「金銭援助」を3つに大別

シリーズ通して頻繁に登場するさくらから寅さんへの金銭援助シーンだが、ひと口に援助(負担とも)といっても、性質はいろいろあって、

・現金供与
・立て替え
・旅費負担

の3パターンに大別できる。

旅立ちと別れの神スポット・京成柴又駅。

「現金供与」には名シーン満載

というわけで、まずは「現金供与」から見ていこう。さくらから寅さんへの現金供与が確認できたシーンは下記の通り。

《さくらの現金供与全シーン》
第8作 喫茶店で財布に補充→2000円
第9作 お賽銭せがまれる →100円
第11作 上野駅食堂で財布に補充→7000円(推定)
第16作 そっと財布に補充(順子に小遣いの後)→4000円(推定)
第29作 デート費用を満男に託す → 5000円
第39作 そっと財布に補充(満男に小遣いの際)→3000円(推定)
第40作 公衆電話の小銭を借りる→30円(推定)
第41作 旅先への手紙に同封 →10000円(推定)
第45作 金一封を満男に託す→10000円(推定)

さくらが寅さんにマフラーをかけてあげるシーンが印象的(第6作)。

算出の基準として、紙幣の額面が判明していない場合は以下のように推定した。

・金一封の場合:1万円札
・財布補充の場合:1万円札を数枚ってのは博の給料を考えると厳しい。5000円札は普通何枚も手持ちは無いだろうから、あっても1枚。500円札じゃあ少なすぎ。したがって1000円札中心。

とまあ総合的に鑑みた結果、総額でざっと4万1130円のキャッシュが、さくらから寅さんに渡っている。消費者物価指数を乗じて現在の貨幣価値に換算しても5万4130円ほどか。(※)

これを多いと感じるか少ないと感じるかは人それぞれだが、筆者は「意外と少ないなあ」と思う。というのもこれら現金供与シーンは、金額以上に名場面として強く印象に残っているからだろう。

第43作では満男からセーターをもらう。「故郷ってやつは…故郷ってやつはよ…」(第6作) という寅さんの切なる叫びが聞こえてきそう。

そのうち最も涙を誘うのが上野駅構内の食堂での1コマだ(第11作)。リリーとのすれ違いの後、傷心で旅に出る寅さんの財布を奪い、泣きながら紙幣を何枚か入れるさくら。「お金、もう少し持ってくればよかったね」のつぶやききが観る者を切なくさせる。

こっそり財布に補充するパターンも見逃せない(第8作、16作、39作)。これはもう、さくらのお家芸と言っていい。「ちょっと増えてるんじゃないか」(第39作)などといった寅さんののんきさと相まって、ほんのりと胸を打つ。

ともあれ、さくら寅さんの現金供与シーンは、兄妹の名シーンの宝庫でもあるのだ。

寅さん愛用、黒皮(もどき?)の長財布。ここにさくらがそっと紙幣を…(『葛飾柴又寅さん記念館』にて)

代金の「立て替え」は犯罪の尻ぬぐいも!

現金供与の総額は意外に少なく思えても、諸々の代金の立て替えや、寅さんのために使った旅費の総額はちょっとシャレにならない。

以下、立て替えの一覧。

《さくらの立て替え全シーン》
第2作 登との飲食代(焼き肉ほか)→6500円(推定)
第18作 別所温泉宴会の支払い+宿代(1泊)→2万4000円(推定)
第21作 阿蘇の宿代(6泊?)→2万2500円(推定)
第27作 大阪の宿代(7泊分?)→1万5750円(推定)
第31作 万引きしたヘッドフォンステレオ代(ウォークマンではなく東芝ウォーキーか?)→3万3000円(推定)
第42作 満男との飲食代(ドジョウ鍋ほか)→15000円(推定)

現金ベースで11万6750円、現在の価値に換算すると約16万7000円にも上る。

額も然ることながら、コトの経緯が悪過ぎる。無銭飲食2回(第2作、18作)に、万引き1回(第31作)ともう立派な犯罪だ。さくらにしてみりゃ「ヤクザな兄貴」どころの話じゃないよ。

お土産物の「寅さん財布」(1500円)。作中の物とは違いますがご愛嬌。ここにそっとお金を入れてくれる人、待ってます。(帝釈天参道『そ乃田民芸店』にて)

膨大な「旅費負担」。兄妹とはいえここまでさせるか?

立て替えの総額よりもさらに上をゆくのは旅費の負担額だ。

《さくら(一部、博)の旅費負担全シーン》
第5作 旅費を借金→5000円
第11作 網走まで迎えに行く→5万1000円
第13作 津和野まで迎えに行く→3万円
第18作 別所温泉の警察まで身柄引き取り→4500円
第21作 阿蘇まで迎えに行く→6万円
第25作 沖縄までの飛行機代(博が工面)→3万4600円

現金ベースで総額18万5100円、現在の価値に換算すると約26万円。うーん、けっこうな額ですね。

まあ旅費の負担と言っても、移動の理由が恩人の危篤(第5作)とかリリーの急病(第25作)とかなら仕方なかろう。だが、笑えないのは、寅さんの宿代を支払いに行く際の旅費だ。なにしろさくら自身の往復の旅費と寅さんの片道の旅費、そして宿代などの立て替えが加わるのだから痛い出費となる。

別所温泉(第18作)は近場だからまだいいが(宿代等+旅費=2万8500円)、阿蘇(第21作)ともなると合計8万2500円もかかる。これはおよそ当時の博の月収の3分の1ほどだろうか。フツーとても捻出できず、タコ社長やおいちゃんおばちゃんに工面してもらわなけりゃ不可能な額だ。

そこまで兄妹、親類縁者に迷惑かけるか?書いててだんだん腹立ってきたぞ。寅さん、ちゃんと反省しろよ!

なお第46作の香川県琴島までの旅費(博の負担?)は諏訪家都合の旅のため、ここでは除外した。

「とらや」のレジ。さくらさん、さすがにレジの金を寅さんの援助に流用してませんよね?(『葛飾柴又寅さん記念館』にて)

総決算! 援助総額34万2980円、対して返済額3万5200円

援助の総額は34万2980円(現在の価値に換算すると48万1130円)。

さくら諏訪家の経済力を鑑みると、なんとも気の毒な額であり、寅さんの罪深さが伝わってくる。

当の寅さんはというと、

「また借りができちゃった。いつになったら返せるか」(第45作)

と自覚はしている様子。実際、寅さんも以下のように還元している。

《さくら(諏訪家)の援助に対する寅さんの返済(還元)全シーン》
第2作 満男へ小遣い(500円と間違える)→5000円
第14作 さくらのための積立て預金 →7700円(毎月300円)
第26作 一軒家購入祝い→2万円(源公から借りるも未返済?)
第31作 満男に小遣い(運動会激励?)→500円
第39作 満男に小遣い「参考書でも買いな」→2000円

しめて3万5200円なり。

さすがに心はこもっているけれど、奮闘努力の甲斐もなく、さくらの援助とは額は釣り合わない。せめて積立て預金(第14作)が晩年まで継続していることを祈りたい。

とはいえ、タコ社長の銀行融資じゃないんだから、無理に返す必要もないでしょう。

どんな援助もすべては寅さんに対するさくらの愛。そう、愛は見返りを求めないものだって言うし。

諏訪家の一戸建て購入に際して寅さんが贈ったご祝儀袋(第26作)。中身は源公から借りた2万円。きっと未返済だろうな。(『葛飾柴又寅さん記念館』にて)

※貨幣価値については、ざっくり以下のように換算。あくまでも参考値です。
昭和49年以前:現代の価格×1/3
昭和50~55年頃:現代の価格×1/2
昭和56~60年頃:現代の価格×3/4

取材・文・写真=瀬戸信保

 

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