岩手県盛岡市生まれ。公私ともに17年以上、日本酒を呑みつづけ、全国の酒蔵や酒場を取材し、数々の週刊誌や月刊誌「dancyu」「散歩の達人」などで執筆。日本酒セミナーの講師としても活動中。著書に『蔵を継ぐ』(双葉社)、『いつも、日本酒のことばかり。』(イースト・プレス)
汁物つまみは汁たっぷりがいい
さいきんは寒い日がつづいていますよね。こうも毎日、寒い日ばかりだと、居酒屋に行ったときなどは、前菜もメインもすっ飛ばして、品書きの中に汁物がないか、目を皿のようにして文字を追ってしまいます。
おでんに煮込み、酒蒸し、湯豆腐、鍋物などがあればうれしいですね。さらに、私の場合はどんな料理でも汁がたっぷりだとなお目尻が下がります。行きつけのおでん屋さんは、おでんを注文すると出汁は(たぶん)飲み放題で、最後は汁だけをつまみに燗酒をひたすらおかわりしてしまうほどです。
「歳とったじいさんじゃないんだから」と、常連さんにからかわれることもありますが、汁と日本酒の交互プレイはどうにもやめられません。
日本酒の旨味甘みと汁のエキスは、ぴったりくっついて口の中でじわじわ溶けていくのがすごく気持ちいいんです。ですから、あたたかい出汁をたっぷりとすすって日本酒を飲んでいると、体がゆるみまくって、抱えている悩みなんてどうでもよくなります。
出汁を使ってもう一品つくる
この気持ちよさは家の晩酌でも体感したいので、特に冬は汁物をよくつくるのですが、私は具がメインではなく、あくまでも汁を飲むのが目的で具を入れるなんて場合もあります。なので、多めにつくった汁を活用してもう一品、というのが常です。というわけで、今回は、おでんや煮込み、酒蒸しなど余った出汁を使ったつまみをつくりたいと思います。
材料は何かの出汁(今回はおでんの出汁)をお椀一杯ぶんくらい、セリ半束、油揚げ一枚、塩ふたつまみ、黒七味を少々。
まずは、テフロン加工のフライパンに角切りにした油揚げを並べ、香ばしく焼いたら塩をふりかけます。
油揚げの焼いている匂いをかいだら、つまみ食いせずにはいられない私。あつあつカリカリを一枚パクッとほおばります。
油揚げを食べたら日本酒をちょっとだけ飲んじゃいましょうね。今回は長野県の「十六代九郎右衛門」を選びました。こくのあるリッチな甘みとまるい口当たりが特徴です。油揚げにとてもよく合います。
さて、再び調理を再開です。油揚げに焼き色がついてきたら、出汁を加えて中火で少し煮ていきます。
ザクザクと切ったセリを上にばさっとのせ、蓋をして数分、セリがしんなりするまで蒸し煮にしたら完成。深めの器に盛りつけてください。
食べる直前に黒七味をパラパラかけてくださいね。火傷に注意しながら、出汁をたっぷり吸った油揚げに思い切りかぶりつきましょう。じゅわ〜っと口に溢れてくる出汁と、セリのシャキシャキした歯ごたえがたまりません。もちろん出汁だけもすすって「十六代九郎右衛門」をぐびぐび。酒の豊かな甘みと、油揚げとセリの味が染みた出汁が重なると、なんともいえない満足感で心がうっとりします。体がぽかぽかとあたたまり、晩酌後は赤ら顔でゴロンとベットに横になり、そのまま夢の中へ……。おやすみなさい。
写真・文=山内聖子