店舗面積は約3坪! 超コンパクトな立ち飲み酒場
東京駅と皇居にほど近い“大丸有(大手町・丸の内・有楽町)エリア”は、まさにビジネスの中心地だ。そんなエリアの一角、商業施設も立ち並ぶ有楽町には、駅の高架下に飲み屋街もある。
有楽町駅を出てJR線沿いを晴海通り方面へ進むと、高架下に『立呑みよもだ』が見えてくる。1000円でべろべろに“酔える”せんべろ酒場だ。同店は、自家製麺そばとインドカレーの店『よもだそば』の新業態として、2022年12月にオープンした。
のれんをくぐると、すぐ目の前がカウンター。6人ほど入れば満員状態だろう。立ち飲みスタイルの酒場とはいえ、人とすれ違うのが精一杯といったスペースしかない。立ち飲み酒場に最低限必要な要素だけを凝縮したかのような空間だ。
「3坪しかないんですよ、ここ」と快活な口調で語るのは、よもだ代表の九十九章之(つくもまさゆき)さん。「その中にトイレもあるので、店内は2坪ちょっとしかないんです。だから次は、8坪ぐらいの2号店を出したいな~と思っています」。
限られたスペースゆえ、厨房の広さは1畳ほど。九十九さんとともに取材に協力してくれた店長の土田正信さんは、そこで調理や仕込み、接客などをこなしている。さらにお客さん一人ひとりの飲み放題の時間管理も行なう。小さい店とはいえ、それらの業務をほぼ1人でこなすというのはすごい。
自由度の高い酎ハイと高コスパのおつまみに酔いしれる
『立吞みよもだ』では、入場料500円で酎ハイが30分飲み放題(ビールは1杯200円)。そのため土田さんが各お客さんの残り時間を管理し、終了5分前になると延長するかどうかの声掛けをする。まるでカラオケボックスだ。
酎ハイは、カウンター中央に設置されているサーバーから各自で注ぐ。飲み放題はいわば時間との勝負。一般的な居酒屋の場合、ドリンクを注文してから届くまでに待ち時間が生じてしまう。その点セルフ形式なら、蛇口をひねるようにおかわりできるのがうれしい。
グラスに酎ハイを注いだら、色とりどりのシロップで味付けを。シロップはレモン、グレープフルーツ、ざくろ、ブルーハワイ、ライム、巨峰の6種類。別売りのレモン50円や梅干し50円もあるので、好みや気分に合わせてカスタマイズできる。
さて、シロップはどれにしよう。土田さんにおすすめを尋ねると「いちばん人気なのは、ざくろかな」ということで、まずはざくろ味をチョイス。シロップを入れる量はお好みで。もし味が薄ければシロップを、濃すぎたら酎ハイを追加で注げばいい。そんな自由度の高さも、セルフ形式の利点だ。
続いて、20種類以上あるおつまみをチェック。イチオシのメニューとして候補が4つ挙がったので、それらをオーダーした。1品目は、青森港直送 白身魚の刺し身3~4種盛り500円。
「とれたての白身魚を3枚におろして送ってもらって、それを刺し身にしているので、ものすごく新鮮ですよ」と九十九さん。タイやヒラメなどの淡泊かつ上品な旨味や、弾力のある食感を存分に堪能できる。
2品目・くじらの刺し身500円は、イワシクジラの赤身を特製の甘ダレでいただくメニュー。九十九さんいわく、クジラは「日本人が昔から知っているのに最近食べられていない“ジビエ”」とのこと。たしかにマグロの赤身のようでありつつ、獣っぽい風味も感じられる。
「クジラは哺乳類ですから、ちょっと獣臭が強いんですよ。でも、この甘ダレを付けて食べると、獣臭さが消える。試しに醤油で食べてもらったら、違いがよくわかると思います」
3品目のチキン南蛮400円には、濃厚な自家製タルタルソースを惜しみなく使用。ジューシーな唐揚げにかかっているソースの酸味と甘みが食欲をそそる。
土田さんによると、タルタルのマヨネーズには「あえて安いのを使う」のだとか。「ユルユルのマヨネーズのほうが卵に合うんですよ。バルサミコソースには、焼き鳥のタレを混ぜて甘みを加えています」。
そして4品目は、『よもだそば』の看板メニューをグレードアップした、よもだカレー ~炙りチーズ~300円。何を隠そう『よもだそば』のカレーは、“Japanese Curry Awards 2022”を受賞した実力派だ。
レシピは門外不出だが、隠し味にそばのかけつゆが使われており、白米によく合う。辛さはホット系ではなくシャープ系で、ピリッときてからスッと消える爽やかさが心地いい。
ハイクオリティでコストパフォーマンスの高いフードの数々は、各種酎ハイとの相性抜群。おつまみと酎ハイをあれこれ試し始めると、30分では足りなくなること間違いなし。
お酒をセルフ形式にして、料理に手間暇をかける
お客さん自身でドリンクを注ぐ『立吞みよもだ』の飲み放題には、お店側の負担を減らす狙いがある。九十九さんによると「従業員が料理に集中できるように、このシステムにしている」そうだ。
「意外と、グラスにお酒を注ぐのは結構な手間で、従業員1人だと絶対まわらない。なので、お客さんに好きに飲んでもらう代わりに、料理にはしっかり手間をかける。そういうコンセプトですね」
それゆえ、ほぼすべての料理は自家製だ。「うまいものを早く出す」をモットーに、土田さんは日々の仕込みに精を出す。そんなこだわりが詰まったおつまみ1品+飲み放題30分で1000円に収まるというのは、かなりお得。そのためか、同店では「0次会と2次会の利用客が多い」と九十九さんは言う。
「0次会で来る人は、そのあとご飯を食べに行くから30分1000円ぐらいがちょうどいいんだよね。だから1次会の時間帯は空いちゃうんですよ。だいたい19時~21時ぐらいに来てもらえると、ウチらもありがたいし、お客さんもハッピー」
一方、2次会でやって来るのは、帰りにもっとベロベロになりたい人。土田さんの言葉を借りれば「もう明日を忘れたい人」だ。ストレス社会を懸命に生き抜くビジネスパーソンにとってのオアシスが、ここにある。
構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=上原純