職人技が冴えわたる江戸の寿司『やよい鮨』[森下]
築地の仲卸だった初代が1950年、自宅で始めた店には、司馬遼太郎も足を運んだという。現在切り盛りするのは3代目で、2009年頃より江戸の寿し再現を始めた。さすがに現代の3倍はあった俵にぎりは「あれこれ食べられなくなりますから」と諦めたが、皮を湯引きして甘酢で締めたタイ、脂や厚さで塩加減を変える小肌、漬けなど、手間を惜しまぬネタ揃いだ。醤油要らずで、ネタと赤酢のシャリが口中で一体となる。「生ものが苦手な方や妊婦さんにも召し上がっていただける加熱すしも好評」。
『やよい鮨』店舗詳細
爽やかな香りにうっとりすっきり『手打そば 京金』[森下]
外二(そとに)の手打ちそばは切り口まで美しく、つるりとした喉越しの後、ふわりと風味が鼻を抜ける。酒肴の後にせいろを手繰るのもいいけれど、スダチの輪切りを敷き詰めたすだちそばも絶品。本枯鰹節を贅沢に使った奥深い出汁に、爽やかな香りが溶け込み、キリッとした雑味のない旨味が広がる。「江戸っ子は濁りを嫌うから」と、あえて添えた大根おろしを途中で加えれば、風味も変わる。
『手打そば 京金』店舗詳細
旨味を引き出す燻製の魔力『自家製くんせい ます道庵』[菊川]
燻香に釣られて鼻がひくひく。店主の鈴木真澄さんは、自宅でハマった燻製作りを看板に据え、2014年6月に食事処を開業した。用いるのは「肉にも魚にも合う」桜チップ。鶏の手羽は下味を付けてから燻製し、干物は燻製した後に炙(あぶ)り、チーズや焼き鳥でなじみのあるぼんじりも燻製にしてしまう。燻製と言えど幅が広い。人気の燻製たまごは、酒のアテになるほど濃厚。また、燻製たまごを加えたシンプルなポテトサラダは、白身がむっちりと鶏肉のような弾力と旨味を醸す。魔法のようだ。
『自家製くんせい ます道庵』店舗詳細
銀座生まれ、深川育ちの老舗洋食店『銀座煉瓦亭 深川本店』[森下]
さまざまな洋食を編み出した銀座煉瓦亭の流れを汲むが、深川独自の料理も多い。深川っ子の口に合うよう改良されたポークソテーは、ロース肉に秘伝タレと小麦粉を付け、焼き上げる際に醤油を垂らした日本酒でフランベ。表面はカリッと香ばしいのに、ジューシーで柔らか。メニューには中華も。実は戦中、配給制度のため、町の飲食店は協力して1店舗営業。ゆえに「深川では洋食屋に中華もあるんです」と4代目・石倉孝志さん。夏限定の冷しソバは秀逸だ。
『銀座煉瓦亭 深川本店』店舗詳細
汗かくタイカレーで代謝アップを実感『お招き屋・ディデアン』[門前仲町]
サラリとしたスープタイプの極辛カレー。しかし、辛味がジャスミンライスと合わさると、深いコクと甘みが口いっぱいに広がる。コクの正体は、名古屋コーチンのガラで取るブイヨンだ。「濃厚過ぎて冷蔵庫で固く煮こごるので、のばすのにひと苦労」と、シェフの永添愼一さんは苦笑いする。使用スパイス20数種類の中には、当帰(トウキ)や高麗人参など変化球もあり、独自の風味を醸し出している。体にいいものを伝え続けて20年以上。完食後、「医食同源」の言葉がよぎった。
『お招き屋・ディデアン』店舗詳細
チャーミングな店主が腕を振るう『和イタリア食堂 たまキャアノ』[門前仲町]
50歳でOLを辞めてイタリアへ料理留学。その後開業、の物語。主役で店主の松下珠美さんは、すべてを委ねて飲み食いしたい! と思わせるオーラを放つ。食材を手にしてから創造する料理は、新鮮で今が最高の旬菜や魚をふんだんに使い、たまさんの笑顔のようにチャーミングに仕上げる。「料理の順番なんて気にせず、パスタの後にまた前菜でもいいのよ。ワイン1杯と1皿でもOK」。幅の広いカウンター9席に、おいしいものに嗅覚鋭い食いしん坊が集う。
『和イタリア食堂 たまキャアノ』店舗詳細
戦前から営む中華食堂『中華料理 楽楽』[森下]
「戦前から来てる人に、変わらない味だねって言われます」と、3代目女将の中島禧枝(としえ)さん。カレーやオムライスも揃えた、下町の中華食堂だ。特徴的なのは五目チャーハン。焼豚の煮汁から作るタレで味が調えられ、焦がし醤油の香りが秀逸。揚げワンタンのあんかけも珍しい。豚肉の餡を包んだ揚げワンタンに、豚ガラ、昆布、煮干し、野菜などを煮出した店基本のスープで作った甘酢を絡ませる。ミニ皿とチャーハンの組み合わせは、最強だ!
『中華料理 楽楽』店舗詳細
取材・文=佐藤さゆり、松井一恵(teamまめ) 撮影=オカダタカオ、高野尚人、山出高士