【本とZINEに親しむ4つの場所を巡る】
案内人 中西 功さん
①『BOOK TERMINAL』
「ここが僕の活動拠点で、カフェ構想もあるんです」(中西さん)
アンティークやまわりから譲り受けた家具で設えた、雑多ながらも雰囲気のいい穴ぐらのような空間。大テーブルでは打ち合わせやワークショップ、勉強会ができる。リソグラフもあり、ひっそりと作りたい人、歓迎! 利用は応相談。
自作のZINE(個人が作る小冊子)を手にするのは、2022年8月末にオープンした『ZINE FARM TOKYO』のメンバーの皆さん。イラストが楽しいカレンダー、今の気持ちを表現した絵、情報満載のイラストマップなど作品はさまざまで、リソグラフ印刷機がバッタンバッタンと軽快に動くなか、自由な発想のZINEがどんどん生まれている。「吉祥寺をZINEの街にしたい」という中西功さんのスケールの大きな構想が、着々と具現化していて、中西さんも皆さんも、楽しそう!
②『ZINE FARM TOKYO』
ここで作って、ここで売る。初心者もトライ!
夏にオープンしたばかりのZINE専門店。13色使えるリソグラフがあり、インクのにおいに包まれつつ作って販売できる貴重な場所だ。メンバーになれば1時間500円、製版1回100円、印刷1枚2円(用紙は持参)で利用可能。目下、メンバー募集中。
・吉祥寺駅から徒歩5分。13:00~17:00、月・火・木休。吉祥寺本町2-25-7 ☎なし
何かを作る人の力に。インフラを整えたい
昨今のこの様子だけを眺めると、わずか半年の快挙に感じるが、中西さんの本仕事のスタートは、2013年開店の『無人古本屋 BOOK ROAD』(三鷹)だった。
「ここを作った時は、まだZINEについて知らなかったんです」と、振り返る。当時は会社勤めをしていたが、「本屋さんっておもしろそうだな」と思い立ち、働きながらできる無人販売のスタイルを構築。やってみたら想像以上に手応えがあり、「みんなも本屋さんになればいい。きっとやりたい人がいるはずだ」
そうして生まれたのが、シェア型書店『BOOK MANSION』だった。2018年に3階建ての元レストランを借りて少しずつ改装、2019年7月、地階に正式オープンした。
階上の使い方は現在も模索中で、新しい試みとして1階にコーヒー豆の小型焙煎機を設置。手焙煎にチャレンジできる場を開いた。自分で焙煎して、挽いて淹れて、味わいたい人は要チェックだ。
さて、『BOOK MANSION』では、棚主(=書店)になっても劇的に売れて儲かるわけではないが、自分の書店(=棚)が吉祥寺にあるのがうれしいもの。本の入れ替えや補充で棚主同士が顔を合わせると本談義になり、コミュニケーションが広がっていく。そんな中、中西さんは、ZINEに出合う。
「すごくおもしろくて、可能性を感じたんです」。2020年冬にZINEが大集合するイベントを発案、同時に作り手との交流が始まり、作る場所も売る場所も少ない現状を聞いた。
「だったら作って売る場所を作ろう。みんな喜んでくれるはず」
“吉祥寺ZINEの街構想”がスタートしたのはこの頃で、『BOOK MANSION』の運営がようやく落ち着き、中西さんが不在でもうまく回るようになっていた。徒歩5分圏内に、『BOOK TERMINAL』、『BOOK ROOM』になる物件を借り、ZINEと相性のいいリソグラフを購入。少しずつハード面を整えていった。
③『BOOK MANSION』
80の小さな棚を皆でシェア。自作ZINEを売る人も
シェア型書店の元祖的存在。オープンして丸3年になるが、今も全国から視察があり、培った運営ノウハウも広くシェアしている。棚主になれば店番も体験できて、自分で製作したZINEを読者に直接手渡せるいい機会になる。
・JR中央線・京王井の頭線吉祥寺駅から徒歩5分。13:00~17:00、月・火・木休。吉祥寺本町2-13-1 ☎なし
④『BOOK ROOM』
いつかここで個展を開く!そんな夢を持つ人も
誰かの小さな書斎のような空間は、壁面や棚上がギャラリーになる。すでに活動中のアーティストの発表の場になっているが、『ZINE FARM TOKYO』で作品を作り、初めての個展をここで開くというストーリーも素敵。
・吉祥寺駅から徒歩8分。営業日不定。利用料金など詳細は要相談。武蔵野市吉祥寺本町4-7-1 ☎なし
わいわい楽しく、作りながら学び合う
目下、中西さんは、冒頭で触れた『ZINE FARM TOKYO』に常駐している。
「リソグラフの使い方を僕自身がまだ理解してなくて。利用する人に質問されて、一緒に考えています」
現在メンバーは50人ほど。毎週通う人もいて、近い将来『BOOK MANSION』のように、メンバーが店番、みんなで運営できるよう下地を作っているところだ。
メンバーの手応えはとてもいい。「リソグラフを自分で自由に使えるのが魅力」、「刷り色がたくさんあるのがすごい」、「早く店番したい」など、この場所の誕生を喜んでいる。
「雑に作りながら、おもしろい使い方、できることを共有して、教えあったり考えたりしていきたい」と、中西さん。メンバー同士で切磋琢磨すれば、きっといいものができる!
何かを作りたい人のために、奮闘して築いた4つ、いや5つの場所。
「ぐるっとめぐるツアーをして、各所の役割とつながりを体感してもらってもいいかな」と、今日も新しいアイデアがわく。
めぐるときっと何か作りたくなるだろう。そんな時のために『ZINE FARM TOKYO』がある。作りたくてうずうずする人を、中西さんがにこにこ歓迎してくれる。
『ZINE FARM TOKYO』でリソグラフ印刷にチャレンジ!
原稿をスキャンして製版、好きな色で好きな紙に印刷するリソグラフ。具体的な手順は? コツや技はあるの? 説明を見聞きするよりやった方が早く理解できる!というわけで、「印刷の達人」ではない本誌編集部員がZINE作りに挑戦。失敗あり、発見あり。この日たまたま居合わせたZINEメンバーの皆さんに見守られながら悪戦苦闘した約1時間半を記録する。
1.データを持ち込む
原稿は文字・写真・イラスト、手書き切り貼り何でもOKだが、ファイル形式はPDF、USBで準備。2色刷なら各頁、各色の原稿が必要だ。
2.インクは自分でセット
インクカラーは13色。使いたい色を選び、印刷機のドラムにセットする。中西さんや慣れた人と一緒に作業しながら手順を覚える。
3.試し刷りを重ねよう
2色を重ねた感じはイメージ通りか。2つの原稿がずれていないか。まずは試し刷りで確認。必要ならば修正・調整して、再度試し刷りを。
4.心強い先輩もいるぞ
ショック! タイトル文字がうまく出ない。するとそばから「白抜きがいいかも。手伝いますよ」との声。(1人だと妥協していたかも……)
5.用紙選びも大切
印刷する用紙を変えると、仕上がりの表情ががらりと変わる。これもリソグラフのおもしろさ。好み、センス、気分次第。正解なんてない!
6.だんだんできてきた
A4 2つ折り、4面印刷、全8ページ。ティールグリーンと蛍光オレンジの色合いがレトロ感あっていいし、写真が想像以上にクリアだ。
7.製本や加工もここで!
印刷は1分間で約190枚なのであっという間。紙裁断機、折り機もあるので、すぐに仕上げ作業ができる。今回は手折り・中綴じにする。
8.できあがり!
中綴じができるホッチキスで2カ所バッチン。思ったよりもかっこいいZINEが完成。皆さん、ご指導ありがとうございました。
注目イベント「吉祥寺 ZINE FESTIVAL vol.4」
吉祥寺パルコ屋上に作り手が大集結する『ZINEフェス』。中西功さんが企画して2021年春に初開催。発表の場を欲していた出店者と、ZINE好き来場者の出合いの場となり大好評。待望の4回目が2022年11月12日、10:00~17:00に開催。(雨天の場合は13日)。作り手と読み手の垣根がない雰囲気の中、ZINE三昧の1日を。本誌編集部も出店予定!
取材・文=松井一恵 撮影=加藤熊三
『散歩の達人』2022年11月号より