元気のいい掛け声につい引き寄せられる店
浅草寺へとまっすぐに伸びる仲見世通りを人々が行き交う。そこでひときわ威勢のいい声が響く店がある。『浅草 きびだんご あづま』だ。その声にお客さんが次々と店頭に吸い寄せられる。
限られた店先のスペースで、売り子さんが手際よくきびだんごを茹で、きなこをたっぷりとまぶす。その無駄のない動きはまるでショーのようで、ずっと見ていても飽きることがない。
『浅草 きびだんご あづま』は近くにある食事処『うまいもんあづま』の姉妹店で、江戸時代に浅草の仲見世に実在したというきびだんごの店の味を再現している。なんでも江戸時代に書かれた本の中に記録があるのだとか。
これはロマンがあるではないか。今と同じように売り子がお客に元気のいい掛け声をかけていたのかも、なんて考えるのもまた楽しい。
きびだんごの味やいかに?
生まれて初めてきびだんごを食べてみた。『あづま』のきびだんごは添加物を一切使っていないため、少し時間がたつとどんどん硬くなる。だから出来たてを味わってほしいと横のカウンターでお客さんに食べてもらう。筆者も冬の時期ならではの甘酒150円と一緒にきびだんごをいただいた。
しっかりとした歯ごたえ。甘みもあって味が濃い。「お腰につけたきびだんご」は大きくてまん丸のイメージであったが、『あづま』のきびだんごは店頭で売り買いしやすいよう串に刺し、きなこがまぶしてある。
そうか。江戸の庶民も浅草寺のお詣りついでに、こんな風にきびだんごを頬張ったのだろうか。
5本セットで400円。5本も食べられるかなあと思うが、なにしろ小ぶりなサイズだからあっという間にペロリといけてしまうのだ。これは食べ歩きグルメとしてもちょうどいい量だろう。あるいは友人同士でシェアしてもいいかもしれない。
『あづま』のきびだんごの原料は「たかきび」と呼ばれる雑穀で、ポリフェノール、ビタミンなどの栄養バランスに優れ、食物繊維もたっぷりの健康食品だ。だんごはたかきびの色でほんのりとピンク色に染まっている。もちもちとした食感を出すため、白玉粉と配合し、それをだんごにしたものを串に4つずつ刺している。店頭ではだんごを1分ほど茹で、砂糖ときなこをたっぷりとまぶして熱々をお客さんに提供する。
生粋の地元っ子の目に映る浅草とは
『あづま』で仕事を始めて7年という和田さんが、忙しく立ち働きながらも話を聞かせてくれた。浅草生まれ浅草育ちの和田さんだが、以前は仲見世通りを歩くことはほとんどなかったという。浅草に住む人にとって、仲見世は観光客が足を運ぶ場所。行くのはせいぜい友人が浅草に遊びに来たときくらいだった。
『あづま』で働き始めたのをきっかけに、それまでは意識することのなかった地元浅草に目を向けるようになったという和田さん。最近は新しい店も増え、どんどん様変わりしているそうだ。筆者のもつ浅草のイメージはどうしても仲見世のイメージが強い。しかし和田さんの話を聞いていると、どうやら仲見世周辺には、観光客がまだまだ知らない(あるいは時間が足りずに足を運べない)穴場の店がたくさんあるようだ。
「浅草はちょっと変わったおもしろい店もたくさんあって、新しいものと古いものが一緒になったディープな街ですよ」と和田さん。
「以前は街がどんどん変わっていくことに寂しさを感じたこともあリました。でもそうやって時代は変化していくのかな、って今では思っています」。
店を訪れる人も老若男女さまざま。「きびだんごなんて懐かしい。昔は近所に売りに来ていたのよ」と話すお客さんがいる一方で、若者たちにとってきびだんごは未知の味。とても新鮮に感じるようだ。
訪れる人たちそれぞれが、十人十色の楽しみかたができる街。それが浅草なのだろう。仲見世通りで元気のよい声をあげながら、和田さんは今日も浅草の変化を楽しんでいる。
構成=フリート 取材・文・撮影=千葉深雪