花屋の奥でひっそりと営業する隠れ家カフェ
吉祥寺駅から徒歩で約6分の路地に佇む『吉祥寺ひとくさ/くろもじ珈琲』。植物が並べられた外観は一見するとカフェがあるとは気づかず、通り過ぎてしまいそうになる。
入り口は、建物の右側にひっそりとある。カフェメニューが書いてあるので、この奥にカフェがあることに気がつけるだろう。
店内に入ると、手前が花屋、奥がカフェになっていた。どうして花屋とカフェが併設しているのか、カフェスタッフの垣内さんに尋ねてみた。「オーナーが庭師をしているんですが、花や緑のある空間でお茶や珈琲などを楽しんでいただくことで、今まで植物に興味がなかった方にも植物のよさを感じてもらいたいと思ったそうです」。
そのため、カフェ目当てで訪れたお客にも「まずは植物に目を留めてほしい」という願いから、入り口付近に植物をディスプレイしているのだそう。
オーナーが庭師をしていることもあって、『吉祥寺ひとくさ』は一般的な切り花をメインで販売する花屋とは少し異なり、山野草を中心とした植木や鉢で育てる植物を多く揃えている。季節によって、店内に大きな植木を飾ったり、カフェの机上に紅葉したモミジを飾ったりとディスプレイを工夫することで、お客に“植物で四季を感じる楽しさ”を提案。それと同時に、月に1回、寄せ植えやコケ玉作りのワークショップを開催するなど、草花と触れ合う機会も提供している。
また、新しい取り組みにも積極的だ。店内で2年ほど前から販売しているのは、自家製のはちみつ。オーナーが自然豊かな埼玉県の飯能市に養蜂場を持ち、その恵まれた環境の中でのびのび暮らす蜂たちが集めた百花蜜を販売している。百花蜜とは複数の種類の花から採れた蜜のことで、季節ごとに味わいの変化も楽しめる。
自家製のチーズプリンと華やかなくろもじ茶で、ほっと一息
店内奥にある『くろもじ珈琲』は本店が西荻窪にあり、ここが2号店となる。吉祥寺店は“工場の跡地”をイメージした洗練された空間。壁の塗装からテーブル作りに至るまで、ほとんどがオーナーをはじめとするスタッフたちで手掛けたという。工場跡地の無機質さを表現しつつも、色とりどりの花や古道具などが置かれた店内は、温かさにあふれていた。
また、カフェメニューは西荻窪の本店と同じものや、垣内さんが考案した吉祥寺のオリジナルメニューなどが混ざっている。この日は、両店で人気が高いという自家製のチーズプリンと、くろもじ茶をいただくことにした。
くろもじ茶は、主に和菓子を食べる際の高級楊枝の材料として使われる植物「クロモジ(黒文字)」から作られたお茶。日本のお茶なので素朴な味わいを想像して飲んでみると、ハーブティーのような華やかな香りに驚いてしまう。紅茶とも日本茶とも少しちがう、リラックスできるアロマとすっきりとした飲み心地は、一度出会ってしまうと忘れられそうにない。カフェインレスなのも魅力的だ。
店内にはお土産用として茶葉も売っているので、気に入った人はぜひ自宅でも楽しんでほしい。
真四角の形が印象的なチーズプリンは、生地にクリームチーズを入れた甘さ控えめのプリンだ。チーズの酸味とほろ苦いカラメルがひとつになり、なめらかな舌触りも相まってまさに夢心地。最後の一口まで夢中になって食べ進めてしまい、あっという間に平らげてしまった。また、プリンの横に生クリームとともに添えられているハーブは、オーナーが養蜂場の近くに持っている農園で育てられたもの。爽やかな香りが鼻をくすぐるハーブは、濃厚なプリンと相性バッチリだ。
プリンやお茶の美味しさと緑に囲まれた空間との相乗効果で、メニューをいただいたあとは元気がチャージされている感覚になった。植物とともに食事をすることは、せわしない日常にちょっとした潤いを与えてくれる。『吉祥寺ひとくさ/くろもじ珈琲』は、吉祥寺の町でひっそりと、訪れた人々の心を癒やしてくれる秘密基地のような場所だった。
取材・文・撮影=稲垣恵美