群馬県は、年間を通して晴れの日が多く、水はけのよい土壌に恵まれているため、米の裏作として小麦の栽培が盛んだ。ちなみに小麦の生産量は全国第4位を誇る。
この小麦を使った料理、つまり粉食は、群馬県民のソウルフードともいえる。うどん、すいとん、もんじゃ焼き、焼きまんじゅう、焼きそばなど、各地に県民たちに愛される粉食料理がある。
なかでもうどんは、土地ごとに特徴がある。幅広の麺が特徴で「ひもかわ」とも呼ばれる桐生うどん、麺を竹ざおにかけて天日で半分乾燥させる館林うどん、水沢観音の参詣者に出したのが始まりという水沢うどん。この3つは群馬三大うどんと呼ばれる。
前橋あたりで食べられるうどんは、上州うどんとも呼ばれ、冷たいうどんを温かいつゆにつけて味わうつけ汁タイプのものが多い。麺は平たくて太く、縮れて白い。かなり弾力があり、モチモチした食感が特徴だ。
今回は、製麺所の直営店、前橋でも数少ない手こねでうどんを作る店、鍋うどんや創作うどんなどオリジナルメニューが充実した店と、タイプの異なる3店をピックアップした。奥深い前橋のうどんを、ぜひ味わってほしい。
温井製麺
ボリューム満点の打ちたてうどん
昭和初期から続く製麺工場の一角に店舗がある。「毎朝7時からその日に店で出す分を打ち始めます。機械打ちですが手打ちの食感と味わいがあるのが特徴」とスタッフの後藤絃音さんは胸を張る。おなかいっぱい食べてもらいたいので、一人前は並盛で茹であげ400gとたっぷり。しかも安いとくれば客の8割がリピーターというのも納得。うどんは、もり、肉汁、きのこ汁、カレーの4種に絞っているのも潔い。
『温井製麺』店舗詳細
奈加禅
ツルシコ食感の絶品手打ちうどん
前橋にはうどん専門店が多いが、ここはどちらかというとそばが中心。しかし、そば打ちで鍛えた技はうどんでも遺憾なく発揮され、手こね、踏みつけの後、一晩寝かして翌日に手打ちする平打ちのうどんは、ツルツルシコシコと喉越し抜群。マイタケや野菜の天ぷらと、炊き込みご飯が付くうどんもりセットが一番人気。本枯れ節で出汁をとった濃厚なつゆとの相性もよい。
『奈加禅(なかぜん)』店舗詳細
お饂飥鍋 馳走てん幻
うどん好きも迷う、多彩な組み合わせ
調理法は鍋、つけ、かけ、創作から選ぶことができ、麺は平打ち、中太、太の3種を用意。一番人気は鍋うどんの牛カルビ煮込みだが、肉汁つけうどんやクリーム系の創作うどんにもファンが多い。うどんは前橋市内の2カ所の製麺所から打ちたてを仕入れ、出汁は素材を厳選し店内で手作りする。うどんに添えられる小鉢も丁寧な仕事ぶりで、コスパの良さには自信あり。
『お饂飥鍋 馳走てん幻』店舗詳細
取材・文=塙 広明(アド・グリーン)、阿部奈穂子 撮影=高野尚人、野本浩一郎
『散歩の達人』2020年9月号より