ほどよい手作り感が目を引く、こぢんまりとした洋食店
JR川崎駅の東口エリアを代表するおしゃれスポットと言えば、イタリアの街並みがモチーフの複合商業施設『ラ チッタデッラ』だろう。映画館やライブホールをはじめとしたエンタメはもちろん、個性的なショップやカフェ、美容などの施設が集結。さらに石畳の小道や噴水がある広場といった景観もスタイリッシュで、ちょっとした旅行気分を満喫できる。
そんな『ラ チッタデッラ』と、川崎駅周辺の街との境目とも言える場所に、これまたおしゃれなお店を発見した。思わずふらっと立ち寄りたくなる佇まいの洋食店『KITCHEN ラフト』だ。
かわいらしい立て看板や出入り口の扉など、随所に木材を用いたクラフト感のある外観は、どことなく雑貨屋さんのような雰囲気でもある。窓から店内をのぞいてみると、厨房で作業をする店主の髙木健司さんと目が合った。
「こんな朝早くから、遠くまでお越しいただいて」と温かく出迎えてくれる髙木さん。こちらこそ、開店前の貴重なお時間を割いていただき恐縮です……。
1階には厨房とL字のカウンター席があり、出入り口の正面には階段が見える。「天井が低いので気をつけてください」と言う髙木さんに続いて階段を上がると、2階も客席になっていた。こちらはテーブル席のみで、お店の外の看板が示していたのはこれか、と納得。
2階には、セルフ式の水差しとコップのほかに本棚もある。本棚に絵本が多いのは、子連れのお客さんに対する配慮だろう。こういった細かい気配りが行き届いているのも魅力的だ。
3種の肉が調和した自家製ハンバーグの虜に
『KITCHEN ラフト』では、ランチとディナーでメニューが大きく異なる。ワインによく合う一品料理が揃っているディナーに対して、ランチタイムには4種類の定食を用意。豚ロースソテー メンタイチーズ1100円や、サーモンのソテー タルタルソース1100円も気になるが、今回は自家製ハンバーグ おろしポン酢1130円に決めた。
注文を受けると、さっそく調理に取り掛かる髙木さん。あらかじめ成形しておいたハンバーグをフライパンで加熱し、両面に焼き色をつけていく。ハンバーグのサイズは約160gで、やや大きめ。ひき肉には牛肉と豚肉を合わせている。
ハンバーグに焼き色がついたら、フライパンごとオーブンにIN。数分おきにハンバーグをひっくり返しながら、約10分かけて丁寧に焼き上げるのが、髙木さんのこだわりだ。
「表面を焼いてからオーブンで中まで火を入れると、しっかりした食感がありつつ、ふっくら仕上がるんです。ランチにしては時間がかかっちゃうんですけど、こういう焼き方をしたほうが自分としてはおいしくできるかなと思って」。
ハンバーグの調理と並行して、おろしポン酢や付け合わせのポテトサラダをお皿に盛り付ける髙木さん。ポテトサラダにはコーンや枝豆などが入っていて、プレートに彩りを添えている。また、すべての定食メニューにサラダ、ライス、ドリンクが付くため、それらをスタッフのプレヤンカさんと手分けして準備していく。
最後に、焼き上がったハンバーグをプレートに盛り付けて完成。提供までに15分ほどかかるのはたしかだが、先にセットのドリンクやサラダが出るので、待ち時間は気にならない。カウンター席に配膳してもらって、いざ実食。
表面にこんがりと焼き色がついたハンバーグをカットしてみると、みっちりと締まった肉質と内側のふんわり感が手に伝わってきた。と同時に、肉汁がじわっとあふれ出す。まずはおろしポン酢をかけずに口へ運ぶと、肉の旨味で口の中が満たされていく。素材がシンプルでスパイス類も控えめなのは、肉の味わいをより引き立てるためだ。
続けておろしポン酢と大葉を乗せて食べると、ハンバーグにやさしい酸味が加わって、さっぱりとした和風のテイストに。これがライスとの相性抜群で、ハンバーグ1口に対して白米を2~3口ほおばらずにいられない。
「お昼はご飯に合うということで、おろしポン酢がいいかな、と。夜は赤ワインソースやトマトソースのハンバーグを出しています」と髙木さん。一度味わえば、ディナーのハンバーグも食べたくなること間違いなし!
サラダが別皿にたっぷり盛られているのは、ランチメニューのうれしいところ。なかなか食べ応えがあるため、ライスを少なめにしてもらう人もいるそう。一方で、ライス大盛りもできる(料金はそのまま)。
コンセプトは、出したい料理を自由につくれるお店
料理の道に入って約35年の髙木さんが『KITCHEN ラフト』をオープンしたのは2012年。以来、髙木さんは常連客のリクエストも反映しつつ、自身の納得できる料理を追求している。
「肉料理がメインのお店で14年、そのあともイタリアンとかフレンチとか、いろいろと修業してきました。やっぱりいつかは自分の店をやりたいという思いが強くて、やるなら地元の川崎で、と決めていたんです」。
イタリアンでもフレンチでもなく、キッチンと命名した背景には「いままでやってきたことを含めて、自分がお客さんに出したい料理を自由につくりたい」という髙木さんの想いがある。では、ラフトにはどんな意味が込められているのか。
「ラフトって筏(いかだ)という意味なんですけども、冒険する人の乗り物みたいでいいなと思って。でも『筏』だと、和食とか居酒屋っぽくなっちゃうから、英語の『ラフト』にしました。カッコいいラフティングではなく、木を紐でつなげた筏のイメージです」。
その言葉を聞いて、出入り口に掲げられている木の看板を思い出した。言われてみれば、たしかに筏のような看板だし、そのデザインから髙木さんの遊び心も垣間見える。きっと髙木さん自身、楽しみながらお店を続けているのだろう。
「お昼は川崎に勤めているお客さんが多いようで、毎週来てくれる人もいます。その人たちのお昼ご飯をつくらせてもらっているっていう感覚があって、ランチをやっていると楽しいですね」と照れ臭そうに笑う髙木さん。また今度、お昼ご飯をつくってください!
構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=上原純