台湾の生豆を輸入して自家焙煎

『美麗 MEILI』は下高井戸にある台湾コーヒー専門店。

台湾の異名「美麗島(メイリーダオ)」にあやかった名前(店主らの名前の組み合わせでもあるらしい)を掲げる店の主人は日本人の小山さん。台湾での農業体験を通して台湾コーヒー豆に出合い、日本で広めようと決意。やがて2020年、下高井戸の商店街に店を開いた。

ご縁のある台湾南部を中心にした上質な生豆を輸入。少量生産なので高くついてしまうことともあって自家焙煎。台湾コーヒーの美味を広く伝えるため極力抑えた価格で提供している(一杯660円~)。一般のコーヒーよりすこしばかり値が張るが、現地でも飲めば1000円ぐらいかかる。この値段ではなかなか味わえない勉強価格なり。

コーヒーは産地ごとの豆の個性を活かすため、他地域の豆とブレンドせず、焙煎は軽めにしてエアロプレスで抽出。豆本来の持ち味をしっかり味わえる一杯に仕上げる。カウンターに並ぶ豆は「高雄・卓武山」「台南・東山」等々、コーヒー通でも初見であろう産地名ばかり。一口すすれば、ちょっと癖のある芳ばしい香りが口内に広がり、フレッシュな果実感と深味が入り交じる。じっくり噛みしめたくなる味わいだ。

あえて小さな盃で供すのも面白い。台湾コーヒーは冷めてもうまく、ひと味違った風合いに化ける。その違いをじっくり味わってもらう工夫である。無論アイスコーヒーもあって、酸味が前面に出てきてよりフルーティー、後味はさっぱりでこれまたイケる。

コーヒーだけじゃない、台湾美味が目白押し

また『美麗 MEILI』の招牌=看板商品はコーヒーだけではない。やはり世界的に高評価の台湾産のカカオ豆を使ったチョコも提供している。台湾産カカオのガトーショコラ550円は奥行きのある甘さと切れのよさがなんともたまんない。

これだけ専門色が強いと、敷居の高い店で、神経質な店主がむっつり待ち構えてそうなイメージを持たせてしまうかもしれない。だとしたらゴメンナサイ。『美麗 MEILI』は、中が見通せるガラス張りの店先からして拍子抜けするほど入りやすい。室内は明るくシンプルな作りで居心地良く、接客もこざっぱりしたもの。

ランチメニューの豊富ぶりも見逃せない。台湾コーヒーの店であるからにして、台湾料理が基本なものの、必ずしも本場こだわりすぎないラフな姿勢が、味に良い方向に活きている。

台湾屋台料理の定番・水餃子は、モチモチの皮がイケる本場仕様。一方まぜそばは、つゆだくのルーロー(台湾流の味付けで煮込んだ豚肉)を特製太麺にぶっかけたもの。日本生まれの“台湾まぜそば”を、現地に近い風合に仕上げている。両方に付くスープの出汁は豚足+漢方薬というこだわりぶりで油断できない。小技が光っているぞ。

水餃子880円。
水餃子880円。
まぜそば990円。
まぜそば990円。

センスありすぎなカキ氷は年中提供

さらに特筆すべきは一年を通して出しているカキ氷。マンゴーかき氷に代表される台湾定番のスイーツのひとつだが、それをより独自に進化させている。

カキ氷1150円。
カキ氷1150円。

内容はその時期で変化するが、この日食べたのはマロンをカバラン(世界的に評価される台湾ウィスキー)で香り付けした氷に、氷らせたイチゴのスライスをまぶし、炭酸を加えた林檎ジュースのホイップクリームをかけたもの。食べていると中からアッサムティーのアイスが現れる。台湾人もビックリの凝ったうまさだ。ボリュームあるけど瞬く間にペロリである。これ、本場のカキ氷を超えているかもしれない。

小山さん「特に料理の修業は積んでいないですよ」とのこと。センスありすぎである。

台湾コーヒーに加えて厳選の台湾茶も販売。
台湾コーヒーに加えて厳選の台湾茶も販売。

スイーツもランチもいけるから、訪れる客は必ずしも台湾コーヒー狙いではない。ランチだけの人もいて、さながら街の台湾食堂といった趣だ。

「台湾の魅力につなげることができればいいのです」と小山さん。そんな自然体の姿勢からして台湾らしい雰囲気で、心地よかったりするのだった。

取材・文=奥谷道草 撮影=唯伊