すがすがしい緑に包まれた『牧野記念庭園』。足を踏み入れると、どこか遠くの森の中にいるような気分になる。植物分類学者の第一人者・牧野富太郎博士が、都心に出やすいのに自然が豊かな大泉学園を気に入り、大正15年(1926)にこの地へ。以来、晩年の30余年をここで暮らし、庭に愛情を注ぎ続けたという。
豊かな自然が育む練馬野菜が自慢です
牧野博士と同じように、暮らしやすい環境を求めて引っ越してきたのが、『スノウドロップ』の伊奈晶子さん。「新鮮でおいしい野菜が手に入る土地だと知って、お店をやりたいって思ったんです」。ランチには、周辺の直売所で仕入れてきた野菜をたっぷり使う。カレーにのせられた、みずみずしいツルムラサキの葉は生でパクリ。うまッ!
『ももも商会』の石倉詩子さんは、平日働いていると農産物直売所になかなか行けないという声を聞き、シェアスペースの『R』で自ら農家をまわって集めた野菜の販売をはじめた。住宅地にある『オハヨードーベーカリー』では店主・本橋由希子さんから、「『野坂農園』のハラペーニョはぜひ一度食べてほしい」とすすめられ、ブルーベリーのビールが人気の『伊勢屋鈴木商店』に行くと、「練馬の路地栽培の野菜は力強い味なんです」と聞き、どこにいっても野菜話が尽きない。それもそのはず、練馬区は23区で農地の面積が最大。住宅地のあちこちに広々とした野菜畑が点在し、農産物直売所は100カ所以上もある。
さらに、周辺には東京都内初のワイン醸造所である『東京ワイナリー』のブドウ畑まで。「無濾過でブドウ本来の味を大切にしています。野菜の旨味や苦みと合うんです」と、オーナーの越後屋美和さん。野菜栽培に適した栄養満点の黒ボク土が、ワインのボディに厚みをつけてくれるのだとか。
野菜とあまり関係がないと思った銭湯『たつの湯』で野菜が売られていたり、『関口ブルーベリー農園』にも直売所があったり、野菜とのつながりが想像以上。帰る頃には、採れたて野菜でカバンがいっぱい!
【緑に癒やされながら野菜を巡るプチトリップ】
来春の朝ドラのモデルに!『牧野記念庭園』
牧野富太郎博士が「我が植物園」として愛情を注いだ庭を垣間見られる牧野記念庭園。当時の雰囲気が残され、ダイオウマツや妻の名を付けたスエコザサなど珍しい植物も。2023年春の連続テレビ小説に、博士が主人公のモデルになる『らんまん』が決定し、注目度がじわじわ上昇中。
練馬野菜のおいしさを再認識『スノウドロップ』
野菜たっぷりの日替わりランチと天然氷のかき氷が人気の『スノウドロップ』。この日のスリランカカレーの白ゴーヤ、白ナス、万願寺トウガラシなどは、近隣の直売所で入手したもの。あんずのかき氷1000円は+100円で練馬産のブルーベリー付きに。器やカゴの販売、併設された真鍮(しんちゅう)工房の体験などの楽しみも◎。
入園無料だから何度でも大歓迎!『関口ブルーベリー農園』
練馬区に約30カ所あるブルーベリー農園の中でも古株の『関口ブルーベリー農園』。350坪の敷地に5品種・約220本が並び、歩きやすいように地面が防草シートで整備されている。収穫したブルーベリーは、100g250円で購入できる。今年の開園は9月中旬頃までの予定。
・水・土・日の9:30~11:30・15:30~17:30。
・入園無料
・☎090-6953-6999
パン屋なのにおもちゃがぎっしり『オハヨード―ベーカリー』
週2日だけ営業する『オハヨードーベーカリー』。母がパン、父が店番&おもちゃ、時々息子の蔵斗くんがお手伝い。長時間発酵で仕上げるパンは具材ぎっしりで食べ応えあり。青ネギカマンベール378円など近隣農家の野菜を使うことも。月1のおもちゃの日も人気。
ワイン造りは地域のみんなで!『東京ワイナリー』
2014年に誕生した『東京ワイナリー』。練馬区内8カ所の畑で育てたブドウで「ねりまワイン」を醸造している。ねりまワインファームメイトに登録した人たちが、栽培や収穫、醸造作業を手伝ってくれているそう。平日はワインの販売のみで、土・日・祝は地元の野菜料理とグラスワインが楽しめるカフェも営業中。
・11:00~17:00、水休。
・☎03-3867-5525
老舗の銭湯から新たな風が吹く⁉『たつの湯』
威風堂々とした趣がかっこいい『たつの湯』。地下150mという深井戸の硬水を薪で沸かしたやわらかな湯は、体の芯から温まり、高い天井や掃除の行き届いた空間も気持ちいい! 脱衣所での自家栽培野菜の販売のほか、3代目・本橋正季さんが企画するイベントなど、ユニークな試みにも注目。
ブルーベリービールでひと休み『伊勢屋鈴木商店』
店主・鈴木あけ美さんが「地域のために何かできたら」との思いではじめた『伊勢屋鈴木商店』の角打ちは憩いの場。練馬産ブルーベリーの発泡酒「ネリマーレン・ブルーベリーブロイ」700円、甘夏リキュール「ねりまさん」や牧野博士をモデルにした日本酒「ハナトコイシテ」各920円などを飲みながら和みのひとときを。
・13:00~22:00、不定休。
・03-3996-0084
楽しいことがどんどん拡大中『R』・『ももも商会』
のどかな芝生が目を引くアパートの一角にある「地域に開かれた空間」。シェアキッチンとシェアオフィスを営む『R(アーーーーール)』と提案型小商いスペースの『ももも商会』が並ぶ。それぞれ別々で活動しつつ、コラボイベントも開催。ここに来れば何かおもしろいことがある!
『R』の営業時間はInstagram:@rrrrre_spaceを要確認。
『ももも商会』は11 ~ 18時、不定休。☎︎なし(Instagram:@momomo.bz)
取材・文=井島加恵 撮影=加藤熊三
『散歩の達人』2022年9月号より