主人・橋本雅夫さん入魂の自家製餡を使った和菓子を妻・光江さんと販売する1975年創業の老舗菓子舗。折々変わる季節の味は見逃せない。
●10:30~18:00、火休。
☎03-3962-2997
パンを楽しむ店 ぱーね
ベーカリーとイタリアンレストランで修業したオーナーシェフの末次正樹さん。「ちょこっとパンを食べながら飲みたいじゃないですか」と始めた店は、開店直後の昼間からパン&ビールができる。生ビール660円~。
●11:00~21:00LO、月・火休。
☎03-5944-1781
中村印刷所
父親の代から85年続く町の印刷所は、独自開発の水平開きノートで文具界に新風を起こした。「リクエストは断りません」という中村輝雄社長が努力と工夫で生み出したアイテムは、今や50種を数える。
●8:30~18:30、土・日・祝休。
☎03-3916-1444
滝野川稲荷湯
創業1世紀を超える老舗銭湯。昭和初期の建物を5代目の土本公子さん俊司さん夫妻が守る。隣接の築100年超え長屋は、リノベしてイベントスペースに。週末はカフェにもなり、人の輪を広げる。入湯料大人500円。
●15:00~24:30、水休。
☎03-3916-0523
大衆居酒屋とイタリアン 松月
創業57年、父親が築いた味を守りつつ、2代目店主・渋谷正雄さんが作る居酒屋料理に、イタリアンの修業を経た息子・健太さんが加わり、メニューの幅も客層も一気に拡大。店内に並ぶお品書きの楽しいこと!
●16:00~23:00LO、日休。
☎03-3916-1572
取材・文=高野ひろし 撮影=オカダタカオ
『散歩の達人』2023年6月号より