台湾人なら思わずニヤリとする店名の意味
場所は新宿駅と新宿三丁目駅に挟まれた至極便利なエリア。ちょいと裏筋に隠れていて、落ち着いている感じもいい。店名の「合作社」は学校の購買部のこと。日本人にはピンとこないが、現地育ちの台湾人なら思わずニヤリとする洒落た店名である。そのあたりのセンスからして本物感がつゆだくだ。
台湾ティー&タピオカティーの「一芳」の跡地を引き継いだ店内は、奥に長く、レンガ柄の壁面のレトロかつポップな雰囲気。突き当たりの注文レジに行く途中、壁際の席でおしゃべりに興じるお客たちの現地語が自然に耳に入ってくる。ほんと台湾みたい。
店舗の入り口の上や壁でやたら存在感を放っている顔はトレードマーク。しんねりした桃太郎みたいなコレって店主さんがモデルなんですか? と訊ねたら、黃さんにキッパリ否定されてしまった。いかにも購買部を愛用していそうな“台湾のガキ”をイメージしたものなんだとか。どこまで行っても現地ノリである。
黃さんは台中の生まれ。兄が日本に来ていたのがきっかけで2015年来日、まだ若いが台湾人らしい開拓精神にあふれている。供する小吃の味へのこだわりは半端ではない。家庭で学んだレシピだというが、驚くほど本格的でうまい。
特別高級な食材を使っているわけではない。台湾ならではの調味料を使いつつ、丁寧に作っているからこそ出せる味なのだろう。メニューの種類は豊富。食べ物16種、スイーツ8種、飲物19種、これに季節毎に異なるメニューも追加する。初めは品数を絞り込もうと思っていたが、他の料理も食べてみたいという周囲の声に押されて増えていったとか。一度行っただけではとても制覇しきれない、台湾小吃のパラダイスや。
台湾の軽食たちがよりどりみどり
代表的な品を紹介していこう。まずは雞排(ジーパイ)。トリ肉の塊を平たく伸ばして揚げた、豪快な屋台料理である。都内でもあちこちで食べられるようになってきたが、大味な唐揚の域を出ないものが多い。こちらは地瓜粉(サツマイモの粉)をしっかり使った、表面サクサク中身ジューシーな口当たり。ちょいスパイシーな下味との相性もいい。コレコレ!この味だよっ、とうなずく台湾人が多いのも納得。
一方で一口唐揚げの鹽酥雞(イェンスージー)は、いわゆるトリ唐だ。雞排との衣の違い、写真でなんとなくわかるだろうか。切り身が小さい分サクサク度が高く、味はさっぱりめ。また揚げ物は甜不辣(ティェンブーラー)も食べられる。発音からなんとなくわかる通り、日本由来の揚げ物。でも「天ぷら」そのものではなく、練り物を揚げたもので、弾力ある独特な歯ごたえが魅力。いずれも胡椒・唐辛子・梅パウダーいずれかを選んでかけて食す。
台湾バーガーの名で定着してきた割包(グァバオ)。蒸しパンに豚の角煮、高菜の油炒め、刻みピーナツ、パクチーをはさんだもの。ぶ厚い角煮に、刻みピーナツをたっぷりまぶした絶品。都内でもトップクラスのおいしさ。肉のぶっかけメシである豚挽肉のルーロー飯と鶏肉版のジーロー飯は、いずれも器が現地と同じ小サイズで、やや甘めの味つけ。味玉(+86円)の取り合わせが具合良い。
おなじみの豆花も名品なり。中でも「定番人気お爺ちゃん秘伝豆花」は粉粿(フングエ=キャッサバのゼリー)とタピオカ、ピーナッツのみというシンプルなトッピングで、古早味(グウザオウエイ=昔ながらの味)が楽しめる。豆花のほどよい口当たりがたまらない。豆花の写真に添えた飲みものは、自家製パイナップル緑茶ティー。台湾緑茶とパイナップルの甘味の相性のよさにノドが鳴る。
台湾の都会のリアルな味と雰囲気
さらには朝食の定番、ひと味違う台湾流ハムエッグトーストまで味わえるときている。東京にあって客の半分ぐらいが台湾人というのも納得の味と雰囲気なのである。席数は少なく、カウンター席メインなので、テイクアウトか、さくっと食べて帰るのが望ましいスタイル。混雑を避けるなら平日の14時~夕方あたりが狙い目。
以前紹介した浅草橋の『家豆花』が台湾の田舎、屏東あたりのリアルな味と雰囲気ならば、『合作社』は都会の街中のリアルな味と雰囲気。台北の西門のはずれとか、台中の逢甲大學近くにそのままあってもおかしくない。
どちらも甲乙付けがたい店なので、使い分けてみるのもまた一興なり。
取材・文=奥谷道草 撮影=唯伊