幅広い年齢層がひしめく北千住なら、誰にでも愛される「みそ」で勝負する
味のある商店街に銭湯、名酒場など名実ともに“味な街”として知られる北千住。近年では土地開発が行われ、高層マンションやビルが立ち並び、大学を誘致したおかげで若いファミリーや学生なども流入。昔ながらの雰囲気を残しつつ新しい魅力が加わってきた。
2018年オープンの『麺屋てぃーち』も北千住に舞い込んだ新しい風のひとつ。数軒のラーメン店で修行してきた店長の鈴木隆太さん渾身の一杯が地元民を癒やしている。
「地方公務員になる夢を持ちながら、学生時代からずっとラーメン屋とか居酒屋とか飲食店でバイトをしてきました」と鈴木さん。目指していた公務員になるぞ! というところで父親が倒れてしまい、両親が経営していた居酒屋を手伝うことになり、公務員は諦めなくてはならなくなったそう。
ほどなくして、埼玉で会社を経営しているいとこから「ラーメン屋を出してみない?」と声をかけられてこの店をオープンすることに。
物件もトントン拍子で決まった。店は駅から少し歩いても、通勤や通学導線にあたるし、周辺に区役所や信用金庫などで働く人たちもいる。駅前から続くほんちょう商店街には大きなマンションもできたし、休日はファミリー客も期待できそうとの読みも的中した。
コクもあるのにキレもある! 3種の合わせ味噌が決め手のみそらーめん
鈴木さんは食べ歩きが趣味で、ラーメンは作るのも食べるのも大好き。長年の経験から人気ラーメン店に関するさまざまデータは頭にあったという。
「本格的な九州とんこつラーメン店で長く働いていたので、ノウハウはあるんですけど、九州とんこつは好きな人はそればっかり食べるのに、嫌いな人は一切食べない。嗜好性に偏りがあるし、北千住の駅前には有名店や競合店も多いことを考えたら、看板メニューは老若男女に好まれるみそとしょうゆで勝負しようと決めました」。
「はいっ、どーぞー!」と、鈴木さんによりあっという間にテーブルに届いたみそらーめん。中太のちぢれ麺を持ち上げると大量の湯気がもわんと立ち上がり、香ばしい味噌の香りが鼻をくすぐる。鶏ガラ、トンコツ、昆布を8時間煮込んだスープに、濃厚だがキレのいい味噌が合う。味噌汁みたいに毎日飲みたくなる、そんな親しみやすい味わい。
目指したのはコクもあってキレもある札幌系のみそラーメン。ベースの味噌は北海道産、信州産とプロショップで仕入れる味噌、さらに香辛料のほか調味料を加えてラーメンに合うよう考案した。
第二の故郷、沖縄の味をメニューに。その味はネイティブ海んちゅのお墨付き!
この店の個性が際立つキーワードとして“沖縄”がある。麺メニューに沖縄そば、サイドメニューにタコライス、じゅうしーに、夜限定のおつまみにはポークたまごやラフテーまで揃う。鈴木さんは埼玉育ちだが、ご両親やいとこのオーナーたちが沖縄育ちだけに、しっかりとDNAに刻み込まれている。いわば沖縄は第二の故郷なのだ。
「ラーメン屋なんですけど、飲みにきてもらえるだけでもいいんです。夜は日替わりのおつまみメニューも充実していますし、自分が食べたい気分のときは数量限定でカレーも出しちゃいます(笑)」と鈴木さん。
「沖縄のメニューは両親の店を手伝っていたので、本格的な味だと思います。沖縄そばは、肉以外は沖縄から直送で仕入れた材料で作っているんですけど、沖縄人を集めて試食してもらい、お墨付きをもらったので自信があります!」
ところで、お店に入る前から疑問だった店名「てぃーち」とは一体なんだろう……? 筆者は自宅を出てから店に着くまでの1時間強、ずっと考えていた。
予想その①安定した営業ができる願いを込めて「定位置」から。予想その②何かを教える、教わるを意味する英語のTeach。予想その③シンプルに店長のあだ名。……さて、真意はいかに⁉ 鈴木さんに聞いてみた。
「ものを数えるときにひとつ、ふたつ、みっつ……っていうじゃないですか。沖縄ではてぃーち、たーち、みぃーち……って数えるんです。ここがひとつめのラーメン屋なので『てぃーち』、この先2店舗、3店舗と続けて出店できればいいなと思ってこの名前にしました」。
ランチタイムは近隣で働く人たちのお腹を満たし、ディナータイムは1日がんばった人たちを癒やす憩いの場となっている。遅めのランチでフラリと立ち寄る人も少なくない。誰でも親みやすい味と価格。「たーち」や「みぃーち」もそう遠からず出店するんじゃないだろうか。
構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=パンチ広沢