電車のドアに貼られたステッカーのマイルド化はいつからだろう
ドアの戸袋を指さす人差し指には包帯が巻かれ、血まで滴っている。これまでの人生で、戸袋に引き込まれた経験は幸いにして無いのだが、「もし引き込まれてしまったらどうなるのだろう……?」という恐怖感を子ども心に抱いたものだ。
もちろん現在でも、このような「ドア挟まれ注意」のステッカーやポスターは数多く見られるのだが、以前と比べて怖くなくなったというか、マイルドな印象になっているように思う。その「マイルド化」の先駆けとなったのが、東急電鉄のドアに貼られたクマのステッカーではないだろうか。
「ひらくドアにごちゅういください。」というひらがなの注意書きとともに描かれているかわいらしいクマは、イラストレーターの故・原田治氏の手によるものだ。2012年9月7日の原田氏ご本人のブログによれば、「コレは30年くらい前からのクマ」とのことで、どうやら1980年代から採用されたようである。「挟まれ注意」の可愛い化は、原田氏から始まったと見て間違いないだろう。
原田氏が「挟まれ注意」に残したもう一つの影響、それは「キャラクター自身が挟まれない」ということだ。もちろん現在でも、かわいらしいキャラが挟まれるケースもあるのだが、キャラクターはただ単に注意を促すのみという役割が多い。
特定のキャラクターを電車全体にあしらったラッピング電車では、その傾向が顕著である。メインとなるキャラが挟まれて痛がっている様子は、イメージが悪いということなのだろうか。
久々に「イテテテ」となった攻めたデザイン
そんなわけで、最近では「挟まれ注意」を見ても「イテテテ」となる機会が減っていたのだが、久々に「これは痛い」と思わせるポスターに遭遇した。それは東京メトロの駅構内に掲示されている、駆け込み乗車に注意を促すものだ。私が最初にこれを見たのは2019年、イノシシが、閉まるドアに盛大に鼻を挟まれている絵柄であった。私は思わず自分の鼻を押さえ、「イテテテ」と口走ってしまった。マイルド化が進む「挟まれ注意」界において、久々に攻めたデザインのポスターだなと思っていた。
ところが、である。しばらくすると、今度はネズミが同様に鼻を挟まれて泣いていた。こちらもやはり「イテテテ」となった。しかしそこでふと気が付いたのである。イノシシ、ネズミ、ときているということは……もしかすると干支?
2022年もきっと、見つけたらまた「イテテテ」となってしまうのだろうが、トラが鼻を挟まれるポスターを期待してしまっている自分がいる。
絵・写真・文=オギリマサホ