正方形の画面に大きなPの字に自転車のピクトグラムと赤い矢印。大胆な配置がかっこいいじゃないですか。20世紀のポップアートを思わせます。しかも、この線路沿いの塀には同じ看板が何枚も貼られていて、劣化状態がそれぞれ微妙に異なるのです。
歩きながら順に鑑賞していくことにしましょう。
最初の作品よりずいぶんと荒々しいタッチなのがわかりますか?
重ねて貼られたテープがめくれ上がり、油性ペンの落書きも加えられ抽象表現主義風な仕上がりです。
西日を浴びて色がずいぶん浅くなり、突起が長い影を引いているのもドラマチックです。
文字の部分が白いテープでことごとく消されているのは人為的なものですが、駐輪場自体は変わらず運用されているのでおそらく管理者や名称に変更があったのではと想像します。Pと自転車のマークと矢印さえあれば案内板としてはじゅうぶん機能することから、掛け替えられずにそのままになっているに違いありません。
続いて、こちらも線路脇の工事現場の仮囲いの塀で見つけました。
何か工事のお知らせのポスターが繰り返し貼られては剥がされて自然に生まれた痕跡なのでしょう。長い壁いちめんに連なる大小の四角形がリズミカルに重なり、壁画のような効果をもたらせています。
マイケル・ジャクソンのアルバム・タイトルにもなった「オフ・ザ・ウォール」は英語で「群を抜いて優れている」、つまりは「抜群」という意味の慣用句ですが、まさに壁から離れて(剥がれて)できあがったバツグンの傑作です。
これは珍しい半立体のレリーフともいえる作品です。
文字の書かれた表面が煤けたように変色しているのはともかく、この湾曲した形は初めて見る形です。
一体何なのかと近寄ってみて謎が解けました。このボードは木製ではなく、分厚いボール紙製だったのです。雨ざらしにされて水気を吸った重みで少しずつたわんでは乾いてを繰り返した結果こんな形になったのでしょう。重力という見えない物理法則が可視化されたなかなかの問題作です。
駅の近くの住宅街で、大きな額縁に収められた素晴らしい絵に出合いました。本当は掲示板なのだと思いますが、何も貼られていないためまるで平面作品のような存在感に満ちていました。全面に施された塗装の染み具合が何とも味わいのある木目模様を浮かび上がらせています。
思わず足を止めてじっと眺めていたら、まるで暗い水面を映しているかのようにも見えてきます。もしかしたらオーナーの方ももう何も掲示したくないのかもしれない──そんな禅の境地すら垣間見えてくる美しい無言板です。
文・写真=楠見清