横のつながりを大切に生きる街
1年後の自分へ
今はどんな街を歩いてますか?
こちらは蔵前でこの手紙を書いています。東京のブルックリンという微妙な異名が蔵前に付いた頃から抵抗感がありましたね。でもやっぱり蔵前は面白い!って再認識しています。
ものづくりの街だから歩くたびに現れるのは皮漉(かわすき)、鍍金(めっき)、金具、木工、紙、箔押、玩具などの看板文字。すごくピンポイントでワクワクする。1階に仕事場、上階に住居という職住一体の職人の暮らしも日常。オシャレな店が増えても、生活のある街は気取らずいられるのがいいんです。
「昔は小売りしない街で、買える店は八百屋とかぐらい。今のように人が集まる場所でもなくて、モノが集まる場所でした」と『MESSAGE』の小川太一郎さん。ここのしゃれたリュックも近隣からのパーツが集まってると聞くと、“持ちつ持たれつ”が生きている街なんだと実感します。
「卸問屋さん同士も仲良しでバイヤーに互いを紹介し合うんですって」と『自由丁』の山本夕紀さんも言う。「気にかけてくれる近隣の方たちの中にいると、街の一員だという意識が芽生えます。横のつながりを大切に、街にとっていい店でありたいと思います」と。そういう心ある新しい店は街になじんでいる気がします。
そうそう、存在を知った時からずっと実物を見たかった6月始まりの鳥越祭のカレンダー。『ミノヤ商店』の軒先で見つけたのはうれしかったね。お店の人たちが気さくすぎてつい喋りすぎたけど、大正時代は野球のユニフォームも手がけたなんて興味深い店の歴史を聞けたし、驚いたのはお客さんのために周辺の祭りへ出向いて衣装の着こなしを調査、記録していること。プロの情熱を感じました。それは『やる気マンマン』の佐藤重明さんも。21時就寝、深夜起きで、朝は仕事前の水泳が日課という超やる気マンマンな理由を聞くと、「だって自分が気分良くないと気持ち良く仕事できないもん。商売はみんなそうだろうけど、接客業だし、いい顔でお客さんを迎えたいじゃない」って、この気概。頭が下がります。
最後に、『herb tea yado Kuramae』の高橋佳世子さんの言葉を記します。
「こだわりのある古い店、新しい店があり、そのバランスがいい。決してキラキラはしてないけど、地に足のついた雰囲気が好きです」
今の私はまさにそんな思い。だから、1年後の自分よ、蔵前はさらに変化していると思うけど、変わらぬ良さも確かめにまた訪れてくださいね。
喫茶+αの豊かな時間が心を灯す『封灯』
未来の自分へ手紙が書ける『自由丁』の2号店が2023年末にオープン。16席ある喫茶ではこだわりのスイーツや食事を味わいながら、手紙を書いたり、代表の小山将平さんによる詩的な言葉に触れたりできる。365日分の手紙を保管する一面の棚が圧巻だ。
・13:00~21:30LO(土・日は10:00~)、火休
・☎なし
素直な気持ちで過ごせる場所『自由丁』
「素直な気持ちと日々を味わう」をテーマに、2019年に開店。1年後の自分へ手紙を届けてくれる「TOMOSHIBI LETTER」2970円~は飲み物付きで5つの内容から選べる。「自分の本と交換できる『つながる本棚』も人気です」と店長の山本夕紀さん。
・13:00~18:00(土・日・祝は10:00~20:00)、月・火休
・☎070-9135-7383
鳥越っ子の新年は6月から!? 「鳥越祭カレンダー」
都内最大級の千貫神輿で有名な鳥越祭。6月に行われることからカレンダーはなんと6月始まりだ。神輿渡御ができなかったコロナ禍には撮影もできず、2024年ひさびさに復活した。看板猫のあさちゃんがいる祭半天の店『ミノヤ商店』でも販売中。軒先にぶら下がっているぞ。
体に環境にやさしい川沿いカフェ『KAWA KITCHEN』
流木や足場板などの資源を再利用した内装は隈研吾氏が担当。食材も自然由来にこだわる。ファラフェルボールのブッダボウル1980円、抹茶ラテと生どら焼き2種各880円。現金不可。
・11:00~17:30LO(金は20:00LO、土は10:00~20:00LO、日は10:00~)、月・火休
・☎050-8884-9950
『REGARO PAPIRO(レガーロ パピロ)』 無数の色柄に目移りしそう!
福岡の包装紙専門店の東京店。約100種類あるオリジナル紙は1枚110円~。「革細工と銀細工に使う道具を描いた紙(写真右下)は東京限定です」と店長・石舘尚子さん。背後はネパールなどの輸入紙。
・11:00~18:00(平日は13:15~14:00休)、火・不定休
・☎03-4362-9868
『CRANE HOUSE SANDWICH SHOP』 ホカホカグルメサンドに舌鼓
外神田でハンバーガー店を営む原鉄平さんが好きなサンドイッチもと、2022年に開店。イチオシのハンバーグチーズサンドはオージー牛100%のパテを鉄板で熱した6枚切りのライ麦食パンでサンド。濃厚なミルクシェイクは10種類も。
・11:30~21:00、月休
・☎03-5829-5280
『つばめ工房』 糸の組み合わせの妙にほれぼれ
3台の織機を使い分け、高橋京子さんが染めた糸で手織りしたストールなどを並べるアトリエショップ。メインで使うカシミヤは軽く暖かく、肌にストレスをかけない。糸の組み合わせで変わる表情、多彩なデザインにほれぼれ。
・11:30~18:30、金・土・日営業
・☎03-6312-4081
『MESSAGE』 街歩きの相棒にいかがです?
1947年にこの地で創業した革バッグメーカーで、25年続くロングセラーが「蔵前街歩きリュック」2万9700円~。ハンドバッグを手がけた職人の技が生かされ、上品かつ丈夫で軽量。端材の牛革で作ったレザー小物も多種あり。
・11:00~17:00、無休
・☎03-3861-1081
『やる気マンマン』 変わった名前のそのワケは……
1987年、縁あって吉田照美のラジオ番組を店名にした理容師の佐藤重明さん。「年1回はここをスタジオにして生放送。僕の結婚式でも生放送してくれたんですよ」。要予約で、都外からもファンが訪れる。カット2500円。
・9:30~19:00、月・火休
・☎03-3861-0385
お菓子とお花、幸せな名コンビ『torinos』/『weltall』
2022年に曳舟から移った末弘麻里子さんの焼き菓子店『torinos』。国産小麦と平飼い卵を使った10種類以上ある菓子は店内でも味わえ、奥には夫・小林由裕さんが営む花屋『weltall』も! 珍しい花が多く、花の知識が広がる。
・11:00~18:00、月・火休
・☎03-5829-9124
ハーブティーをもっと日常に! 『herb tea yado Kuramae』
出雲のハーブティー店が2023年秋に出店。目的別にブレンドした20種類があり、日替わりのハーブティーなどを立ち飲みできる(550円~)。「日々飲めば体調を崩しにくくするハーブを日常のお茶にしたい」と代表の高橋佳世子さん。現金不可。
・10:00~17:00、月・火休
・☎なし
猫と遊んだり、眺めたり『KURAMAE路地裏の猫』
猫をこよなく愛する高橋えりかさんが2022年から開く小さな居酒屋。ムサシ、まめがマイペースに接待してくれる。グリーンバナナのリキュールベースの路地猫サワー800円、生地から手作りの路地猫ピザ800円。
・18:30~23:00ごろ、不定休(インスタ要確認)
・☎070-4733-2020
・Instagram:kuramae_rojiuranoneko
取材・文=下里康子 撮影=加藤熊三
『散歩の達人』2024年2月号より