大丈夫です。全員が初めての言葉です。

みなさんも、好きなことや趣味、今気になっているものなど……考えただけでワクワクして心臓の位置を再確認できるようなことがあると思います。今回は、私にとっての最高、心臓の位置GPSこと「カヌレ」を思う存分食べる旅がしてみたいのです。

カヌレ……⁉と、何か分からなすぎて怯えている方のために説明をしますと、カヌレとはフランス生まれの焼き菓子です。焼き菓子といえばクッキーやらマドレーヌやらメジャーなものは沢山ありますが、それらと何が違うかと言いますと、カヌレはチューリップの花を逆立ちさせたような形の「カヌレ型」で焼くことと、ラム酒がふわりと香ることが特徴です。すごい!とても端的に説明できました!

そんなカヌレ、今までに何度か食べる機会があり、その美味しさが気になってはいたのですが、ある日風の噂で「外はカリッカリッ……中はとろっとろっな最強のカヌレが存在する……」と言うとんでもない情報を手にしてしまったのです……。

行ってみたい……!そして、東京に自分だけの最高のカヌレマップを作りたい……!

ということで、今回はネットサーフィンによって「外カリカリ、中とろり」な東京のカヌレ店をいくつかピックアップして、1日で巡り、その旅路をエッセイにしたいと思います!カヌレにまだ魅力を感じていない方も、楽しく読んでいただけるよう頑張りますので、よかったら最後までよろしくお願いします!

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それでは、東京カリとろカヌレ旅のスタートです!

1つ目のお店の開店時間に合わせて、朝11時から始まりました。カヌレのために起きた朝は初めてで、起床理由の中で人生1可愛かったです。

まずは、明治神宮前にある『boB』というお店へ向かいます。

ここは調べていたときにメニューの「半熟プレーン」が目に入り、その響きに心掴まれてしまったのです。

半熟って…………。

もう名前だけでも「やれやれ……」とため息をついてしまうほど美味しそうです。

開店と同時に1番にお店に入ります。店内はこぢんまりとしていて、お客さんがカヌレを注文し、店員さんがカヌレを提供する……そのためのスペースしかないと言っても過言ではなく、カヌレへのストイックさを感じずにはいられません。

熱望していた「半熟プレーン」はもちろんのこと、それだけでは欲を抑えきれず「スパイスとオレンジ」「ラズベリーとカカオ」「ココナッツ」「抹茶」も頼みました。実は、このあとカヌレのお店を4軒ハシゴする予定なのですが、全く制御できませんでした。

店内にはイートインスペースも少しありました。まず、いちばん気になっていた「半熟プレーン」をいただきます。手に取るだけでカヌレ生地の硬さが分かって、カリカリさに期待が膨らみます。

食べてみると…………

めっ…………ちゃくちゃ美味しかったです…………!!!!!

評判通り外の生地はカリカリで最高でした……!特に下の、スカートの裾のように膨らんだ部分のカリカリ感が強くて、そのカリカリというのが、生地と砂糖が焦げたような甘くて美味しいカリカリでした。また、カリカリの意思がかなり強くて、少し噛んだだけでは収まらず、最後までカリカリの食感とザラメのような甘さが口の中に残りました。

脳裏にはボクシングのリングが浮かんでいて、カーンッとゴングが鳴ったかと思うと対戦カードは「歯vsカリカリ」で、そんな1対1の熾烈なバトルが勃発しているかと錯覚してしまうくらいカリカリが口の中で戦い続けていました。

そして、気になっていた「半熟」の部分ですが……それはまるで……カスタードのようでした……。カリカリとした生地の中に潜んでいた、柔らかくて甘いカスタードは鉄壁の頑丈な城の中で守られたお姫さまような甘さがあります。ラム酒の香りはそこまで強くなかったので、お子さんも食べやすい味かと思います。

他のカヌレも、全てとっても美味しかったです。

とりわけ「スパイスとオレンジ」はすっごいお洒落な味で、なんかニュアンスなんですけど、学年で一番最初にトレンチコートを買いそうな味でした。

最高な1日の幕開けにふさわしい、夢見ていた通りのお店でした。

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はあ…………。好きなことをこんなに思うままにやっていいのか…………?

急な思い立ちから始まったカヌレ旅、1つ目のお店でもう感無量の気持ちです…………。

例えばなのですが、午前からビールを飲んでみる。

目的地も決めず、新幹線に飛び乗ってみる。

やろうと思えば出来るはずなのに、なぜか自分でダメだと思って制御してしまっていることを、本当にやってみる。それって本当に清々しいことなんだなあ……と人生のステージが1つ上がったかのような思いでした。

こんな大きな話になるとは……!自分の心の声に驚きながら2つ目のお店へ向かいます。

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有楽町駅のすぐ近くにある『THE STAND』というお店にやってきました。

お店の店頭を見て驚いたのは、入り口でテイクアウト用のカヌレが売られていて、かなりのお昼時に何人か並んでいたことです。

「も、もうティータイムのことを考えている……⁉」

この時間、普通はランチのことで頭がいっぱいになってしまうはずです。どうしてそんなに余裕でいられるのでしょうか……?格の違いを見せつけられながら店内に入ります。

こちらも事前のネットサーフィンで心に決めていた「カヌレとゲランド塩アイスクリーム」を注文します。

「ゲランド塩」って聞いたことないけど、なんか美味しそうです。

調べてみると、ゲランドとはフランスの地域のことで、ここで機械を使わず塩職人によって作られた塩のことをゲランド塩と呼ぶらしいのです。普通の塩の成分だけでなく、わずかにマグネシウムやカルシウム、カリウムが含まれていて、それらが旨みをもたらしているとんでもない塩とのこと……。

日本に来てくれて、ありがとね……。

みんなを代表してゲランド塩に感謝を伝えていると、店員さんが運んで来てくれました。すると、テーブルにお皿を置きながら……

「蜜蝋を塗ってあるので手でちぎって食べてください」

ミ……ミツロウ……!??『モテキ』の作者「久保ミツロウ」さん以外の「ミツロウ」を初めて聞きました。「手でちぎって」ということは、それほどまでに硬いという意味なのでしょうか?ドキドキしながら言われた通りにちぎってみます。すると、確かに生地がとてもガッシリとしています……!カヌレの世界にも職業があるとしたら消防隊員とかやってほしいガッシリさです。

口に運んでみます……すると……

カリカリッ!なんて音に収まらないほどのバリバリバリッ……!!!でした……!!!

かなり手応えのある食感です…………!これだ…………!カリカリのカヌレが食べたい……!そんな欲望に真っ直ぐストレートで応えてくれる。そんなカヌレです。カリカリのカヌレを夢に見ている方は、まず『THE STAND』へ行ってみることをオススメします。

むちゃくちゃ美味しかったのですが、それもそのはず……!

断面を見てみると、カヌレ生地の茶色く焼き上がった層だけで空気の層も含めて7ミリくらいありました。これはカヌレ界の中でもかなりの厚さで、この焼き上げ方がカリカリ感に繋がっていることは一目瞭然でした。

そして、そんな鋼のようなカリカリに包まれた中は…………甘くてとても美味しかったです…………。甘い密を真ん中にギュッと集めた作りは、お花と同じ構造すぎて「蜂集まってきちゃうよ!」と危機感を覚えたほどです。そしてそして……!セットで注文したアイスコーヒーがまた……!すっっごく良かったです……!カヌレとのバランスが凄くて、少し酸味のあるコーヒーは、甘いカヌレとのシーソーを完璧に乗りこなしていてとんでもないセットでした……!

そして、フランスからやってきてくれたゲランド塩……!アイスは甘くて、マスカルポーネのようなまろやかさがあったのですが、その表面をサッと撫でるようにゲランド塩のしょっぱさが効いてきます。イメージなのですが、オーシャンビューのテラス席に座ってアイスを食べてたら、潮風が吹いてアイスの上を吹いていって、それで少ししょっぱいんじゃないか……?という塩味で、とっても都会な味でした。

2軒目もとっても満足でした!

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そういえばですが……!ここまでのカヌレを見て「見た目が可愛いから一緒に写真を撮りたいな……」と思う方も多いのではないでしょうか?

私もその1人です。なので、一体どんな服を着ていけばカヌレと素敵な写真が撮れるのだろうと考えた結果、ハッ!と学生時代に美術で習った「色相環」を思い出しました。色相環の、反対にある色を組み合わせるとお互いの色を目立たせることができるのです。カヌレは基本的に「茶色」のビジュアルでやっています。そして茶色の反対にある色は「青」か「緑」です。なので今回のカヌレ旅はターコイズブルーのセーターで出掛けてみました。

いかがでしょうか?カヌレがより魅力的に写っていませんか?一応、白いジャケットとカヌレのパターンでも写真を撮ったのでぜひ比較してみてください。

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そんな余談はさておき、3つ目のお店に向かいます。

まあ、確かに、少しだけ、本当に少しだけ、しょっぱいものが食べたいです。ケバブとかが食べたいです。しかし、今日は東京カリとろカヌレ旅です。カヌレでお腹いっぱいにするチャンスは今日を逃したら二度と来ない予感がします。コンビニで購入したカリカリ梅で一回だけ甘さとしょっぱさを均等にならしてから3つ目のお店を目指します。

日本橋にある『ease』というお店にやってきました。

私にとっての日本橋は、就活でよく来ていた街だったので遊びより仕事の街のイメージがあります。そんな街に数年後、まさかカヌレを食べるためだけに降り立つとは……。昔の自分が知ってもコメントに困る未来だと思います。

店内はケーキを食べる人たちで賑わっていて、カップルが多い印象でした。こちらのお店はカヌレだけでなく、色んな焼き菓子やケーキも売っているのです。ショーケースに綺麗に並べられたケーキを見てみると、カップルが多いのも納得してしまうほど「デートで食べたい!」と憧れるような繊細で美しいケーキでした。むちゃくちゃ美味しそうでしたが、今日はカヌレ旅なので、カヌレを食べます。

こ……これは……!

食べてみると、やはり噂通りに外はカリカリです……!しかし、これまでの2つのお店と違って……なんだか……中の生地よりも外のカリカリの方が甘く感じるのです……!す、すごい……!ここまでずっと同じ「カヌレ」と言う焼き菓子を食べているのに、お店によってここまでハッキリ違いがあるとは……!驚いた違いはその点だけではありません。その甘さというのが、黒糖のような……なんと言いますか……深くて……濃い……そんな甘さだったのです……!そして、そんな甘さと相まったカリカリの生地は砂糖をこんがり焼いて出来たカリカリを食べているような背徳感があります……!

そして中のとろり部分は、黄色の生地に外の茶色がもはや染みてしまっていて、それが見るからにもう美味しそうで、それから水分量が1番多くてとろりと言うよりとろり〜〜〜っという感じで美味しかったです……!

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……3つ目のお店を終え、確かに、もう満足です。

確かに、もうかなりしょっぱいものが食べたいです。しかしこれは東京カリとろカヌレ旅なのです……なので次の店に……えっ……!??

なんと、ここで思いもよらぬトラブルが発生します。予定ではこのあと浅草方面へ移動してあと2つお店をめぐろうとしていました。しかし調べ方が甘かったのかまさかのどちらも定休日……!反射で「嘘でしょ……⁉」と声が出ましたが、正直、完全に嬉しかったです。

そうして、私の東京カリとろカヌレ旅はダサめのミスで幕を閉じました。

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でも、気付いたことがあります。それは……

「好きなものでも適量がある」

と、言うことです。

けれど、後悔はなくやってみて良かったなあと心から思えました。それはやはり、お気に入りのお店を見つけられたからかなあ、と思います。

私は今回の旅のあと、仕事で有楽町へ来ることがありました。その時ふと「有楽町って、『THE STAND』のある駅じゃん……!」と気付き「仕事を頑張って、カヌレ買って帰ろう!」と思えたのです。自分のお気に入りのお店の場所を知っていると、自分の頭の中にあるマップに楽しいスポットが新たに増えて、幸せが着実に増す感じがします。

それから2つ目の気付きとして、やってみたい!と思うことは意外と簡単にやれると知れたのも今回の良い収穫でした。私は「金沢に行きたいなあ……」と言い続けてもう4年近く経っているのですが、多分それも「えいっ!」と新幹線に飛び乗ってしまえば叶うような、全然手に入れられる幸せなのです。

カヌレからと思えないほど壮大で素敵な締めくくりになってしまいました。でも、好きなものをめぐる旅、とてもオススメです!

皆さんもぜひハートのGPSを頼りに好きな旅をしてみてください!

文=アンゴラ村長(にゃんこスター)