クイーンとバーボンに酔う。『ロック酒場 ストーンコールド』[五反田]
開発が進む五反田駅のすぐ近くに、ひっそり立つ昭和ムーディーな雑居ビル。その2階に、スナックだったお店のレトロな内装をそのまま生かしたロックバー『ストーンコールド』がある。店名こそレインボーのヒット曲からだけど、ここはクイーン・ファンなら一度は行きたいお店。メンバー全員のサイン入りディスク、フィギュア、ミニカーなどのトイ、国内盤のシングルEP多数、写真集、ブライアン・メイ・モデルのギター、誰もがフレディになれる(?)衣装などなど、ファン垂涎(すいぜん)のグッズが並ぶ。ピアノもあるので、弾き語りで「ボヘミアン・ラプソディ」を熱唱!もできる。話題の映画を観た帰り、高揚した気持ちをここでさらに盛り上げたい。
オーナーは元サラリーマン。ロックが好きでギターを手にし、バンドを組んだ。今は閉店した三宿の「スノウドニア」などロックバー名店に通って、2015年にこの店をオープン。「クイーンなら細かいことは言わないで、『ボヘミアン・ラプソディが好き』って言いましょうよ」と、ツウぶらないユル~さが心地いい。
『ロック酒場 ストーンコールド』店舗詳細
高円寺の達人が創り出す。『ROCK BAR MAGIC V』[高円寺]
あらゆるジャンルのライブハウスが点在する街、高円寺。そんな街の『ROCK BAR MAGIC Ⅴ(ファイブ)』の店長、立花さんも80年代に日本のロック・バンドのマネージャーとして音楽に携わっていた人物だ。「ウチは庶民的」と人懐っこい笑顔で迎えてくれる店長おすすめの一杯は、祖母の手作り梅干しで作る梅酎。梅の旨味があふれる人気の一杯で女性にも大人気。ジョニー・ウィンターからプログレまでと、幅広いジャンルの3000枚ものLPやCDを、サンスイとJBLのシステムで聴くことができる。リクエストはLPを片面ずつ一枚聴かせてくれて、中でもジャニス・ジョプリンの『パール』が一番人気。次いでレッド・ツ ェ ッ ペ リ ン。1982 年 に「ROCK BAR MAGIC」をスタートし現在の「MAGIC V(5代目)」は南口高架下からすぐの地下にある。高円寺を知り尽くした庶民のバーだ。
『ROCK BAR MAGIC V』店舗詳細
厳選ウイスキーと米ロック。『Bar Oasis』[池袋]
池袋を代表する老舗で、この店のほかにもライブができるビアバー、UKロックをテーマにしたパブも経営している鈴木博行さん。約30年前に開店した当初、ロックを聴けるようなバーは池袋にはなく、音楽もお酒も好きだったから始めたそうだ。「TOTOなど70~80年代のアメリカン・ロックも聴けますが、お酒へのこだわりも強いんです。国内外の蒸留所にも通い、おいしいウイスキーを直接仕入れたりもしています」。ウイスキーが好きな人がロックの魅力に再び気付いたり、ロックが好きな人がウイスキーのおいしさに目覚めたりと、お酒と音楽がちょうどいいバランスでブレンドされていると言っていい。会話ができるくらいのちょうどいい音量で今も色あせないロックを聴きながら、次はどれを飲もうかと思い巡らせる、そんなお店だ。
『Bar Oasis』店舗詳細
/定休日:日/アクセス: JR・私鉄・地下鉄池袋駅から徒歩5分
ロフト精神の原点を見せるカフェ。『ROCK CAFE LOFT is your room』[新宿]
2018年3月、新宿・歌舞伎町にオープンした『ROCK CAFE LOFT is your room』は、爆音でロックが楽しめるお店。ARBなどロフトならではのロックが人気だ。「1階は普通の音量で、2階に爆音ルームがあります。常連さんは自分の好きな曲がかかると2階に上がっていかれます」と店長の東健太郎さん。トークイベントや弾き語り、DJイベントなど、毎日様々なイベントも開かれる。
ロフトは現在、都内に9店舗ある。東京のライブハウスの草分け的存在で、オーナーの平野悠さんが1971年に千歳烏山に作った今や伝説となったロック喫茶が最初だ。この新しいロック・カフェもその精神を受け継ぎ、「大音量のロックを全身で感じてほしい」という。
『ROCK CAFE LOFT is your room』店舗詳細
レアなAORに出合うショットバー。『Shot Bar THE NIGHTFLY』[大井町]
立ち飲みの聖地、大井町でゆったりと腰掛けてお酒と音楽を楽しみたいならば、こちらのお店を推したい。スナックが立ち並ぶディープなオーイ地下飲食店街でアダルト・オリエンテッド・ロック(AOR)が聴けるショットバーで、2021年で18年目を迎える。AORとは70 ~80年代のアメリカ西海岸が中心の洗練された大人のロックで、日本特有のジャンル。店名の由来にもなっているドナルド・フェイゲンやスティーリー・ダンのリクエストも多い。「自分で行きたいけどAORを専門にしたお店はなかったので、それなら自分でやってしまおうと思ったんです。開店前からレコードやCDもコレクションしていましたし、好きが高じて始めてしまいました」と店主の吹田直樹さん。今宵も豊富なライブラリーから洗練された都会的なロックが流れ出し、大人たちがウイスキーを傾ける。
『Shot Bar THE NIGHTFLY』店舗詳細
クラプトン好きは一度は訪ねたい。『BAR CLAPTON』[自由が丘]
大人の街、自由が丘で夜な夜な多彩なギターの音色が流れ出す。店名からもうかがえるように店主の中津留誠さんはエリック・クラプトンの大ファン。店内にはクラプトンが愛用するストラトキャスターやマーティンのアコースティック・ギターが飾られ、日によってはお客さんが手にしてセッションが繰り広げられる。「お客さん同士が仲良くなってバンドを組んで演奏したり。私もお客さんと一緒に楽しみながらやっています。クラプトンを観にイギリスまで行って店を留守にした時などは常連の方がカウンターに入ってかわりに営業してくださったりもするんですよ」。自家製のジンジャー・シロップを使ったカクテルや、店主の母が手作りする日替わりのお通しも人気。話を聞くほどにアットホームな店だということが伝わってくる。
『BAR CLAPTON』店舗詳細
音楽通もそうでない人も隔てなく。『Mojo Café』[吉祥寺]
狭い階段を上がった2階。思いのほか開放感があるのは、左手奥に大きな窓があるせいか。人気が高いバータイムにはまだ早い時間帯だったが、ニール・ヤングの歌声が流れる店内はとにかく居心地がいい。店主の伊藤彰さんいわく、「ロックバーにありがちな敷居の高さがない店にしたかった」。テーブル席の配置にもゆとりがあり、これなら女性客も通いやすそう。一方でターンテーブルやスピーカー、ライブ機材の一部まで常連客が提供しているというあたり、店主の地元・吉祥寺の街に密着して育ってきた経緯がうかがえる。壁のディスプレイ棚にはデヴィッド・ボウイの遺作など、店主お気に入りのLPが。去る11月5日に開店11周年を迎えたばかり。ライブやレコード・イベントも数多く、音楽好きが出会う“クロスロード”となりつつある。
『Mojo Café』店舗詳細
若いマスターの尽きない探究心。『KING BISCUIT』[新宿三丁目]
ライブ音源をオンエアーすることで有名なアメリカ南部のラジオ番組から命名された1989年創業の『KING BISCUIT』。マスターは優れたウイスキーをお客さんに提供したいという思いから自ら国内外の蒸留所を訪れるという勉強家。120種類近いウイスキーが並ぶ店内には、なんと熟成中の小さい樽までありミュージック・バーとして全国で唯一「竹鶴アンバサダー・オブ・ザ・イヤー」として認定された。「ウイスキー初心者でもお気軽に」と店主の富樫さん。そしてゆっくりお酒を味わいながらブルーズを聴く至福の時こそ、マスターが最も大切にしているもの。そのこだわりは会話とお酒の両方が楽しめるようにと、スピーカーの位置を耳の高さから外し、サウンドは高音をカットしミッドを上げて1950年代以前の音質にひたすら近づけるという設定からもうかがえる。人気のアルバムはロバート・ジョンソンの『キング・オブ・ザ・デルタ・ブルース・シンガーズ』やサニー・ボーイの『キング・ビスケット・タイム』。1000枚あるLPの中からリクエストができて、アルバム一枚をフルで聴くことができる。
『KING BISCUIT』店舗詳細
ブルーズ一筋の熱さに酔う!『CHICAGO』[阿佐ケ谷]
知る人ぞ知る歓楽街、杉並区・阿佐ケ谷の狭い路地の、さらに狭い階段を上がった2階にブルースバー『CHICAGO』はある。「全日本入りにくいバー選手権」があれば、その上位に食い込むであろう環境で30年、『CHICAGO』はブルーズを流してきた。営むのは生まれも育ちも阿佐ケ谷の根本直巳さん。「僕が小学生の頃から、この辺りにはフォークのアンダーグラウンドな雰囲気の喫茶店やバーがいくつもありました。この近所で『チェッカーボード』というブルーズバーも経営していますが、そこは僕が10代の頃に初めて行ったお店。元々別の人が45年ぐらい前からブルーズ喫茶をやっていた所です」
さらにもう一軒、ブルーズのライブハウスも開き、ブルーズを伝道してきた根本さん。とはいえ『CHICAGO』はブルーズ素人にも優しく、「最初に聞くなら、これ」とBBキングの『ライブ・イン・クック・カウンティ・ジェイル』を教えてくれた。根本さんの笑顔と楽しいおしゃべりで、コアなファンから初心者まで楽しく酔えるから、構えることなく一歩踏み入れてほしい。
『CHICAGO』店舗詳細
ブルーズ聴きながら昼酒を。『CAFE B-3』[赤羽]
「赤羽と言えば、朝、昼から飲めるというイメージでしょ。だから、ランチからお酒も飲めるお店にしたんですよ」。飄々した語り口で開店の経緯を話してくれた店主の柴田秀行さん。しかも、昼間からジェリー・ロール・キングスなどのブルーズが流れる。「お昼は女性のお客さんが多いからかけづらいんですけどね(笑)。ブルーズって哀しみの音楽というイメージもありますが、楽天的で明るいところもあるんですよ。俺はモテるとか歌っていたりしていて、決して暗くない」。訪ねた時も軽快でノリの良いブルーズがかかっていて、木目のぬくもりを感じさせる店内の雰囲気とマッチしていた。これからの季節にピッタリなホット・バター・ド・ラムが人気で、夜でもしっかりと食事ができる。ブルーズを聴きながら、一杯ならぬ一食というのもアリだ。
『CAFE B-3』店舗詳細
取材・文=和田靜香、油納将志、畔柳ユキ、真保みゆき、都恋堂 撮影=田中秀典、中村宗徳