「男はつらいよ」全鉄道シーン

映画「男はつらいよ」シリーズでは、どこにどんな鉄道が登場しているのか。まずはズラーッと一気見せ~!(鉄道車両が映し出されている場面に限定。駅のみ、線路のみのものは除外。また数ある京成柴又駅シーンは別格のため除外)

■ SL
計11シーン(2作/D51関西本線、3作/D51中央西線、4作/D60久大線、5作/D51函館本線、6作/C57長崎本線支線、7作/C11只見線、8作/D51伯備線、10作/D51中央本線、11作/ C58石北本線、13作/D51山陰本線、22作/C11大井川鐵道)
〔備考〕
C11、C57、C58、D51、D60の5形式が確認できる。「男はつらいよ」シリーズでは、「SL=働き者・労働の象徴」として描かれるこどが多い。SLの地道さ力強さと寅さんの気楽さの対比が絶妙です。

■新幹線
計5シーン(35作/200系、42作/0系、43作/0系、44作/0系ほか、47作/300系)
〔備考〕
登場するのは35作(東北新幹線)以外はすべて東海道新幹線。ほぼ満男&和泉ちゃん専用車両ですね。寅さんは「スピードが速すぎる」「窓が開かない」との理由で嫌いらしいが、45作では博の苦労もあって、岡山行き「ひかり」に乗った模様。

■在来線
計36シーン(7作/五能線、9作/尾小屋鉄道 京福電鉄永平寺線、13作/京成本線、14作/京成本線、15作/函館本線、18作/上田交通別所線、 19作/予讃線、21作/宮原線、26作/江差線、28作/久大線、29作/常磐線 江ノ電 横須賀線、30作/久大線、31作/胆振線 新潟交通電車線、32作/吉備線、33作/標津線、34作/筑波鉄道筑波線 鹿児島交通枕崎線、35作/上田交通別所線、36作/只見線、37作/山陰本線、38作/釧網本線、39作/阪和線 近鉄吉野線、40作/小海線、41作/栗原電鉄、42作/水郡線、44作/中央快速線 中央西線 山陰本線、46作/琴平電鉄琴平線、47作/江ノ電、48作/因美線 姫新線)
〔備考〕
国鉄幹線・地方路線、私鉄各線含む。SL・特急シーンは別掲。

■特急/寝台特急
計4シーン(21作/寝台特急「富士」(?)、32作/伯備線381系「やくも」、43作/寝台特急「はやぶさ」、45作/高山本線キハ85系「ワイドビューひだ」)
〔備考〕キハ85系は2023年に引退済み。381系もまもなく姿を消す模様。寝台特急「はやぶさ」「富士」は2009年に廃止。時代だね……。

■路面電車
計3シーン(34作/鹿児島市電、40作/都電、41作/ウィーン市電)
〔備考〕
最近流行りのLRTはさすがに登場しないね~。てか、寅さんに似合わないか?

■ケーブルカー
計2シーン(27作/近鉄生駒ケーブル、46作/八栗ケーブル)
〔備考〕
寅さんは生駒ケーブルには乗車しているが、八栗ケーブルは電話をかける寅さんの背景の一部。

上田電鉄別所線と第18作『寅次郎 純情詩集』

以上全61シーン、「男はつらいよ」を彩った鉄道シーン数々あれど、「首都圏から気軽に行ける」という条件下で、最も寅鉄旅情を誘うものは?と問われたら、筆者は「この路線!」と即答する。第18作『寅次郎 純情詩集』、第35作『寅次郎恋愛塾』の2作にわたって登場した上田交通(現 上田電鉄)別所線だ。

北陸新幹線の停車駅上田駅を起点に信州最古の温泉郷・別所温泉駅までの全15駅全長11.6 kmのローカル鉄道。第35作での登場は冒頭の1シーンのみだが、第18作では作中3つのパートにわたりトータル2分01秒もの間、同線の関連シーンがある。これほど鉄道シーンに時間を割いているケースは本作以外は第5作のSLシーンくらいか。

第18作『男はつらいよ 寅次郎純情詩集』--満男の担任の柳生雅子先生(演:檀ふみ)の母親・綾(演:京マチ子)に惚れた寅さん。病み上がりの綾さんを元気づけようと、あれこれ奔走するが、実は余命は幾何(いくばく)もなく……。

死生観がテーマのもの悲しいストーリーが印象的な同作。鉄道シーンの詳細はさておき、公開から47年、令和の時代の上田電鉄別所線を目指して蒸し暑い都会を発ったのだった。

上田駅から中塩田駅まで

東京から新幹線で1時間半あまり。上田電鉄別所線の起点・上田駅に降り立つ。この日は台風が接近中ということもあって、途中、軽井沢まで大雨。が、上田はそれまでの車窓をあざ笑うかのような快晴だ。

筆者の日頃の行いが良いせいだろうか。前日の晩だって飲み屋でセ○ハラ的言動をして女性客にバッグでしばかれてないし……。まあ、それはいい。

上田駅の上田電鉄ホームに移動すると、待っていたのは6000系「さなだどりーむ号」。元は東急の1000系で、甲冑(かっちゅう)をイメージした派手なメイクが印象的だ。

「過去は忘れてこの地でもう一花咲かせてやるんだから」

と言わんばかりの気負いがかえって痛々しい。

ほどなく出発。電車に揺られること20分、他の多くの乗客同様、つい直接、別所温泉駅まで乗って行きそうになるが、まずは途中の中塩田駅で下車する。

人影がまったくないこの寂しい駅で、旅行者風の中年男が何をしようというのか。運転手も他の乗客もいぶかしげに思ったことだろう。しかし寅さんファン的には深いワケがある。この駅のすぐ脇の床屋で、髭を当たってもらっていた寅さんが冒頭の夢シーンから目を覚ますのだ。

映像では、「お兄ちゃーん」と叫ぶ少女の背後に、中塩田駅に停車するモハ5370形とおぼしき車両と駅舎が確認できる。

1921(大正10)年築のレトロな駅舎はどっこい健在だ。どこか大正浪漫が感じられ、いつまでもたたずんで物思いにふけっていたくなる。

一方、床屋は痕跡ゼロ。商店があったのが不思議なくらい、周囲は閑散としている。

「床屋が健在なら、寅さんと同じように髭を剃ってもらおう」

と、無精髭のまま旅に出たが、結局ムダに……。まあ人生こんなもんよ。

上田電鉄上田駅で出発を待つ6000系電車「さなだどりーむ号」。上田市は真田氏発祥の地。車体のデザインも
上田電鉄上田駅で出発を待つ6000系電車「さなだどりーむ号」。上田市は真田氏発祥の地。車体のデザインも"真田の赤備え”として知られる甲冑がモチーフ。
上田電鉄中塩田駅。駅舎は1921(大正10)年築。庇(ひさし)に前身の上田丸子電鉄の社紋が残る。第18作冒頭で寅さんが夢から覚めた床屋はこの近くに所在したが、痕跡なし。
上田電鉄中塩田駅。駅舎は1921(大正10)年築。庇(ひさし)に前身の上田丸子電鉄の社紋が残る。第18作冒頭で寅さんが夢から覚めた床屋はこの近くに所在したが、痕跡なし。

下之郷駅から寄り道~塩田平を望む~

ひととおり中塩田駅界わいを堪能したところで、いざ終点の別所温泉……とはいかないのが寅さんファンの旅の性(さが)。お次は2カ所目の上田電鉄登場シーンを、沿線の様子を含めできるだけ忠実にたどるのだ。我ながら酔狂だね~。

そのシーンは物語前半、寅さんが「とらや」の面々とケンカして柴又を飛び出した旅先の場面。冒頭の中塩田駅前の床屋シーンから一週間も経たずしての再訪ということになろうか。寅さん、よほど上田電鉄沿線が気に入ったか?

ここで寅さんは、地元の神社(塩野入神社)の秋祭りで商売がてら、晩秋の塩田平を気ままに旅する。しかし、映画通りに寅さんスポットを気軽に巡るには、現実的には大人の事情と無理&矛盾が生じるんだな~。そこで仕方なく、前山寺(ぜんさんじ)と塩田平の展望のみを求め歩くことに。

とは言っても当地もまたどの駅からも遠い。この残暑厳しき折、山道含めて5~6kmはあるぞ。不養生な日々を送る中年にとっちゃ自殺行為だ~。

ひとり途方にくれかけていたところ、1日数本バスの便があるという情報を入手!折よくやって来た上田行きの電車で中塩田駅から1駅戻り、バスの発着する下之郷駅に向かった。

下之郷駅でバスを待つこと小一時間、小さな路線バスに揺られること20分あまりで前山寺着。

この寺の山門に続く石段で寅さんはあんパンをかじっていた。その表情、何やら寂しそうなのよ……。故郷を思ってか、毎度のケンカの反省か……。

ちなみに筆者もここで同じように持参したあんパンを食べた。

「お兄さんも好きねえ」

シーンを知る寺務所のおばちゃんにあきれ顔で笑われた。

山門付近からは木々に遮られるが、周辺を少し歩けば、映画にも映し出された塩田平の眺望が開ける。

ちなみに筆者は信州辺りの○○平と称される風土の展望が大好きだ。大自然と人の営みが織り成すダイナミックなジオラマ、雄大な山脈と田畑と空と曇のコントラスト……。心も身体も解き放たれるような感覚がたまらない。

長野県歌『信濃の国』では、

松本 伊奈 佐久 善光寺

4つの平は肥沃の地

と歌われ、皮肉にも塩田平は選外となってるが、寅さんも観たであろう前山寺周辺からの塩田平も間違いなくそれらに比肩するぞ。

今こそ長野県民は、塩田平を加えて「5つの平」と歌詞を改正すべく立ち上がれ~!

下之郷駅から塩田平の各スポットを経由して別所温泉まで結ぶ路線バス「信州上田レイライン線」。電車からのり継ぐのに1時間近く待ったが、それもまた寅さんの旅らしくていい。
下之郷駅から塩田平の各スポットを経由して別所温泉まで結ぶ路線バス「信州上田レイライン線」。電車からのり継ぐのに1時間近く待ったが、それもまた寅さんの旅らしくていい。
前山寺の三重塔(重要文化財) 。前山寺は真言宗智山派の寺院。812年(弘仁年間)に空海上人によって開創。1331年(元弘年間)に現地で開山したと伝えられる。
前山寺の三重塔(重要文化財) 。前山寺は真言宗智山派の寺院。812年(弘仁年間)に空海上人によって開創。1331年(元弘年間)に現地で開山したと伝えられる。
寅さんに倣い前山寺 山門前であんパンを食す。自撮りにつきシーン再現度は……う~ん、10%くらいか。
寅さんに倣い前山寺 山門前であんパンを食す。自撮りにつきシーン再現度は……う~ん、10%くらいか。
塩田平の眺望。長野県歌において「4つの平」には入らないという屈辱を味わった塩田平だが、2020年に文化庁により同地ほか上田電鉄沿線が日本遺産に認定された。よかったなあ、おい。
塩田平の眺望。長野県歌において「4つの平」には入らないという屈辱を味わった塩田平だが、2020年に文化庁により同地ほか上田電鉄沿線が日本遺産に認定された。よかったなあ、おい。

下之郷駅に戻って舞田駅まで

塩田平ぶらぶら歩きを終えた寅さんは、どこの駅から乗ったのかは定かじゃないが上田電鉄で別所温泉に向かう。筆者も寅さんの旅路をたどるべく前山寺からバスで下之郷駅に引き返し、別所温泉駅行きの電車を待つ。

しばらくしてやって来たのは1000系電車。元東急1000系で赤帯塗装も東急当時のままだ。

「アタシ、元は東急だったんだから。ふふん」

とでも言いたげな過去のプライドがやや鼻につく。

第18作では、別所温泉へと向かう車中ウトウト居眠りから覚めた寅さんがお母さんに負われた赤ん坊を笑顔であやすシーンが見られる。

ストーリーとはさほど関係のないありふれた光景が、ローカル線の日常のなかで繰り広げられる何気ないひとコマ……。そこに当たり前だけど何よりも尊い幸せを感じてしまう。オヤジもセンチにさせる、あぁ秋なのね……。

電車は途中、舞田駅を過ぎる。塩田平の広大な風景のなかにポツンと待合室が立つだけの素朴な駅。ここが第35作で寅さんが冒頭の夢シーンから覚める舞台だ。

ほぼ恒例の覚醒シーンだが、そこに上田電鉄が登場するのは先述の第18作に続いて2回目。寅さん、ひいては山田組の上田電鉄愛も相当なものだぞ、こりゃ。

第18作の覚醒シーンはモハ5370形@中塩田駅だったが、第35作のスクリーンに映るのはクハ250形と思われる正面2枚窓が特徴の同社オリジナル車両。どちらも相当な古参ながら、大手私鉄の通勤車両には出せない味がある。

「若い娘には無い魅力があるでしょ?」

う~ん、さしずめ映画人を虜にするほどの美熟女だな。

別所温泉駅と丸窓電車

そして電車はまもなく別所温泉駅~。第18作でこの駅の周辺は、寅さんとさくら、それぞれの来訪時に映し出される。

到着間際の進行方向左手、車窓にアイボリー&濃紺のツートンカラーの古風な車両が飛び込んできた。これこそ上田電鉄名物の丸窓電車・モハ5250形(モハ5252形)、寅さんが無銭飲食で地元警察に捕まった際、身柄を引き取りに行くさくらさんが乗ってきた車両だ。

このレジェンド車両は別所温泉駅構内で保存されているもの。これ以外にも、元東急7200系に丸窓電車の復刻デザインを施した車両「まるまどりーむ号」も走る。どちらも鉄道ファンの気持ちに応えたナイスな施策だ。見上げたもんだよ、上田電鉄!

留置保存されている丸窓電車の眼前を1日何十本もの元東急車両が行き交う。

「嫁いできた嫁たちは、ウチの家風に適わなくて困ったもんだわっ」

とか、姑気分で現役車両をイビって……もとい、温かく見守っているのだろうか。ともあれ、その存在感は「渡鬼」の赤木春恵並みなのだ。

さて、鉄道シーンはおよそここまでだが、ここはせっかくの別所温泉、

  • 旅芸人の一座と再会した温泉街
  • 一座が興行を打った北向観音
  • 寅さんが拘束された警察署ロケ地跡

などなど、それ以外の寅さんスポットも訪ねて、寅鉄の旅を締めくくりたい。もちろんひとっ風呂浴びて……。

別所温泉駅構内で静態保存されているモハ5250形(モハ5252形)、通称・丸窓電車。もとは、1928(昭和3)年に上田温泉電軌(上田電鉄の前身)が日本車輌製造に発注し製造されたデナ200形。特徴となっている楕円形の戸袋窓は新造当時の流行りだとか。1984(昭和59)年、第1回エバーグリーン賞受賞。
別所温泉駅構内で静態保存されているモハ5250形(モハ5252形)、通称・丸窓電車。もとは、1928(昭和3)年に上田温泉電軌(上田電鉄の前身)が日本車輌製造に発注し製造されたデナ200形。特徴となっている楕円形の戸袋窓は新造当時の流行りだとか。1984(昭和59)年、第1回エバーグリーン賞受賞。
上田電鉄の終点・別所温泉駅。1921(大正10)年、上田温泉電軌・川西線別所駅として開業。1930年(昭和5)年、別所温泉駅に改称。1950(昭和25)年、駅舎を改築、現在の外観となる。
上田電鉄の終点・別所温泉駅。1921(大正10)年、上田温泉電軌・川西線別所駅として開業。1930年(昭和5)年、別所温泉駅に改称。1950(昭和25)年、駅舎を改築、現在の外観となる。
7200系電車(元東急7200系)。2005年にモハ5250形「丸窓電車」を模して戸袋窓を丸くし、塗装も旧来のものにした「まるまどりーむ号」にリデザイン。  「古風なオンナを演じれば、おじさまたちはイチコロよ」 とか、そんなあざとい考えはないハズ……。
7200系電車(元東急7200系)。2005年にモハ5250形「丸窓電車」を模して戸袋窓を丸くし、塗装も旧来のものにした「まるまどりーむ号」にリデザイン。 「古風なオンナを演じれば、おじさまたちはイチコロよ」 とか、そんなあざとい考えはないハズ……。
なじみの板東鶴八郎一座の面々と再会し、旧交を温めたのは別所温泉のメイン通りから北向観音の参道に降りる階段の辺り。付近には寅さん逗留の宿も。北向観音の境内では一座が興行を打つ。
なじみの板東鶴八郎一座の面々と再会し、旧交を温めたのは別所温泉のメイン通りから北向観音の参道に降りる階段の辺り。付近には寅さん逗留の宿も。北向観音の境内では一座が興行を打つ。
寅さんが無銭飲食で勾留された別所警察のシーンは、温泉街にほど近い旧・別所村役場で撮影された。現在は別所温泉センターとなっており、別所温泉の歴史に関する資料室も併設されている。
寅さんが無銭飲食で勾留された別所警察のシーンは、温泉街にほど近い旧・別所村役場で撮影された。現在は別所温泉センターとなっており、別所温泉の歴史に関する資料室も併設されている。

語り継ぎたい映画と乗り継ぎたいローカル鉄道

公開から40数年を経て、また目まぐるしく変化する現代社会にあって、寅さんの鉄道旅が今でもほぼほぼリアルに味わえるなんて、上田電鉄はなんと貴重な鉄道だろうか。寅さんファンとしても鉄道ファンとしても、感動を禁じ得ない。

ただ感動ばかりもしていられないようだ。「男はつらいよ」シリーズに登場した在来線(36シーン 33路線。SL・特急・京成金町線シーンを除く)のうち現在までに、

  • 長崎本線支線/第6作 1987年廃線
  • 尾小屋鉄道/第9作 1977年廃線
  • 京福電鉄 永平寺線/第9作 2002年廃線
  • 宮原線/第21作 1984年廃線
  • 江差線/第26作 2014年廃線
  • 胆振線/第31作 1986年廃線
  • 新潟交通 電車線/第31作 1999年廃線
  • 標津線/第33作 1989年廃線
  • 筑波鉄道 筑波線/第34作 1987年廃線
  • 鹿児島交通 枕崎線/第34作 1984年廃線
  • 栗原電鉄(くりはら田園鉄道)/第41作 2007年廃線

と、11路線が廃止されている。ざっくり1/3だ。失われたものは大きい。大き過ぎる。

当の上田電鉄も2019年の台風で千曲川の橋梁が崩壊し、廃線の危機に瀕した。また上田電鉄同様、弘南鉄道、米坂線、小湊鉄道、大井川鐵道なども自然災害が引き金となり存続が危ぶまれている。

言うまでもなく鉄道は人間の営みに欠かせない大事なインフラ。そして「男はつらいよ」シリーズもまた、日本人のココロの拠りどころ、いわば文化や価値観のインフラだ。四の五の言わず、乗り継いで、語り継いでいかなきゃ。

採算に合わない?

時代に合わない?

刺激がない?

まったくアタマのいい人たちは発想が貧しいねえ。

2019年10月の台風によって崩落した千曲川橋梁の復旧への支援に対するお礼の言葉。このとき廃線も危惧されたが、上田電鉄や上田市に寄せられた計1億円近くの寄付金や、国、県、市から財政上の支援の甲斐あって、2021年3月28日に運行再開。中塩田駅にて。
2019年10月の台風によって崩落した千曲川橋梁の復旧への支援に対するお礼の言葉。このとき廃線も危惧されたが、上田電鉄や上田市に寄せられた計1億円近くの寄付金や、国、県、市から財政上の支援の甲斐あって、2021年3月28日に運行再開。中塩田駅にて。

取材・文=瀬戸信保 イラスト=オギリマサホ

年がら年中、ほぼ金欠状態と言える我らが寅さん。そんな寅さんに妹・さくらはときにはそっと、ときには呆れつつ、そしてときには怒りをにじませながら、援助の手を差し伸べる。では、さくらはシリーズを通していったい総額でどれくらいの援助をし、その金はどれぐらい還ってきたのだろうか? 他人の財布のなかを探るなんざあ、はなはだ野暮で下世話な所業だが、さくらと寅さんの金銭関係を覗いてみたい。イラスト=オギリマサホ
国民的映画『男はつらいよ』シリーズ。その魅力は言うまでもなく主人公・車寅次郎の巻き起こすエピソードだけど、それがすべてと思っちゃあいけねえよ。言い替えれば主人公以外の設定に、同シリーズの隠れた魅力があるってもんだ。その1ピースが 「とらや」裏手に構える町工場「朝日印刷所」。今回は、そんな『男はつらいよ』シリーズの名脇役、朝日印刷所にスポットを当てその軌跡を辿ってみたい。イラスト=オギリマサホ
およそ人は何か社会の役に立っている。実社会でも、フィクションの世界……たとえば「男はつらいよ」シリーズのなかでも。が、この人は果たしてそうだろうか? そう、帝釈天の寺男・源公(演:佐藤蛾次郎)だ。正直言って、源公の存在価値をまともに考えたことがない。いや、それ以前に存在価値があるのだろうか、コイツには!誰か教えてくれ~い。と言っても誰もやりそうにないので、当稿で探求してみたい。イラスト=オギリマサホ
のっけから私事で恐縮だが、筆者と寅さんの甥っ子・満男(吉岡秀隆)は同世代である。そのせいか、つい満男を物差しに『男はつらいよ』の時代背景を見てしまう傾向がある。「満男が○歳くらいだから、○年頃の作品だな~」とか。「このくらいの歳の時はこんなことしてたな~」とか。当然、彼の思春期も恋愛もほぼ同時進行だ。それだけに満男の自称“ぶざまな恋愛”は他人事には思えない。他人の恋路にあれこれ口を挟むなんざ野暮なヤツだとお思いでしょうが、甚だお節介ながら満男の恋愛を斬らせていただきます。浅野内匠頭じゃないけど、もうバッサリと!イラスト=オギリマサホ 
「お前はそれほど馬鹿か?」「相変わらず馬鹿か?」「ほんとに馬鹿だねえ」誰が誰に対して言っているかはさておき、『男はつらいよ』シリーズには、たくさんの馬鹿にまつわるセリフが飛び交う。なかでもおいちゃん(「とらや」6代目店主・車竜造)が寅さんと絡んだときの馬鹿っぷりは、ほとんど名人芸だ。そこで今回は歴代おいちゃん3名(森川信、松村達雄、下條正巳)の馬鹿っぷりを検証しながら、現代社会と馬鹿との関係を真面目に考えてみる。