だしに対する強いこだわり。濁りのない味を求めて
だしは毎日使い切り。翌日には持ち越さない。
昆布、かつお節、むろ節、どんこ。調味料はみりんと焼き塩のみだが、日本酒は1.2リットル使う。これだけの食材を使って毎朝だしを引き、その日のうちに使い切る。
前日のだしを使うと味が濁るから、というのがその理由。一日の営業が終わると捨ててしまうと聞くと、少しもったいないと思うが、この潔さが澄んだ味につながる。店主の中口さんのこだわりが垣間見える一言だと思った。
玉子は1日、大根は2日、鰯つみれは3日かける
玉子は醤油で炊いて煮卵にして、おでん鍋に入れるまでに丸一日。大根は下炊きしたものをだしで煮て2日間。どちらも手間と時間がかかる大変な作業だ。
しかし、鰯つみれはさらに手間がかかっている。生の鰯をさばき、叩く。ネギ、味噌と和えてから、味をなじませるために一晩以上寝かせる。丸めてからおでん鍋に入れて煮る。提供するまでに3日かかるという。
丁寧に作った鰯つみれは、臭みもなく、とてもやわらかい。箸で割ると、中からじゅわっとだしが出てくるほど。常連も必ず頼むという大人気の一品だ。
旬の食材を、職人のセンスで料理する
店名に「旬菜魚」とあるように、本日のおすすめには旬の食材がずらりと並ぶ。つきあいの長い豊洲の仲買と産直で新鮮な食材を仕入れ、冷凍ものは使わない。生の本マグロや生ウニなど刺し身の鮮度も抜群だ。
また、マカロニグラタンやモッツァレラチーズのサラダなど、和食以外の食材を使ったメニューも。フレンチやイタリアンの料理人経験を持つ中口さんならではのセンスを感じるラインナップだ。
中口さんは、料理人だけでなくフードビジネスコンサルタントとしての顔も持つ。新規店の立ち上げのため、場所のリサーチや設計、内装、提供するレシピや皿まですべてをコーディネートしてきた。その経験から、赤羽にはゆっくり座って飲めるおでん屋が少ないと気づき、目の届く規模の店を持ちたいと考えるようになったという。2005年のことだ。
赤羽界隈としてはちょっと高級な店だが、予約をしないと“中々”入れない人気店となった。日本酒の銘柄も頻繁に入れ替えているので、その時々のおいしさを堪能したい。
取材・⽂・撮影=ミヤウチマサコ