“シーンに携わる”というつながりがある
「居心地の良いシーンには、いつも珈琲があったのです」
そう話す山本さん。珈琲の焙煎活動を始める前から喫茶店や珈琲を愛好していたという。近年は舞台でのパフォーマーを中心に撮影をする、この道20年以上の寫眞家だ。
山本さんにとって「シーン」を描くという点で、焙煎家と寫眞家には通ずるものがあるという。
「寫眞家は“シーン”を切り取るものであり、焙煎家は“シーン”を提供する。受け取り手や受け渡し手と、それぞれ立場が違いますが、両側を観ているからこそ創り出せる一つの表現として日々互いに研鑽して活動をしています」
好みとシーンに応じた珈琲を提供する
2階建ての店内は、木目が美しいあたたかみのある風合い。1階はオーダーカウンターの前にベンチの並ぶスタンドと、焙煎アトリエを兼ねたキッチンが存在する。開放的な店先は、赤子連れのお母さんや、散歩の休憩にと立ち寄る高齢のお客様の憩いの場としてにぎわう。
急勾配の階段を登り切ると、2階にはテーブル席を備えた喫茶エリアが広がる。窓から降り注ぐ光が眩い空間は、時を忘れて過ごしたくなる。
店内の珈琲豆は、常時10種類近くと豊富に揃える。世界各国から厳選した良質な生豆は、ハンドソーティングで選別し、手廻しの直火式焙煎機で焙る。地道だが丁寧に繊細に向き合う時間だ。好みの珈琲を注文すると、その場で挽き、丁寧にハンドドリップで淹れてくれる。
「暗室で一枚一枚、想いを込めて写真を焼くように、焙煎室でお一人お一人に、心を込めて手作業で珈琲豆を焼く。この2つは異なるようでいて、私にとっては同じなのです。非常にアナログな作業ですが、手作業だからこそ表現出来る味わいというものを大切にしています」
挽きたての豆は、ハンドドリップで丁寧に淹れる。オリジナルのロゴが印象的なぽってりと厚みのあるマグには、珈琲をたっぷり200ml注ぎ、提供する。ペーパードリップで仕上げた珈琲はすっきりとしつつも、冷めても余韻の残る味わいだ。
ひとさじのエッセンスを加えた、忘れられない味のスイーツ
珈琲のそばには、スイーツも添えておきたい。
香ばしい歯応えと、甘さ控えめナッツの風味が豊かなビスコッティ、味わいが爽やかで珈琲とのバランスが抜群のレアチーズケーキは、全て自家製だ。徐々に新しいスイーツ作りにも精を出し、ラインナップは変化していく予定だという。
「スイーツ作りのヒントにしているのは、若かりし頃に、自分が訪れた喫茶店の“あの味”。忘れられない珈琲とのマリアージュがあるのです。珈琲の味わいを大切にしながらも、ハッと変化を感じられるスイーツ作りを心がけています」
優しい時間が流れる場所でありたい
山本さんにとって日々の何気ない営みや暮らしこそ、美しく価値のあるものだと話す。
訪れる人にとって、その一瞬が優しく、美しく、心に染み渡る時間でありますように——珈琲と共に時をじっくり味わいたくなったらぜひ足を延ばして欲しい。
取材・文・撮影=永見薫