東銀座の和食激戦区で20年余り。静かに人気を集め続ける名店『銀座あさみ』

2000(平成12)年創業の割烹・懐石料理店『銀座あさみ』があるのは、地下鉄の東銀座駅や築地市場駅から徒歩5分ほどの、日本料理店が建ち並ぶエリア。新橋花柳界発祥の地でもあり、5月が近づくと東をどりのポスターが道々を賑わす。

店主の浅見健二さんは、和食店の最高峰ともいわれた『京味』で腕を磨き、『銀座おおたに』を経て2000年に独立。かつてはお弟子さんと二人で回していたという店内は、カウンター10席と個室が3室で、静かに料理と向き合える。

ちなみにこのときのお弟子さんが独立して出した『銀座うち山』も鯛茶漬けが人気で、ミシュラン一つ星を獲得している。

せっかくなので個室を覗かせてもらうと、座敷には棟方志功の版画が飾られ、しつらえも美しい。なにも知らずに店の暖簾をくぐったらどぎまぎしてしまうに違いないが、今回はランチの人気メニューである鯛茶漬けを食べると心に決めているので、何も怖れることはない。

せっかくならカウンター席で、職人技を垣間見よう

ドキドキしながらカウンターに腰掛け、まずは私のような割烹料理店初心者へのアドバイスを聞いてみると、「全然緊張することは無いんですよ。カウンターに立ち始めた頃は、僕の方がお客さんより緊張していたくらいなんですから」と、浅見さんは気さくに答えてくれた。

さっそく鯛茶漬けを注文すると、浅見さんが目の前で鯛を切ってくれた。カウンター席に座ってその流れるような手さばきに見惚れるのも、割烹料理店の醍醐味といえる。

なお、ランチメニューには鯛茶漬けのほかにも、縁高弁当や鯛茶付き弁当、お昼の懐石コースなどがあるが、予約なしで頂けるのは鯛茶漬けのみ。そのほかは要予約なのでご注意を。

まずはそのまま、そしてお茶をかけて。2度感動する鯛茶漬け

高級店だけに、鯛茶漬け単品で1800円なのかと思っていたら、しっかりと小鉢2品にお新香もついたお膳が登場。今日の小鉢は、生姜の千切りとおろしの組み合わせが繊細なもずく酢。そして、少し辛味を効かせた水菜と油揚げの煮びたし。どちらも素材の味を活かした上品な味付けで、濃厚な鯛茶漬けの箸休めにもぴったりだ。

鯛茶漬けは、まずはそのままお茶をかけずに頂くのがおすすめ。豊洲直送の新鮮な鯛は、硬直が始まる前のプリッと柔らかい食感。ナッツ香る濃厚なごまだれをたっぷりと付けて頂けば、ご飯がどんどん進むこと間違いなしだ。器には厚切りの鯛が8切も入っている。お茶をかける前に食べ尽くしてしまわないよう自制しつつ、薬味の有無など味の変化を楽しもう。

鯛の刺し身を存分に味わったら、いよいよお茶の出番だ。鯛茶漬けというと出汁をかけて頂くパターンも多いが、『銀座あさみ』でかけるのは熱々の深蒸し緑茶。鯛の淡白な旨味とごまだれの濃厚なコクには、緑茶の爽やかな香りがよく合っている。お茶の熱で鯛がほんのり霜降りになると、プリプリからほろりとした食感に変わり、香りも一段と立ってくる。

ご飯はおかわり自由なので、足りなくなったら遠慮せず頼もう。最後は器に残ったごまだれもご飯にかけて、最後の一滴まで飲み干したい!

銀座あさみ
高級懐石『銀座あさみ』の鯛茶漬けを家で再現!
『銀座あさみ』の鯛茶漬けといえば、濃厚でコクのあるごまだれがポイント。[ごまだれの材料]を全てフードプロセッサーなどに入れ、滑らかになるまでしっかり撹拌したら…

食事が終わる頃を見計らって、セットのデザートが。4月半ばのこの日は、抹茶で彩られた浮島(きめの細かいカステラのような蒸し菓子)を出してくれた。デザートや小鉢の内容はその時々で変わるので、旬や季節の移り変わりを感じられる。

『銀座あさみ』の鯛茶漬けは、ご褒美ランチや割烹料理店デビューにぴったり

ご飯をおかわりし、デザートまで食べて満腹の私は、いつのまにか最初の緊張感を忘れていた。ハードルが高く感じられる割烹料理店のカウンターも、一度座ってしまえば、料理人の技を間近で見られて、出来たての料理を頂ける特等席だ。

夜の『銀座あさみ』は接待や会食で利用する人が多いというが、ランチライムのカウンターには、純粋に鯛茶漬けを楽しみにプライベートで来たお客さんが多く、カウンターデビューにも最適。仕事の会食で食べた料理を気に入ってランチに通うようになったり、家族を連れてきてくれる常連さんも多いという。

今度来るときは予約して縁高弁当を頼んでみようか……。帰る頃には、私もすっかり常連気分で店をあとにした。

住所:東京都中央区銀座8-16-6 ときわぎ館1F/営業時間:11:30~14:00LO・17:30~21:30LO/定休日:日・祝/アクセス:地下鉄日比谷線東銀座駅から徒歩5分

取材・文=岡村朱万里 撮影=加藤熊三