【仕掛け人】中西 功さん
ブックマンション管理人。会社員時代に作った無人古書店『BOOK ROAD』を皮切りに、本と本屋の可能性を模索するなかZINEの街構想に着手。界隈をパパチャリで往来する。
ZINEは軽くて自由な小冊子
壁一面に本棚が並ぶユニークな本屋『ブックマンション』に、棚主4人が集まって、ミーティングの真っ最中。みんなでZINE(ジン)を作ろうとしているのだ。
そもそもZINEって何なんだろう? 『ブックマンション』管理人の中西功さんに質問すると、「自分の思いを表現して、印刷して、パチッと綴じる。それだけでもうZINEなんです」との答え。なんともラフで軽やかで、おもしろそうではないか。
「いや〜、めちゃくちゃおもしろいメディアなんですよ」
中西さんがこのおもしろさに開眼したのは、2020年の冬。東京周辺でZINEを作っている人が集まるイベントができたらいいなと思い付き、すぐに行動開始。SNSで呼びかけて参加者を募った。同時に、会場を探し、地元不動産店の紹介で『吉祥寺パルコ』屋上で開催する話が進み、記念すべき第1回が翌年3月に決まった。準備期間はかなり短かったが、70人もの作り手の出店があり、ZINE好きやこれからZINEを作ろうという人でにぎわい、大成功だった。中西さん曰く「正直、あんなに大勢が集まるとは、思っていなかったです。ZINEの力ってすごいなあと感じました」。
この日、筆者は会場で中西さんと立ち話をして、「吉祥寺にZINE工房を作って、ZINEの街にしたい」と、夢みたいな構想を、確かに、聞いた。その後、『ブックマンション』徒歩5分圏内に着々と物件を借り、構想を実現していったのだ。
フェスがきっかけでZINEの輪が広がる
『吉祥寺ZINEフェスティバル』は回を重ね、定着の兆しが。紙のメディアをこよなく愛する『ブックマンション』の棚主たちも、もちろん、毎回注目している。
「11月のフェスに行った時、棚主さんが多数参加していることに気づいたんです」とは、にちようだなさん。棚主仲間のtanabotaさんとおしゃべりをした時、「『ブックマンション』のZINEがあればいいね」と、意気投合。
「みなさんの棚の写真を並べるだけでなく、棚主さんの紹介を載せたらおもしろいものになるに違いない。編集やDTP、本づくりに慣れている人が多いから、きっとできると思いました」と、tanabotaさんは振り返る。メンバーはあれよあれよと集まり、中にはZINE作り経験者も。
ぽんやさんは、中西さんに「ZINEを作ってフェスで売ってみたら?」と声をかけられた。路上観察が好きで写真を撮りためていたぽんやさん。思い切って一冊にして、フェスに参加した。
「思っていたよりも手応えがあってびっくりしました。こんなものに反応してくださる人がいるなんて、まさかのまさかでした」
tanabotaさんは、「小学6年生の息子が描いた絵をまとめて、作ってみたんです」。フェスには家族で参加した。LaLaLaBooksさんはすでに3冊も作っている、頼もしい先輩だ。
ミーティング、いや、編集会議は、持ち寄ったさまざまなZINE(写真参照)をめくりながら。「薄かったり分厚かったり。好きなように表現していいんだね」「自由度が高い感じ!」「印刷や製本は雑でも、内容がすごくて、びっくりする」などと、ZINE談義を繰り広げながら、自分たちがこれから作ろうとするZINEをイメージ。
「何部くらい印刷しようか」「『ブックマンション』だし、型は縦長にしても? でも大変かな」
とても楽しそうで、そばで聞いているこっちもわくわくしてくる。
発行予定日は、3週間後のフェスだ。
印刷は開店ほやほやブックファームで
「著名な人が作る本はすごいけれど、素人っておもしろいじゃないですか。“これ”しか知らないけど、“これ”についてとことん詳しい人が、表現するんですから」と中西さんは話す。今回、みんなで作るZINEは、『ブックマンション』をよく知る棚主だからこそ表現できるものになるだろう。
表現の手段、要となる印刷機はリソグラフを選び、ZINE作りの工房となる『ブックファーム』に導入。早くて安くて、カラフルなのが魅力で、ZINE好きを魅了する強い味方だ。
「創意工夫して表現できるし、印刷のズレの味わいもいい感じになるんです」
目下編集中のみんなのZINEは、オープンほやほやの『ブックファーム』にて、リソグラフを使う予定だ。ここで手を動かして、形にする。それを『ブックマンション』や『ブックルーム』、さらに今後定期開催するであろうフェスで読者に直接手渡し!
「委託販売もいいですが、実際に手渡す場所があると、作り手が思いを伝えられる。これが大切だと思うんです」と、中西さん。
「実は、Tシャツに印刷できる機械も導入しました。ZINEといっしょに幅広くものづくりができる場所にしたい。何か作りたい人が集まる街にしたいです」
『ブックマンション』詳細
取材・文=松井一恵 撮影=原 幹和
『散歩の達人』2022年4月号より