池袋東口で日常をpause(一時停止)できる場所

池袋の東口を出て5分ほど。サンシャイン通りの喧騒を背に、細い路地を進んでいくと、ぽっかりと抜けた一角に出た。たちまち時間がゆっくり流れ出す。古く低い建造物が並び、視界は明るく、車通りはゆるやか。歩道では、鯛焼きが焼けるのを待つご老人が談笑している。あまりの穏やかさに、池袋にいることを忘れてしまいそうだ。

小さな学校のような、ビンテージ感が素敵なビルの1階だ。
小さな学校のような、ビンテージ感が素敵なビルの1階だ。

さらに鬼子母神を過ぎると、「cafe」の看板がある薄黄色のビルが。ここの一階が『Cafe pause』だ。

「こんにちは」とドアを開けると、「こんにちはー」と陽気な声が返ってきた。おお!店内も明るい。大きな窓から太陽の動きがわかるくらい。

大きな窓から注ぐ日射しが心地いい。
大きな窓から注ぐ日射しが心地いい。

奥にいる男性がオーナーで店長の髙野翔さん。ランチ前の仕込みに大忙しの様子。こんな時間にすみません……。

オーナー兼店長の髙野翔さん(左奥)。ランチ仕込み中。
オーナー兼店長の髙野翔さん(左奥)。ランチ仕込み中。

開店20年の老舗カフェはみんなの「家」だった

「オープンして20年、僕がここで働き出してから19年、前オーナーから引き継いでオーナーになってから10年です(笑)」と髙野さん。以前は違う分野でプロフェッショナルのお仕事をされていたけど、料理をするのはもともと好きなんだそう。

「毎日ランチは3種類、ケーキも3、4種類用意しています。料理はもちろん、ケーキも手作りですよ」。

ハヤシライス スープ・コーヒー付き 1200円、土・日は1300円。
ハヤシライス スープ・コーヒー付き 1200円、土・日は1300円。

お客さんは若い人からお年寄り、たまに子どもなど幅広い層がやってくるので、みんながほっとできる味付けに仕上げている。洋食を中心に中華まで。たとえば麻婆豆腐は、辛すぎず山椒を効かせ過ぎず、旨味を大切にした味付けにする。

日替わりではないようだ。その日のメニューはどうやって決めているのだろう。

「バイトさんに何食べたい? って聞いて決めたりとか」(髙野さん)

「そうそう(笑)まかないのときに食べたいものをリクエストしちゃいますね」(アルバイトさん)

そうなの?

「ハイ。崩れちゃったりしてお客様に出せないケーキもいただいちゃってます。あ、店長、音楽これかけていいですか? 」(アルバイトさん)

和気あいあい。日差しでポカポカな店内に、スタッフさんの雰囲気が明るい!バイトさんにいろいろツッコまれても笑顔の店長。慕われているのがよくわかる。

「学生時代にここで4年間アルバイトして、就職が決まって送り出すじゃないですか。すると、また連絡があるんです。会社を辞めたから、次が決まるまで働かせてくれないかって。で、うちは受け入れる。で、就職先が決まったら去っていくけど、そうこうしてるうちにまた誰かが地方から戻ってきたり、2日間だけ働かせてくれとか」。

働きたい人がたくさんいるので、シフト表が勝手に埋まる。

「ありがたい」と笑う髙野さん。

おいしいメニューとほっとできる空気感。いいなあ。ここで働きたくなってきた。

スタッフ同士も仲がいい。
スタッフ同士も仲がいい。

食事にコーヒー、居心地の良さ 「出合い」を楽しむカフェでありたい

ギャラリーカフェとのことで展示スペースあり。アート作品を邪魔しないように、椅子は青をセレクト。
ギャラリーカフェとのことで展示スペースあり。アート作品を邪魔しないように、椅子は青をセレクト。

「飲食店なのに、あんまりSNSに力を入れてないんです」と髙野さん。

「今日のランチとかって投稿もあまりしませんし。大切にしたいのは、楽しみにお店を訪ねてきたお客様の、実際に料理を目の前にしたときの新鮮さとか喜び、ワクワク感なんですよね。だからメニューを見てもらえればわかりますが、写真が載ってない。絵は載ってるけど(笑)」。

ケーキセット 1000円。
ケーキセット 1000円。

うんうん、なるほど。わかるような気がする。

ほかに何かこだわっていることは?

「居心地がいいので、ゆっくりされていくお客様が多いんです。2時間とか、普通です。店の名前通り、一時停止してリラックスされるお客様のために、2時間経っても、最後の一口までおいしいというオリジナルコーヒーを開発しました。3年かかりました。自信作です。飲んでみます?」。

あ、これは……。おいしい。いつもはカフェオレな筆者ですが、ブラックでイケます。というか、口あたりにほんのりと甘味を感じる、繊細な味わいはブラックじゃないともったいない。

このオリジナルコーヒーは、豆バージョンと粉バージョン、好きな方を店内で購入できる。ネットでも販売中。

開発に3年かかった、オリジナルのコーヒー200g 1350円。
開発に3年かかった、オリジナルのコーヒー200g 1350円。

「一時停止」すれば、また歩き出せる

カウンターの上の棚には、カフェにしてはめずらしいほどの品数のリキュール類が。

もしやお酒もいただける!?

料理もスイーツも手作りとあって、大忙しです。
料理もスイーツも手作りとあって、大忙しです。

「そうなんです。バーではないのでひっそりと置いてありますが、けっこうな種類のリキュールが揃ってるんです。こんな味が好みなんですけどって教えてもらえればお作りすることもできますよ。

料理やケーキについても、何でも聞いてくれればスタッフがご提案しますので」。

30~40種類揃ったリキュールの瓶。
30~40種類揃ったリキュールの瓶。

お昼時。お客さんが次々と入店してくる。おいしいもの、特別なメニューは世の中にたくさんあるけれど、この店の空気感はここだけでしか味わえないと思う。
おしゃれなカフェに身構えてしまう、という人にはぜひ一度訪れてほしいと思う。

「一時停止しに来てください。そして、リフレッシュして日常生活に戻って、疲れたらまた戻ってきてほしい。『cafe pause』でスタッフ一同お待ちしてます」。

一時停止していきませんか?
一時停止していきませんか?

構成=フリート 取材・文・撮影=逸見チエコ

住所:東京都豊島区南池袋2-14-12 山口ビル1F/営業時間:月 12:00-17:00 / 水・木 12:00-20:00 / 金 12:00-23:00 / 土 11:00-23:00 / 日 11:00-21:00/定休日:火/アクセス:JR・私鉄・地下鉄池袋駅から徒歩6分 、地下鉄有楽町線東池袋駅から徒歩9分、地下鉄副都心線雑司ヶ谷駅より徒歩9分