前編のおさらい

『釣りバカ日誌』シリーズの隠れた名シーン!と、一部のファンの間で呼び声の高い、太田丸(ほかハチ所有の小型船舶)でのハマちゃんの通勤シーン。毎日、満員電車で通勤している大多数のサラリーマンの眼には羨ましく映ることでしょう。では、それって、どこをどう通って、どんな感じなの?そんな積年の思いを叶えたくて大海原(及び河川)へ出港しました~。

まずは前編のおさらい。ハマちゃんの全通勤航路は以下の通り。

 

《航路1》「釣りバカ1」より

北品川~鮫洲橋~勝島運河道路橋・勝島運河橋梁~勝どき橋~日本橋

《航路2》「釣りバカ9」より

北品川~天王洲ふれあい橋~五色橋~御楯橋(高浜運河)~?

《航路3》「釣りバカ10」より

羽田(多摩川河口付近)~芝浦西運河~竹芝運河~新浜崎橋~湊橋(日本橋川)~?

《航路4》「釣りバカ11」より

レインボーブリッジ付近~永代橋

《航路5》「釣りバカ14」より

金沢八景~レインボーブリッジ~お台場~豊海橋(日本橋川)~湊橋(日本橋川)~日本橋付近~?

《航路6》「釣りバカ17」より

金沢八景~?

 

このうち《航路1》を軸に、関連スポットを寄り道するような「さんたつ」オリジナル航路を歩く道中記。後編はいかになりますやら……。

竹芝運河~新浜崎橋~竹芝桟橋

芝浦運河は、やがて竹芝運河に突き当たる。この運河に「釣りバカ」ファンとして見逃せない橋がっ。その名も浜崎橋・新浜崎橋だ。

まさか“ハマちゃんブリッジ”があるなんて!そのインパクトもさることながら、運河(上流は古川)を遡れば鈴木建設の所在地のひとつ新橋にも遠くないし、《航路3》でもルートとなっている(ただし進入方向が上流→下流だったり、終点が日本橋だったりと不自然な点も多いが……)。ハチが接岸しハマちゃんが下船した気配がプンプンにおうではないか。

さて新浜崎橋を海側に越えて、最近、発展著しい竹芝桟橋をプラプラして北側の汐留川水門付近にまわると、水上バスの船だまりが現れた。ほう、浅草在住の筆者としては馴染み深い水上バスだが、その寝床はこんなところにあったのか。

対岸は浜離宮。その向こうは汐留・新橋だ。映像にはないが、ここもハマちゃん下船の可能性を色濃く残す。

この先の隅田川沿いに水際を歩ける道はない。もうこのあたりで止めておこうか……。いや、諦めるものかっ。何としても日本橋まで辿るのだ!そう決意した筆者は踵(きびす)を返して日の出桟橋から水上バスに乗船した。

竹芝運河に架かる新浜崎橋。すぐ奥に並行して浜崎橋も。もちろん、どちらも読みは濁りません!さすがハマちゃんブリッジ!
竹芝運河に架かる新浜崎橋。すぐ奥に並行して浜崎橋も。もちろん、どちらも読みは濁りません!さすがハマちゃんブリッジ!
竹芝運河。古川の延長部で全長は約200m。古川下流部には屋形船などが多数係留。ちなみに古川の上流は渋谷川(宮益橋~天現寺橋)。
竹芝運河。古川の延長部で全長は約200m。古川下流部には屋形船などが多数係留。ちなみに古川の上流は渋谷川(宮益橋~天現寺橋)。
竹芝桟橋の北端、汐留川河口部に広がる水上バスの船だまり。ここで下船すれば(下船できれば)鈴木建設(新橋版)まで徒歩圏内だ。
竹芝桟橋の北端、汐留川河口部に広がる水上バスの船だまり。ここで下船すれば(下船できれば)鈴木建設(新橋版)まで徒歩圏内だ。

勝どき橋~永代橋~豊海橋

乗った水上バスは筆者のお気に入り、レトロな「竜馬号」。隅田川を遡(さかのぼ)る船上から、映画にも登場する勝どき橋、鈴木建設本社(中央区新川版)、永代橋を確認する。

そしてしばらく船旅を楽しみ浅草到着。上陸後、銀座線、東西線を乗り継ぎ、茅場町駅からあらためて永代橋に向かう。橋のすぐ北で合流する日本橋川を歩くのだ。

永代橋西詰の近くに、《航路5》でも通った豊海橋がある。いつまでも佇んでいたくなるこの小さなトラス橋が日本橋川の河口と言っていい。

あいにく日本橋川も両岸は歩けない。仕方なく湊橋、茅場橋、鎧橋、江戸橋と、川に架かる橋をジグザグ渡りながら、日本橋を目指す。

運河散歩も終わり、竹芝あたりからは隅田川散歩に移行。レインボーブリッジから河口部を望む。
運河散歩も終わり、竹芝あたりからは隅田川散歩に移行。レインボーブリッジから河口部を望む。
水上バスでハマちゃん通過スポットを確認。勝どき橋(「釣りバカ1」)、中央区新川の鈴木建設ロケ地(「釣りバカ11」)、永代橋(「釣りバカ4」)。
水上バスでハマちゃん通過スポットを確認。勝どき橋(「釣りバカ1」)、中央区新川の鈴木建設ロケ地(「釣りバカ11」)、永代橋(「釣りバカ4」)。
日本橋川の第一橋梁・豊海(とよみ)橋。昭和2年(1927)に震災復興事業として架設。梯子を横にしたような構造はフィーレンデール橋と呼ばれる。
日本橋川の第一橋梁・豊海(とよみ)橋。昭和2年(1927)に震災復興事業として架設。梯子を横にしたような構造はフィーレンデール橋と呼ばれる。

日本橋川を江戸橋まで。そして終点・日本橋!

よく知られたことだが、この日本橋川の頭上に空が広がっているのは、河口から亀島川の分派地点までのほんの432mに過ぎない。それから先は首都高が覆い被さり、暗渠(あんきょ)のごとき様相を呈する。これまで歩いてきたなかでも、人との心理的な距離が最も乖離(かいり)している河川だ。

「こんな高速道路つくらなきゃよかったのに……」とつい勝手ながら思ってしまう。はたして船上の建設会社社員ハマちゃんは何を思っただろうか。ともあれ、上空の首都高の地下移設計画に期待するばかりだ。

さらに進むと昭和通りに架かる江戸橋。奇しくも12年前のこの日(2011年3月11日)、東日本大震災による交通マヒの影響で品川の会社から台東区の自宅まで歩いて帰った際、大勢の帰宅難民と一緒にこの橋を渡った。

そのとき、「陸上の交通手段が使えないのなら、日本橋川に船を運航すりゃいいのに」と冗談半分に思ったものだ。ちなみに、いま観光客向けの日本橋川クルーズが人気らしい。日本橋川の未来は明るいか?

江戸橋通過後、ほどなくしてゴール!日本の五街道の起点・日本橋だ!

道路元標や麒麟像、花形ランプ付方錘柱など、歴史的、文化的に見所の多い日本橋だが、「釣りバカ」ファンとしてはそんなものに目もくれず、《航路1》でハチが接岸しハマちゃんが下船したポイントを探す。

探すと言っても、橋の四隅を見てみりゃいい。おぉ、あった、あった。橋の南詰上流側に、ハチの船からハマちゃんが下り立った石造りのスロープが確認できた。やったー!ばんざーい!もう、ふくらはぎパンパンだー!

日本橋川全長5km(中央区新川~千代田区飯田橋)のうち、首都高に覆われていないのは、ほんの432m。
日本橋川全長5km(中央区新川~千代田区飯田橋)のうち、首都高に覆われていないのは、ほんの432m。
日本橋南詰上流側。ここが《航路1》におけるハマちゃん上陸地点!スロープ状の石積みは、そもそも接岸用の設備なのでしょうか?
日本橋南詰上流側。ここが《航路1》におけるハマちゃん上陸地点!スロープ状の石積みは、そもそも接岸用の設備なのでしょうか?

船通勤ははたして便利か?

散歩は終わった。でも、ここで終わっちゃ「さんたつ」の「釣りバカ」ファンの名折れだ。さらに追求したいことがあるーー今回、踏破した“「さんたつ」オリジナル ハマちゃん通勤航路”って、実際に船を使ったら所要時間はどれくらいだろう?

 

まず、地図でこの航路の全行程をざっくり測ってみると……約8.6km
船の巡航速度を20ノット(水上バスの約2倍)と仮定して……時速約37km
15ノットと仮定すると……時速約28km
で、20ノットの場合の所要時間が……8.6km÷37km=0.23時間
つまり約14分

同じく15ノットの場合……
8.6km÷28km=0.31時間
つまり約19分

ちなみに平日朝8時台の京急・北品川駅~都営浅草線・日本橋駅の所要時間は……22分(最速)

 

ってことはだ。ハチの出港準備時間や下船後会社までの移動時間を加味すると(実際、《航路4》では下船後にタクシーに乗り換えている)、船通勤も電車通勤もトータルの所要時間は大差無いように思える。快適ではあろうが決して便利ではないぞ!もちろんリアル《航路1》の鮫洲橋~勝島橋梁~京浜運河経由のルートを採れば、所要時間は当然もっと延びることだろう。

だいたい遅刻しそうだから、ハチに頼んで船通勤してたんじゃないのかよう、え?ハマちゃん?なのに通勤時間は大差無いなんて、それじゃ単なるハマちゃんのワガママじゃん!

たどった運河・河川32本、渡った橋123本(共に記事で触れていないものも含めて)という実に壮大な航海の結果がこれか?むなしい。なんかむなしー! 筆者のこの筋肉疲労を何とかしてくれーい!

まとめ:東京の水際は楽しいぞ

そんなハマちゃん通勤時間比較の結果はさておき、この通勤航路に沿った散歩自体は楽しい。かなり楽しい。なにより侮っていたのだ。東京の水際を……。

東京の水際と聞いて、まず思い浮かんだのが、たとえばモノレールの車窓に映る運河の暗色に染められた陰気で単一的な景色だった。しかし、今回、ハマちゃん通勤航路を辿りつつ、運河をはじめとした水際を歩いてみると、幾重にも織り込まれた歴史背景、親水公園化や諸々の再開発、産業構造の変遷の面影、水と空と緑の環境問題など、実に多様な側面がみられた。そのそれぞれに無限の刺激を受けた気がして、ワクワク感が止まらない。

毎度毎度ハマちゃんの通勤手段に使われるハチの迷惑も、東京の水際の復権にひと役買ったかと思えば報われよう。良かったなハチ!

文・撮影=瀬戸信保 イラスト=オギリマサホ