アクセス
鉄道:JR・私鉄・地下鉄池袋駅から東武鉄道東上線・JR八高線で約1時間15分の明覚(みょうかく)駅下車。東武鉄道東上線・同越生線または西武鉄道池袋線を利用し、JR八高線乗り換えも可能。
車:関越自動車道練馬ICから坂戸西SICまで約33km。同ICからときがわ町中心部まで約11km。
豊かな自然に今なお数多くの巨木が息づく町
ときがわ町に足を踏み入れた第一印象は、失礼ながら今ひとつパッとしない土地柄との勝手極まるものだった。華やいだ商店街は見当たらず、チェーン店もほとんどない。目に入るのは町の西側に広がり、秩父方面へと連なる標高1000mに満たない山並みで、ひっそりと看板を掲げた個人経営と思しき小さな店が、離ればなれにポツンポツンと点在する程度だ。
ところが聞き込みを進め、町内各所を巡り始めると、失礼極まる第一印象は次第に消え去り、実はこれが町の魅力の一端なのだと気づかされた。豊かな自然が育んだ山林には今なお数多くの巨木が息づき、一説には1300年の歴史を有するとされる木工建具の技も代々受け継がれているのだとか。幹線道路から外れた地でたまたま目にした個人店はそれぞれが個性豊かで、どこに入ろうか迷うほど。とても1日では回りきれそうにない。どうやら店の担い手に移住者が多いのも、この地によそ者を惹(ひ)きつけるひそかな魅力があることの証左ではなかろうか。
ときがわ町の特産の一つに「ときがわ山椒」があるが、山椒といえば「小粒でもぴりりと辛い」ということわざがすぐに思い浮かぶ。辛いかどうかはさておき、それぞれがぴりりとした強烈な個性を放っている点では、今回の訪問先全てに通じる気がした。
うれしい誤算に改めての訪問を誓う
さて、そんな町内のあちらこちらで見かけたのが駐輪用のサイクルラックである。『堂平(どうだいら)天文台』のある堂平山にほど近い白石峠は、険しいヒルクライムに挑むサイクリストに人気のスポットらしく、行く先々で彼らの自転車とすれ違った。通りすがりの自分と比べれば、この地に足繁く通うサイクリストのほうが、この町の魅力にはるかに通じているに違いない。
ふだんは妻のお下がりのママチャリしか乗らない自分が、いきなりヒルクライムに挑戦するわけにもいかないので、白石峠を経て『堂平天文台』へ車で向かうことにした。カーブが連続する狭い山道を慎重に進んでようやくたどり着いたが、途中で目にした建物がどうにも気にかかる。天文台の管理人さんに例の建物は何かと尋ねると、2023年にオープンしたばかりのカフェとのこと。しかも店名はあの場所の標高にちなんだものだと丁寧に教えてくれた。
町はずれにある天文台を訪ね、堂平山からの眺望を満喫したあとは、中心部へ戻って時間の許す限り気になる店をハシゴしたり、趣向を凝らした『玉川温泉』にのんびり浸かっていこうと企んでいたのに、さらに立ち寄りたいスポットが増えてしまった。あまりに選択肢が多すぎて、どうやら日を改めて再訪するしかなさそうだが、なんともうれしい誤算である。
燈 akarito
手づくりロウソクと暮らしの店
ロウソク作家である武藤綾乃さんの作品(500~5000円程度)や、夫・崇之さんとの日々の暮らしを通じて縁のあった陶器や雑貨・農産物など厳選した品々を販売。毎回夫婦で考えたコンセプトをもとにした創作ランチ(2500円/予約制)やカフェでの利用もあわせて楽しみたい。
14:30~16:00(カフェタイム)/定休日:週3日ほど営業
巨木の里
古樹の放つ気を全身で感じたい
町域の約7割を山林が占め、樹高や幹回りの太さに驚かされる巨木が生育するときがわ町。萩日吉神社鳥居脇の児持(こもち)杉や慈光寺阿弥陀堂(本堂)前の多羅葉樹など、長きにわたりこの地を見守ってきた巨木を訪ね、歩んだ歳月に思いをはせたい。明覚駅併設の駅前案内所「ここから」(【耳よりTOPIC】参照)で配布している「巨木の里MAP」が参考になる。
手漉き和紙たにの
伝統の和紙づくりの現場を間近にできる
1300年もの長きにわたり育まれてきた手漉き和紙の製法「細川紙」の技術を持つ伝統工芸士・谷野(たにの)裕子さんの工房。「和紙づくりの工程を広く知ってほしい」と見学は随時OKで、質問には谷野さんやスタッフが丁寧に答えてくれる。はがきなど手漉き和紙体験も可能だ(予約制/2000円~)。
GRID
ときがわの自然を楽しむ玄関口
キャンプデビューをサポートする『キャンプ民泊NONIWA』が手がけるアウトドア系セレクトショップ。愛好家向けに特化した品揃えではなく、里山歩きやキャンプなどアウトドア体験に興味のある初心者にも優しい店づくりだ。近隣のおすすめスポットを紹介してくれるのも心強い。
角屋(かどや)菓子店
地域で親しまれる大正期創業の和菓子店
一番人気は昔ながらの素朴な焼きだんご。国産の上新粉を2種配合し、じっくり焼き上げただんごは、外はカリカリで中はモチッとした食感だ。とろみがあり歯切れのよいみたらしと、香ばしいしょうゆがある。柚子入り餡をマドレーヌの生地で包んだカドレーヌ150円も好評。
こぶたのしっぽ
モットーは“生産者から生活者まで全ての人を笑顔に”
住宅地にありながら、地元客が間断なく姿を見せる人気店。こぢんまりとした店内には、肉の旨味をぎゅっと凝縮した手作りハム・ソーセージや焼きたてパンに加え、組み合わせの妙が面白いサンドイッチや調理パンも並ぶ。旅の途中で立ち寄り、テラス席でガブリと頬張るのもいい。
Teenage Taproom “bekkan”
個性際立つクラフトビールを
クラフトビール工房『Teenage Brewing』併設の直営店。提供されるビールはホップを多めに使用したパンチの効いた味わいが中心で、毎月刺激的な新作が登場する。オーナーの熱き思いを込めた音楽にちなんだネーミングも興味深い。
昭和レトロな温泉銭湯 玉川温泉
懐かしい気分に浸りながら美肌の湯でゆらりゆらり
里山に湧く日帰り温泉で、足を踏み入れるや昭和30年代にタイムスリップしたかのような気分に。年配客は懐かしさに顔がほころび、若者は新鮮な驚きを感じることだろう。pH値10のアルカリ性単純温泉が自慢の浴室は「昭(あきら)の湯」「和(なごみ)の湯」に分かれ、男女週替わり。湯上がり後はカラオケに興じたり、売店で駄菓子を見繕ったり、食堂で懐かしい味に舌鼓を打ったりと過ごし方は人それぞれだ。リラックススペースを兼ねた木の図書室には月刊『散歩の達人』バックナンバーも。
6HUNDRED cafe
眺望に恵まれた森のカフェ
森に囲まれた標高600mに位置し、ウッドデッキの先に広がる風景に心和む。山の湧水で10時間かけて抽出した水出しアイスコーヒー750円や米粉のシフォンケーキ700円、ドライカレー1000円などを注文し、時の経つのを忘れて過ごすのが似合う。ハンモックのレンタルもある。
堂平天文台
東京天文台堂平観測所跡を一般向けに開放
標高876mの堂平山山頂脇にあり、直径10.5mの観測ドームが目を引く。一帯はテントサイトやバンガローなどでの宿泊も可能な「星と緑の創造センター」として整備。施設の利用がなく、管理人が対応可能な場合に限り天文台内を見学できる。
【耳よりTOPIC】町内探訪の前に立ち寄りたい駅舎
八角形のログハウス調駅舎が印象深い、ときがわ町唯一の鉄道駅・JR八高線明覚駅。併設の駅前案内所「ここから」(9~17時、祝を除く月・火休/☎0493-59-8694)では、常駐スタッフによる観光案内のほか自転車の貸し出し業務も行なっている(ノーマル自転車1日500円、電動アシスト自転車1日1000円/予約可)。
取材・文・撮影=横井広海
『散歩の達人』2024年11月号より