豚骨魚介つけ麺がメインの自家製麺の店

王子駅南口を通る北本通りを越えたところにそびえ建つ飛鳥山スカイハイツ。その周りをぐるりと歩くだけでも4、5件ほどのラーメン店がある。『濃厚つけ麺・ラーメン 八重桜』は、そんなちょっとした激戦区の中で営業をしている。

王子のシンボル的レトロマンションである飛鳥山スカイハイツを囲むように小さな店が並ぶなか、目に入る八重桜の看板。
王子のシンボル的レトロマンションである飛鳥山スカイハイツを囲むように小さな店が並ぶなか、目に入る八重桜の看板。

店の作りはL字型のカウンター席がキッチンに向き合うタイプ。外観から想像するよりも広い。店の看板メニューはつけ麺だ。おすすめという特製豚骨魚介つけめん1050円を注文する。

写真は並盛で麺量375g。中盛は560g、大盛は750gで提供している。魚粉の香りとたくましい麺にそそられる。
写真は並盛で麺量375g。中盛は560g、大盛は750gで提供している。魚粉の香りとたくましい麺にそそられる。

箸から伝わるずっしりとした麺の重さに気合が入る。スープにつけて、力強くすすれば、豚骨魚介のコクのある濃厚な味わいと太麺の力強いモチモチ感がたまらない。豚のゲンコツ、頭、背ガラとさば節、宗田節、かつお節を加え、合計20時間ほど煮込むスープは旨味がギュッと詰まっていてあとをひく。豚骨魚介の王道ど真ん中を行く味で、食べ進めるほどにパワーがみなぎってくる……!

もうひとつ忘れてはならないのはオマール海老らーめん1050円。海老のいい香りが立ちのぼる。
もうひとつ忘れてはならないのはオマール海老らーめん1050円。海老のいい香りが立ちのぼる。

とろみのあるオレンジ色のスープが特徴のオマール海老ラーメンは毎日10食限定。土日のランチタイムでは毎回売り切れるそう。鶏ガラとオマール海老の頭を白濁するまで煮込んだスープに、歯切れのいい麺が相性抜群。豊かな海老の風味が印象的で、根強いファンがいるというのもうなずける一杯だ。

店頭では大々的にうたっていないが、実は自家製麺の店。麺は越谷市蒲生南町にある系列店の『ときすけ』で製麺されている。
店頭では大々的にうたっていないが、実は自家製麺の店。麺は越谷市蒲生南町にある系列店の『ときすけ』で製麺されている。

需要に合わせてリニューアル、大切なのはお客さんと向き合うこと

『濃厚つけ麺・ラーメン 八重桜』は2021年の9月で3年目を迎える。それ以前は「麺や雄」として看板を掲げていた。当時メインにしていたのは海老ラーメンのほう。「一風変わった海老ラーメンでワンチャン大行列ねらおう、みたいな」と「麺や雄」時代を教えてくれたのは店長の原田敬汰(けいた)さん。

話し方とタオルの下のロン毛のせいか、チャラく見られがちな雇われ店長。好きな映画は「ワイルドスピード」シリーズ。
話し方とタオルの下のロン毛のせいか、チャラく見られがちな雇われ店長。好きな映画は「ワイルドスピード」シリーズ。

営業を続ける中で、店はお客さんのニーズと向き合うべく、海老ラーメンの出汁を甘海老からオマール海老へと進化させた。そして豚骨魚介のつけ麺をメインに押し出し、店名も変えて『八重桜』へと生まれ変わったという。「豚骨魚介の需要はやっぱすごいっすね」と原田さんが言うようにリニューアルは大成功。売り上げは上向いた。

では現在、原田さんが大事にしていることは? と聞くとそれまでの軽い口調からは一転。真剣に答えを探すかのようにこう答えてくれた。

「うーん……。やっぱり常連さんですかね。100点の味を安定して出すのは当たり前で、それ以上となるとプラスアルファの努力が必要だと思っています。それは、“ちゃんと挨拶をする”とか“仲良くなって声をかける”とか、そういったことが大事なのかなぁ」

「お客さんに声をかけたらウザイかな……。でもまた来てくれたら話したいと僕は思うな」と頭をかきつつ、「何が正解かわからないけれど、お客さんを大切にするのはブレずにやっていきたい」と言う。

今の『八重桜』に尖った個性はないかもしれない。しかしそれは多くのお客さんに喜んでもらうため自ら変革を遂げた結果である。安心安定の豚骨魚介のつけ麺に、リッチなオマール海老のラーメン、そしてフレンドリーなもてなしをする店長。プチ激戦区で生き残る理由は十分に揃っている。

住所:東京都北区王子1-15-5/営業時間:11:30~23:00(日・祝は11:30~21:00)/定休日:無/アクセス:JR京浜東北線・地下鉄南北線王子駅より徒歩5分

構成=フリート 取材・文・写真=宇野美香子