倉庫となった第1探照灯掩灯所の遺構を観察する
モーリー池からちょっと戻ります。ビジターセンターに到着しました。するとセンターの脇に古めかしい擁壁があります。ひょっとして……。
「これはサーチライトを格納していたものだよ。戦争中はレールが敷いてあって、展望台のところまで押していったそうだよ」
ちょうど作業をしていた初老の職員に尋ねると、そう返ってきました。この施設がサーチライト=探照灯を格納する施設だったのか。地図には「第1探照灯掩灯所」と書かれています。
擁壁は左へカーブしていて、壁面はゴツゴツとモルタルが吹き付けられたような感じです。ねずみ色なのは塗装されているのか、元々この色味だったのかはっきりしません。見学していいとのことで入っていくと、今は物置になっていますが探照灯がすっぽりと入る空間ができています。上部はかまぼこ状の曲面になっており、鉄扉の痕跡でしょうか、鉄の枠が残っていました。
ここに探照灯を格納して扉を閉める。使用するときはレールに載せていたとか。展望台の場所は聞きそびれてしまいましたが、前回巡った第1探照灯照座へ転がしていったのでしょう。歩いてみるとそこそこ距離があり、高低差もあった気がします。全て人力だっとしたら、かなりの労苦だったことでしょう。
探照灯はどんなタイプであったか定かではありませんが、大房岬戦争遺跡のガイド地図によると、直径2mの最新鋭で9000mの照射距離という性能だったそうです。大房岬は陸軍の要塞だったから、陸軍の探照灯が使用されたと思われます。
大房岬遺構の目玉は第2探照灯掩灯壕、謎の建物と洞窟の先には……。
そして探照灯施設はもう一箇所あります。第1キャンプ場の付近へ向かいます。小道に遺構の説明板があり、矢印の通りに小道を歩いていくと、弾薬庫のような入り口が出迎えました。こんもりと土盛りされたコンクリート構造物があります。ここは入って良いとのこと。
奥には立入禁止パイロンがあって「?」となりましたが、どうやら奥の空間には入れない様子です。
こういったところはたいてい立入禁止であったので、入れることにワクワクします。足元は大丈夫そう。すると、何かの施設だったのでしょうか、コンクリートで覆われた広めの部屋が現れました。左右対称で中心部に乗用車一台は入れるほどの入り口があり、天井の高さは3mないくらい。電線が張ってあった痕跡もあります。
構造は中心部に広い部屋があって、それを取り囲むようにコの字形の通路があります。通路との境にも窓があるのは疑問でしたが、きっと広い空間に資材などを保管していたのでしょう。表に出て振り返ると、左右対称の構造であることが分かります。土盛りされた上部は草木が育って、上空からだと識別できないほどカモフラージュされています。
それにしてもこの面構え、Amazonのダンボーかと。同行した親友は「ヘーベルハウスみたい」と呟いています。たしかに、あのCMの〆で登場する「ハーイ!」の子(本名わからん)に似ていますね。
さらに、この建物の外側にはちょっとした空間があって、その先の岩山の崖には炭鉱の抗口のような口が空いています。2tトラックが入れるほどの広さです。入り口はのっぺらとしたコンクリート造りなのに上部は斜めに角度があり、ちょっとした意匠となっています。
崖に突如開いた入り口……。古代エジプトとか、インディージョーンズ3のロケ地であるペトラ遺跡をもう少しシンプルにしたような、なんかそんな感じ(笑)の遺跡っぽい雰囲気が漂っているのです。
入っていいのだろうか。いいんです。蔵の入り口のような作りは、分厚い扉があったのでしょう。そのさきの地面は下り坂となり暗闇のトンネル。
ん?その先に明るい空間が。あれが祭壇か……なるほど。
と、その先ばかり気を取られていると、足元の段差にすくわれます。気をつけましょう&光量の大きいライトがあったほうがいいかも。スマホのライトではちょっと弱かったです。
振り返るとヘーベルハウスがこっちを見ていて、何かずっと視線を感じます。感じるだけなので大丈夫かと思いますが、何度も振り返っちゃいました。振り返るたび「ハーイ!」
この暗闇のトンネル上部は弧を描いていて、傷跡のような線と点々が二箇所続いています。これは電信線か電源ケーブルが這(は)っていた跡です。点々は留め具ですね。近づいたら木片が埋まったままでした。この木片は77年前のものなのだろうか。
暗闇に目が慣れてトンネルを下っていきます。祭壇の前にコロボックルが4人立っている、いや違う、何かの構造物の前にパイロンが4つある。胸の高鳴りを抑えながら足元を気にして、到着。なんだこれは……。
パイロンは安全のために何かを囲っています。地面が脆いのか、頭上から水でも滴ってくるのか。下り坂は終わり、小部屋っぽい空間なのですが、その先が異様に明るい。外の明かり取りが差し込んでいるのだろう。それに大きな溝があって、先はかまぼこ状の大きな窪みのある空間。本当に祭壇なのか?
またもや扉の痕跡を確認しつつ……外だ。上を見上げると木々が茂っている。下は、ああ……水がたぷたぷと溜まった堀になっている。柵がないから夜間は落ちてしまいそうだ。階段がある。階段は数段で水溜りに没している。反対側も階段だ、渡れるかな。目測で2mちょいか。でもこの水溜りの深さは分からない。太い枝も沈んでいて、おそらく深さ1mはありそう。それにしてもあの出っ張りはなんだろう。
一瞬で様々なことを考えていました。この施設は、探照灯のエレベーターなのです。かつては大きな探照灯が、この明かり取りの空間で上下し、上がった状態で索敵していました。この場所は岬の小山部分にあたり、秘密基地のごとく、山の中に繰り抜かれた格納庫からサーチライトが現れていたのですね。
堀の溝はエレベーターの受け口で、深さは分かりません。水は雨などで上部から降り注いで溜まったものです。黒く澱(よど)んで流れがないことを思うと、相当溜まっているのではないかと。これは絶対に冒険しちゃいけないやつです。渡るのはやめましょう。ここは構造的に雨水が入りやすいから、現役の頃は排水施設もあったと思います。それが詰まって機能していないのかな。
沢山の枝葉が没している姿と、奥にある祭壇のような空間は、古代に神に捧げる祭りを行った場所を連想します。ということは生贄が……(違)
探照灯の格納場所はどうなっていたか。これは想像ですが、奥側に出っ張りがあることから、手前に引き出して格納していたのではないかと。メンテナンスは先ほどの坂を上がって、謎のヘーベルハウス(ハーイ!)で修繕をしていたのかなと考えました。
探照灯の格納施設、色々と撮影したのでご覧ください。この後も少し遺構が残っているのですが、それはおまけとして次回に紹介します。
取材・文・撮影=吉永陽一